提案
余の思考を破ったのは元帥・源義仲だった。
「僭越ながら提案奉る!」
僭越である。
「臣愚考するに。精兵を以て魔王一党を成敗してはいかがか」
愚考である。
猿族には魔王を「勇者」として崇拝する者もある。
衆を恃んで殺しては王国が猿族を全面的に敵に廻すことになりかねない。
そもそも源元帥の配下もほとんどが猿族である。裏切られたらどうするのか…それは極論としても躊躇わずに魔王を誅殺できるのか?
「意気や壮たり」
至尊の声が響く。
「裏切られたら」云々とは仰せにならない。
「義仲…いかほどの予算と人員を与えればよい」
官名でなく諱を呼ばれたことで元帥もなにかに気づいたようだ。
「…されば一党を討つに必要な武力を五百人として。八方に差し向ければ四千かと」
「待たせたまえ」尚書令・藤原新平が反論した。
「兵は四千が四万でも整うべし。されど元帥は一人」
もとより元帥の顔を立てるための議論に過ぎない。
孫子やクラウゼヴィッツがいた世界とは違うのだ。ここは。
四万の兵など整わない。四千人も無理。
整うのは四百人程度。だがそれを魔王討伐の出師としては組織できる情勢と文化がこの世界にはない。
四十人なら何とかなるかも知れない。だが遠征に行けば源義仲自身が四十人に殺されるかも知れない。
ここは乱世。運と力量の世界だ。
戸籍や学制がある世界の記憶を引きずっていてはこの世界では生きてゆけないのだ。




