収束
少し短いです。
魔獣行進におけるシンの無双とアリシアが聖女であることがバレてしまってから3ヶ月が経ち、2人に関する騒ぎは収束しつつある。
シンのほうは最初からエンシェントエルフへの変身はその場にいた人には口止めをしてあるためそこまで問題になってはいないが無双したことは隠せなかった。
魔獣行進からしばらくは街の英雄的な扱いを受け、街に出れば直ぐに人集りができてしまい本人もうんざりしていた。
今はそれも落ち着いてきており、声をかけられたりする程度に落ち着いている。
問題はアリシアのほうだった。学院長の予想通り教会が是非アリシアを庇護下にいれようとしつこく迫ってきた。勿論シンが近づけさせなかった。
1人あまりにもしつこく付いて来る奴がいたのでシンが千穿でお尻の穴を大きくしてあげたら大人しく帰っていった。一生痔に悩むといい。
それでも教会はアリシアを取り入れようとするのを止めなかったのでアリシアは自らの父親であるギルザールを頼ることにした。バレてしまったことの経緯と助けて欲しいということを手紙に記して業者に届けてもらった。
手紙を送ってから2週間ほどで思わぬ形で返事が帰ってきた。本人が直々にやって来たのだ。領主であるギルザールが領地を離れていいのかという気もするが、しばらく離れても大丈夫なようにしてきたし何より娘の一大事ということでいってもたってもいられなくなったという。
ギルザールがやって来たことということは当然従者であるシンの父親、ハルトも付いてくる。シンがエンシェントエルフに変身出来るようになったことは手紙で伝えてあったので出会うとすぐに
「シン、全力で来い」
何故か嬉しそうに口角を上げながら対戦を申し込んできた。どこの戦闘狂だ。
シンも満更でもなさそうに
「本気でいくよ?父さん」
その申し出を受託した。それから学院にいって訓練所を借りた。
結果としてリングが壊れたため引き分けとなった。
アリシアは言う。
「あの親子は本当に私達と同じ人類なのかな?」
ギルザールは言う。
「2人が組めば国ぐらいなら落とせそうだね」
学院長フィーシャは言う。
「あのリングは何重にも強化魔法と硬化魔法をかけてて、耐久力だけで見れば王国一なんだけど……」
シンは持ち前のスピードとエンシェントエルフの腕力を持ってハルトの周りをグルグル回りながら攻撃をしかけていく。ハルトは身の丈ほどある大剣を持ってそのほとんどを弾いていく。
もはや目で追うのも難しい2人の戦いは見るものを圧倒させたが、それ以上に異常なのは戦っている最中ずっと2人は笑顔を浮かべていたことだろう。全くもって似た者同士である。
最後は互いに全力を込めた攻撃を打ち合ったところでリングが砕けた。
訓練所は攻防の余波で観客席までボロボロになっていてフィーシャが目に涙を浮かべていたのはご愁傷さまとしか言いようがない。
親子のスキンシップが終わったところで本題であるアリシアの問題のために早速ギルザールとハルトは動きだした。
ギルザールはアリシアが聖女であることが原因で起こっていた問題を全て貴族の権力で押さえ込んだ。領主本人が赴き、実にすばらしい笑顔でお願いしていったという。
教会に関してはハルトが文字通り脅迫しに行った。どうやらハルトと教会の間にはなんらかの因縁があったらしく、教会も断れなかったらしい。
教会のトップにたつ教皇はその日から自室から出てくることが無くなったという。何したのハルト
これでアリシアとシンへの柵は無くなり、やっと自由になれた。そのままギルザールと共に故郷に帰ることもできたがアリシアはこのまましばらくは留まることを希望した。
「普通の女の子として学院に通っていたいの」
アリシアは普通のごく当たり前の生活を送ることを望んだ。
そして時は現在に戻る。教会からの勧誘は一切こなくなり、アリシアとシンは平和に過ごしている。
朝起きたら学院に行き、昼まで授業を受ける。昼食を摂ったら魔法の鍛錬を始める。最近はシンもこの鍛錬に交じるようになっている。
