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この異世界冒険譚の主人公はオレじゃないだと?!  作者: 茶々丸ex
ダンジョン編
23/30

初ダンジョン



薄暗い空間にキンッ、カンッと金属音が響き渡る。剣と剣がぶつかり合う音だ。剣を打ち合う2人の実力は拮抗しており、もう既に10分以上続いている。正確には1人と1匹だが。



1人は全身を鎧で包んでいる。所謂フルプレートアーマーというやつだ。右手には片手剣、左手には円盾を構えている。この男は冒険者で仲間と共にダンジョンに挑んでいたが訳あって今は1人だ。



もう一方は全身を鎧ではなく光沢のある鱗が包んでいる。頭には獰猛さを感じる黄色い目があり、その口は前方に突き出ており鋭い牙が並んでいる。鉤爪がついた手にはカトラスが握られている。言わずもがな魔獣である。リザードマンと言われる武器を扱う珍しい魔獣として知られている。



もう何度目になるかも分からない攻防が終わったときだった。



「ギィッッッ!」



「なっ、どうしてだ? 」



リザードマンが突然何かに怯えたような声を出して逃げ出した。

男は不思議に思うがその答えは直ぐ後ろにあった。男が立っている場所にヌッと大きな影がかかる。



「グルルルルルル...」



「こ、こいつは。なんでこんな場所に!」



男の背後には途轍もなく大きな魔獣が息を荒くして仁王立ちをしていた。



その魔獣の肌は禍々しい赤色をしている。その巨大な体躯には隆々と筋肉が付いており、その腕だけで人間ほどの太さがある。何より特徴的なのはその頭部についた凶悪なオーラを放つ2つの角。



フルプレートアーマーに身を包んだ冒険者は脱兎のごとくその場から逃げ出した。が、魔獣がそれを許さない。



男が走り出すよりも早く剛腕を地面に叩きつけ、洞窟内を震撼させる。揺れのせいで男はバランスを崩してその場で膝を付いてしまう。



「クソッ!この化け物が!」



悪態をつくが魔獣は気にせず男に迫り来る。この魔獣は「デーモン」。魔獣の中でも強さこそドラゴンには及ばないが、 狡猾で残虐な性格をしており人間を喰らうことに貪欲であるため出現するたびに何人もの人が犠牲になっている。



デーモンは動けなくなった男の足を掴みあげてニタァと凶悪な笑みを浮かべる。



「や、やめろおおお!あぁぁああ!」



男を丸ごと飲み込んだ。身に付けていたフルプレートアーマーも気にせずに咀嚼している。最後にペッとグシャグシャに丸められた鎧だったものを吐き捨ててデーモンは更なる獲物を求めて暗闇へと足を進めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「流石ダンジョン。すごい賑わってるな」



「そうね。こんなに人が集まってるなんてまるでお祭りね」



アリシアとシンの2人はダンジョンの入口に並んでいる。ダンジョンの入口には見渡す限り人が溢れており、これが毎日だというので驚きだ。



ダンジョンに挑む人、ダンジョンから帰ってきた人、その帰ってきた人をもてなす商店とその他もろもろの人達が集まっているせいで此処だけ気温が2.3度上がっている気もする。



ダンジョンに入るために必要な条件は15歳以上かつ30レベル以上であること。無闇に人をダンジョンに入れると無駄な死人を出す事に繋がるし、治安も悪くなる。



ダンジョン内で悪事を働く者も残念ながら存在する。第1層から第10層までは人も多く、明かりも十分に確保してあるため安全だが、第20層あたりまで行くとたまに魔獣に殺されたとは考えにくい死体が見つかることがある。



よって、ダンジョンの管理している組織はダンジョンには必ず2人以上で入るよう勧告している。今まで被害にあったほとんどの人が単独でダンジョンに挑んでいる冒険者であったからだ。



アリシアとシンは2人組でダンジョン入りを申請し、第1層へと続く階段を降りていった。



「取り敢えず今日はダンジョンに慣れることを重視していこうか」



「そうね。本格的に踏破するのは明日からにしましょうか」



ダンジョンは途轍もない大きさをしている。特に第1層は街レベルの広さがある。深い階層に行くにつれて少しずつ狭くなっており、全体像は逆円錐状ではないかと言われている。



他の冒険者と鉢合わせてもあれなので2人はあまり人のいないほうで探索を行うことにした。しばらく歩けくと前方の曲がり角からヒョコッと額に角を生やした普通のものより2回りほど大きい兎がでてきた。



