再会からの・・・
「元気してた〜?」
陽気なセリフと共に現れたのは3大神の1柱であり、シンをこの世界に送った張本人、ピトエムだった。
「えっ?だ、誰?って、シン?!」
「私はね、ぶべらっ」
ピトエムはアリシアの質問に答えることは叶わなかった。何故ならピトエムの顔面にはシンの拳がめり込んでいたから。
「ちょっとシン!何で?」
「痛いなー、酷いよ飛鳥くん。あ、今はシンくんか」
シンが殴ったにも関わらず、ピトエムは平然としていた。殴られたはずの顔面には痣も無く、元の綺麗な白肌のままだった。
「ようやく借りを返せると思ったのに平然としやがって」
シンがワナワナと怒りに震えながらピトエムを視線で射殺さんと睨みつける。アリシアとルジュールはまだ状況を飲み込めておらず2人でアタフタしている。
「まーまー。落ち着いてよ。私もあの時のことは反省してるんだよ?私が口足らずでごめんね」
「相変わらず飄々としているのが気に入らないけど、1発入れてやったからもういい」
「けど、こっちでの人生は悪くなかったでしょ?」
「悪くなかったよ。悪くなかったんだがな……何回父さんに鍛練と称されて殺されかけたかお前は知ってんだろ!ピトエム!」
「あーあれね。うん、まぁ、ご愁傷様?」
「やっぱりもう1発殴らせろ」
「女の人の顔面を2回も殴るのはお姉さんどうかと思うよ」
「お前は人じゃないだろ。だからOKだ。問題ない」
「あーもー。ちょっとー、そこ2人も見てないで止めてよー」
ピトエムがわざとらしく困った顔をしながらアリシアとルジュールに救援も求めた。当の2人もやっと正気に戻って慌ててシンを止めにかかる。
「シン、誰だか知らないけど手を出しちゃだめ!」
「もう既に出しているがな……取り敢えずやめておくのだシン殿」
「アリシア!ルジュール!やめろ!止めるな!」
2人でほぼ密着状態になりながらシンをなんとか静止させる。こんなことでも2人の頬は若干赤みを帯びているとなると、アリシアもルジュールも聖女でも騎士でもない、まだまだ恋する少女だということがよく分かる。
シンが2人に止められたところでアリシアが疑問を口に出す。というかとても基本的なことを。
「で、あなたは誰なんですか?どうしてシンが怒ってるんですか?」
「ぶっちゃけて言うとピトエムっていうんだけど、知ってる?」
「ピトエムって、3大神の1人のピトエム様ですか?!」
「そう、それ私」
「ええええええ?!」
アリシアは驚きの声をあげた後にピトエムに敬うように頭を下げる。
「も、申し訳ありませんでした!」
「気にしないでー。で、シンくんが怒ってる理由だっけ。まぁ私に原因があるっていうのは確かにだけどね……シンくんはまだ告げてないようだし、簡単に説明できるようなものでもないしね。どうするのよ飛鳥くん」
シンがピトエムに怒っているのは転生させたことではない。ろくな事情説明もせずにトントン拍子に転生させられたことに怒っているのである。そして、シンはまだ誰にも転生したことを告げてないのでピトエムは許可を求めている。
「オレはシンだよ、駄女神。けど、いいきっかけを貰った。どうしようか悩んでいたのは事実だ」
「なら私からしようか」
そうしてピトエムの口からアリシアとルジュールにシンの秘密が語られることになった。シンが転生者であることが。そして、トラブルに巻き込まれることがピトエムは分かっていたのにギリギリまで言うことを忘れていたことを。
「シンが怒るのも分からなくないかも」
「確かにちょっと忘れてたじゃ済まされないことではある」
アリシアもルジュールもピトエムの味方にはならなかった。
「いやーシンくんは愛されてるね。うらやましいこって」
まるで反省を示さないピトエムにシンは再び殺意が湧き出て来そうになるが、寸前のところで思いとどまることに成功する。
ここでアリシアがハッ、と何かに気付いたように一瞬顔を顰めると申し訳なさそうにシンに向かい直って訊く。
「シンが巻きこまれたトラブルってもしかして私のこと?」
「ち、違うよ。オレが巻き込まれたのは多分オレ自身のことだから、アリシアは関係ないって」
「けど、私が聖女じゃなかったらもっと普通の生活が出来たんじゃ……」