実力だけならトップクラスなため、主にお手本として扱われている。たまにアリシアやミーナの相手をしているがシンの魔力がつきない限り負けることはない。
Lv.6の魔法を使うシンとしてもまだ昇華していない2人には負けるつもりは無い。そんな2人はそれぞれアリシアは火属性魔法をミーナは氷属性魔法をLv.5にしている。現在はどうやったら昇華できるかを模索中だ。
シンと同じように強者にダメージを与えることことで昇華できるのではと思い、1度持ち前の魔力量に物を言わせて魔力の尽きたシンに魔法を当てたが昇華はできなかった。
恐らくエンシェントエルフのシンにダメージを与えれば昇華ができるだろうと推測しているが、あのスピードに魔法の照準が合う気がしないのでそれは諦めている。追尾の性能をもつスネーク系統の魔法やスピードだけならトップクラスの雷魔法でも変身したシンのスピードには意味をなさない。
今は改めてシンが人外の存在だと認識したところで学院長に相談をすることにした。
「昇華したいならドラゴンを倒せばいいのよ」
「ドラゴンですか?」
「そうよ、ドラゴンを単独で討伐することが昇華できる一つの方法と言われているわ」
ドラゴンはこの世界で畏怖そのものである。1体で国を焼き滅ぼしていく暴力の顕現とも言われる様はよく物語でも登場している。物語に出てくるようなドラゴンは何10年に1度でるかでないかだが、村や小さな街なら焼き尽くしてしまう様なドラゴンはたまに出現し人々に恐怖されている。
ドラゴンは「果ての山脈」というところから降りてくると言われているが、それは定かではない。それどころか「果ての山脈」が本当にあるのかも分からない。だがドラゴンが出現する場所は確認されているのでそので待っていればドラゴンと戦うことができる。
「単独でですか……」
「流石にまだ単独では厳しいかもね。けど雷魔法もLv.5にしたらいけると思うわよ」
「そうですね。頑張ります」
「二つ目の魔法をLv.5にするのは結構時間がかかると思うけど頑張ってね」
「たしか約3倍でしたっけ?」
「そう言われているわね。私も苦労したわ」
魔法のレベルを上げるには自身のレベルを上げるかその魔法を使い続けるかだ。複数魔法適正を持っていると二つ目以降の魔法は経験値が溜まりにくい。
「時間がかかりそうですね」
「ダンジョンに行けたらいいんだけどね」
「行けないんですか?」
「ダンジョンは15歳にならないと行けないことになっているのよ。あそこは経験値稼ぎには持ってこいなところなのに残念ね」
「なら15歳になるまでは学院で基礎をしっかり固めることにします」
「そうするのがいいと思うわ」
学院長に別れを告げてアリシアとシンは帰路に着く。
学院から帰るとアリシアは自室に備え付けられている風呂に入る。
着ていた服を脱いで籠に放り込む。お湯は予め魔力を使って温めてある。体を洗い、お湯に浸かる。
こうして風呂に入ると気持ちが落ち着いていくのをアリシアは感じている。頭がクリアになるとアリシアは3ヶ月前、自身にに決めたことを思い出す。
アリシアは新たな目標を立てた。それはとても個人的なワガママとも言えるような理由からだがそれは誰にも言っていない。
「シンの隣に立てるようになりたい」
アリシアは守られてばかりは嫌になった。
あの人の隣にいたい。あの人と共に戦いたい。あの人のことを守りたい。あの人の背中を見ているのはもう嫌だ。願わくばずっと隣に。
魔獣行進の後、アリシアの想いは強くなった。強い想いは意識を変える。意識が変われば行動も変わる。行動することで想いは現実に近くなる。現実が近くなることで更に想いは強くなる。
相手は従者、自分は貴族の娘。容易に認められるものではないと分かっているがアリシアは歩き出した。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
第一部完結です。ここまで書き続けられたのは評価、ブクマ、感想を書いて下さった方々は勿論、読んでくれた全ての方々のおかげです。
次話は少し開けて投稿したいと思います。