「アルミラージか。魔法で片付けよう」



「分かったわ。ファイヤバレッド」



アルミラージにアリシアの放った複数の炎弾が突き刺さる。アルミラージは悲鳴を上げて白い毛を焦がす。死んではいないがそれなりのダメージ入っている。



「流石にこれだけじゃ倒れてくれないのね」



「レベルで言えば15ぐらいはあるしアルミラージは魔耐も高めの種族だからかな。それでも7割ぐらいは削れてると思うよ。ウィンドカッター」



シンから黄緑色の刃が放たれる。刃はアルミラージに直撃し、小指の先ほどの魔石を残して消滅した。



「ダンジョンの魔獣は死体が残らないって本当なのね」



「なんだか不思議な感じがするな」



「けどやっぱり第1層だと弱いわね」



「オレとアリシアのレベルを考えると第40層あたりがいいらしい。だけどそれはやめたほうがいいかもしれない」



「なんで?」



「第30層あたりから魔獣は他の魔獣と連携してくることがある。第30層ならまだ魔獣のレベルも大したことないからいいけど第40層になると万が一のことが起こるかもしれない」



「なるほどそういうことね。なら第30層からは様子を見ながらってことになるわね」



アリシアとシンは当分の方針を決めた。その後も何匹か魔獣を狩り、帰路に着いた。



ダンジョンから出ようとした時、受付の所が騒がしいことに気が付いた。顎髭をはやした30歳ぐらいの男が必死な形相で受付嬢に話しかけている。受付嬢は困った顔をして聞いていた。



アリシアとシンは声が聞こえる程度まで近づき耳を立てた。



「だから本当なんだって!オレは見たんだよ!」



「そういわれましても事が事だけに簡単に斥候隊を出すわけにはいかないのです。管理長の指示がないと……」



「そんなこと言っている場合じゃないんだよ!早くしないと次の犠牲者が出るかもしれないんだぞ!」



シンはただならぬ事態が起きていることを察して近くにいた冒険者に事の次第を聞くことにした。



「あの、何があったんですか?」



「それはだなヨハンが、ああヨハンってなのはあの髭のおっさんのことな。んでヨハンが言うには第46層にデーモンが出たらしい」



「それは珍しいことなんですか?」



「ああ、デーモン今までは第60層付近で出現していた。デーモンが出現するのを確認したら精鋭部隊で討伐してきたんだ。それでも犠牲者が0の時は無いんだがな」



「出現したデーモンが階層を上がってきたってことは無いんですか?」



「無いな。ダンジョンには管理部が定期的に使い魔を送っているからな。デーモンの進行速度が早すぎる」



「なるほどそれで今回のようなことはイレギュラーなんですね」



「そういうこった」



シンは親切な冒険者に礼を言って人集りを抜けてアリシアと共に宿に帰った。



「どうする、シン?」



部屋で休んでいるとアリシアが声をかけてくる。



「何を?」



「もう、分かってるんでしょ。デーモンのことよ」



「デーモンがどうしたの?」



「……倒せるでしょ、シンなら」



「エンシェントエルフの力を使えば1人でも行けるだろうね」



「なら、」

アリシアが言い切る前にシンがそれを遮る。



「しないよオレは。絶対に」



「なんで?あの話が本当なら今誰かが襲われてるかもしれないんだよ?」



「アリシアがオレ1人に任せてくれるならいいよ」



「それは出来ないわ」



「だからだよ」



「え?どういうこと?」



「デーモンのレベルは80弱。オレより低いけどアリシアより高い。もしも攻撃がアリシアに当たれば耐久が低いアリシアにとって致命傷になりかねない。オレは万が一でも君を傷つける訳にはいかない」



「そんな……」



「ごめんアリシア」



しばらくの間、2人には重苦しい沈黙が続いた。人を助けたいアリシア。アリシアを傷つけたくないシン。アリシアがもっと強ければ問題ないが、アリシアは強くなるためにダンジョンに来ている。まだ足りない。



その後夕食を食べに出かけたが2人の間にある微妙な空気が無くなることはなかった。アリシアはずっと何か考えているようだし、シンも必要以上に話しかけなかった。



しかし、お風呂を上がったときにアリシアが神妙な面持ちでシンの手を握ってきた。



「ど、どうしたのアリシア。難しそうな顔して」



「ねぇ、シン」



「なに?」



「……しない?」



「ん?なんて?」



「……ス」



「す?」



「キ、キスしない?」



「へ?」


ここまで読んでくれてありがとうございます。


次は土日になると思います。


よければ評価等、感想お願いします。



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