「それはそれ、これはこれ。アリシアはアリシア自身が大分めんどくさいことに巻き込まれてるからオレとは関係ない、ね?」
「うん、そうだけど……」
アリシアはまだ納得できていないらしいが渋々ながらも引き下がってくれた。
「イチャイチャしてくれるのは構わないけどそろそろ本題に入ってもいい〜?」
「あ、ピトエム様、すいません」
アリシアが顔から湯気をたてながらピトエムに話を促す。シンはぶっきらぼうに質問する。
「だいたいなんでピトエムが来てるんだよ」
「簡単にいうと、君たちに伝えなきゃならないことがあるから」
「それは?」
「まぁ、なんというか厄介事が起きててね~」
ピトエムが話した厄介事は中々衝撃的なことであった。
なんと、とある人物が出現したせいでこの世界の4分の1が地に沈んでしまうという。その人物は地に沈めた後にこの世を混沌に貶めようと企んでいるとか。
だから、アリシアが昇華するのをきっかけにして、現世に権限して、シン達になんとかして欲しいということらしい。
「というわけだから、君たちに世界を救ってほしいな〜って感じなんだけど、大丈夫だよね?」
「「大丈夫なわけあるか!!」」
「そもそもなんでオレ達なんだよ!オレ達より強い奴らがいるだろ父さんとか、父さんとか、父さんとかさ」
「まぁ確かにハルト?だっけ。その人も馬鹿強いけどさ。これは君たちにしかできないんだよ」
「はぁ?なんで?」
「その悪ーい奴はダークネスエルフでね。ダークネスエルフを滅ぼせるのは聖なる力を持っているか、高位なエルフにしか不可能っていう厄介な特性があってだね。それに当てはまるのは君たちだけと言うわけだよ」
「そもそもピトエムがそのダークネスエルフをなんとか出来ないのか?神様なんだろ?」
「そうしたいのは山々なんだけど……世界のルールってもんがあってだね。私が手を出すと世界に亀裂が入るかもしれないから」
「役立たずだな……3大神」
「そんなこと言わないで欲しいな〜、日頃世界を支えてるのは私達なんだぞ♪」
「あーすごいですねー、すごいすごい」
「生意気〜。まぁ、けどよろしくね3人とも」
「3人?ルジュールもなのか?」
「ああ、うん。その子ももう少ししたら聖騎士に目覚めると思うから。後は勇者を見つけて連れていったらなんとかなると思うから」
ピトエムは衝撃的な事実と無理難題を押し付けていくと、そのまま光に包まれてどこかに消えてしまった。
「やっぱりアイツもう1回ぶん殴ってやるべきだった!」
「私も少しムカついた」
「私もだ。シン殿の気持ちがよく分かった」
ピトエムの出現によって更に3人の結束は強まった。
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シン達がピトエムに怒っていた同時刻にとある国の協会で1人の少女がピトエムと同じ3大神の1柱、ネフテスによる啓示を受けていた。
「貴女はこれから世界を救うために3人の人物と合流して貰うことになる。1人は聖女。1人は古代のエルフの血を継ぐもの。1人は誇り高き聖騎士。幸運にも3人は一緒に行動をしている。急ぎ合流し、ダークネスエルフを討ち滅ぼすのだ」
「承りましたわ。ネフテス様。このリリフィス・コロノバイスの名と勇者の誇りにかけて必ずやダークネスエルフを討ってみますわ」
「頼んだぞ」
そう言ってネフテスは体を霧散させて消えていった。
「卑しきダークネスエルフめ!この世界は私が守ってみせますわ!」
そう高らかに宣言したのは現勇者であり、コロノバイス王国の第2皇女である、水色の髪と瞳が印象的な美少女、リリフィス・コロノバイス。彼女は昔から正義感か強く、思い込みも激しい。だが勇者としての実力もあるため周りからの評価は高い。少々真っ直ぐすぎる性格には目を瞑ってもらえる程度には世に貢献してきた人物だ。
「まずは聖女と古代エルフの生き残りと聖騎士と合流でしたわね。至急探させましょう」
身につけたマントを翻して、リリフィスは行動を起こした。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次話は来週日曜日、12月25日の予定です。
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