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主な登場人物
耳塚 伊吹…男性。勝矢と幼馴染。保守的な性格。
大鼻 勝矢…男性。伊吹と幼馴染。少し冷たい印象を持たれがち。
久目 颯…男性。壱歩と勝矢とは大学で再会した。野球をやっていた。
手柳 佐環…女性。嗣乃と仲が良い。努力家で真面目な性格。
古味山 嗣乃…女性。佐環と仲が良い。瞬間記憶能力を持っている。
Rabbit-foot
【名】
1. ウサギの足。幸運をもたらすとされている。
2. <米・俗>逃亡者。
▽▲
Q市内にある雑居ビル。その一角に入っている漫画喫茶の個室は暗然たるものだった。
俺はブログサイトに「P市死亡ひき逃げ事件」の全容を載せるためここに来た。アカウント名は「耳塚伊吹」。今更本名を隠しておく必要なんてない。
書き出しは「全てはあの事件から始まった」。その続きはというと、書きたいことがたくさんあり過ぎて、文字を打ってはバックスペースキーを押すを繰り返している。不特定多数の顔の知らない人たちに赦しを請おうと必死になっていること、不眠が続き睡眠薬と精神安定剤を飲み続けていること……。隣から聞こえる笑い声のせいで集中できず、文がまとまらなかった。
キーボードの横に置いた紙コップはふやけていて、掴むとぐにゃりと歪む。中の氷はとっくに溶けていた。
俺たち五人の中で一番悪いのは、仲間を平気で裏切ったやつだ。自分が告発者だと名乗り出ず、全員の個人情報を暴露した。中途半端な正義感を掲げてだ。やつは……一旦、裏切り者を「ネズミ」と名づけることにする。やつは汚くて暗い地下に住んでるネズミそのものだ。おかげで加害者以上に責め立てられた。ただの目撃者であって、ひき逃げ犯ではないのに。
とにかく、ネズミが誰なのか今の段階でははっきりしないし、判明したところで何の意味もないのかもしれない。
だけど、俺たちは知る権利を持っている。
事件の一部始終を語る前に、最初に主張しておきたいことがある。俺は嘘をついていないってことを。
▽▲
十年前、十月二十日の夜。俺を含めたQ大学の同期五人は、P市にある名無しの浜辺に立ち寄っていた。使いそびれた花火を使おうと誰かが提案したんだ。長袖を着ていても少し寒く感じ、そのせいか人気はなかった。
「じゃんけんポン!」
「えー! またー?」
俺はチョキを出した手を見下ろし、ため息をついた。
「ほんと、伊吹ってじゃんけん弱くて助かるわー」
「ちゃんとカメラ持ってけよ! 本物のユーレイが映るかもしれないんだから」
「分かってるって……」
交わした会話は他愛もなかった。細かな内容はよく覚えていないが、「じゃんけんで負けたやつが近くの神社へ肝試しに行く」という流れになり、負けてしまったのが俺だった。
ここ数年、運が悪いと感じる。新しく買った原付のタイヤは釘を踏んでパンクするし、食べたかった弁当が直前になって売り切れる。それでも幸運なことはあった。先週、ある企業から内定をもらったことだ。大企業とまではいかないが、社風や給料は悪くない。
ここにいる全員、就職が決まっていて、あとは卒業を待つのみ。卒業すれば俺たちはバラバラになるだろう。お互い仕事やら家庭やらで集まりたくても集まれない。こんなことをするのもこれで最後になる、はずだった。
「はぁ……。じゃ、行ってくる」
カメラが録画モードになっていることを確認し歩き出した。目的の神社があるのは、道路を挟んだ先にある小高い場所。そこに着いたら境内まで登って写真を撮ってこなければいけない。
「気ぃつけて行けよー」
白い歯を見せ、ニヤニヤしながら颯が言った。兄貴肌の野球バカ。中学校のとき一緒のクラスになり、高校は別になったが大学で再会した。
「僕も行こうか? 真夜中だし、もしかしたら不審者がいるかも」
声をかけたのは勝矢だった。彼は幼稚園からの腐れ縁。もやしのような細い体形はずっと変わらない。
「平気、平気。これでも足は速い方だから」
「そうだよ。子どもじゃないんだから」
嗣乃が俺の返事に付け加えた。淡い色のワンピースがよく似合う。隣に立つ佐環も、整った顔を崩さず上品に笑っている。
彼女たちは大学時代からの知り合いだ。同じサークルだった嗣乃と仲良くなり、佐環と出会った。




