↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女を辞めても国は困らないそうです。第二王子を除いて  作者: よみなぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/5

第4話「聖女退任が決まる前の王宮」

「エレノア様から、聖女を退任したいとの申し出がありました」


 大神官がそう告げた瞬間。


 第二王子付き側近、オスカー・ベルナールは、王妃がわずかに身を乗り出したのを見た。


 王宮の小会議室。


 出席者は国王、王妃、王太子、第二王子アルフォンス、大神官、宰相。


 そしてオスカー。


「新制度で代替できるか?」


 国王が尋ねた。


「できます」


 大神官は即答した。


「増幅聖石の地方配備は実用段階です」


「なら退任を認めよう。聖女制度も終わらせる」


「異論ありません」


 決まった。


 十一歳から九年間。


 国でただ一人の聖女だったエレノア・ヴァレンティアは、二十歳でその役目を終える。


「ところで」


 王妃が口を開いた。


 オスカーは嫌な予感がした。


「エレノアは二十歳。未婚ですね?」


「母上」


 王妃は無視して資料を見た。


「ヴァレンティア伯爵家の長女。九年間の国家奉仕。王国最高水準の聖力。増幅聖石の研究にも協力。国民からの信頼は厚く、大きな派閥色もない。そして二十歳、未婚」


 宰相が顔を上げた。


「……公表前に動くべきですな」


「宰相」


「政治的な話です」


 大神官が頷いた。


「公表されれば、神殿にも縁談の問い合わせが来るでしょう」


「でしょうね」


 王妃がアルフォンスを見る。


「今です」


「何がですか」


 オスカーは思った。


 駄目だ。


 この人だけ分かっていない。


「アルフォンス」


 王太子が弟を見る。


「エレノアが退任する」


「はい」


「二十歳、未婚だ」


「はい」


「お前は二十一歳、未婚だ」


「兄上」


「十年来の知り合いだ」


「兄上」


「十年間好きだ」


「兄上!」


 王太子は満足そうに頷いた。


「理解しているようで安心した」


「何をですか!」


「母上よりは話が早かったでしょう?」


「そういう問題ではありません!」


 王妃がため息をついた。


「奪えとは言っていません。婚姻を命じろとも言っていません」


 国王が続けた。


「九年間、国の都合で生きてもらった娘だ。王家が用意するのは機会まで。選ぶのは本人だ」


「当然です」


 王妃は即答した。


「だから、アルフォンスをその選択肢に入れます」


 アルフォンスが黙った。


 正論だった。


「それで」


 国王が大神官を見る。


「退任後は完全に自由で問題ないか?」


「一点だけ。新制度は運用開始直後です」


「非常時の保険か」


「はい。一年間だけ、エレノア様に残っていただければ」


「王家直属聖術顧問」


 宰相が言った。


「通常勤務なし。非常時のみ招集。新制度の移行期間としても妥当でしょう」


「それでいこう」


 国王が決めた。


「住居は王宮東側の離宮を」


 王妃が言った。


「母上」


「警備上、合理的です」


「私の執務室の近くですが」


「連絡窓口もあなたです」


「母上」


「新聖石運用計画の王家側責任者でしょう?」


「……合理的ですね」


「ええ。とても」


 オスカーは資料へ目を落とした。


 王家直属聖術顧問。


 任期一年。


 通常勤務なし。


 住居は王宮東側。


 連絡窓口は第二王子アルフォンス。


 すべて合理的だった。


 恐ろしいほどに。


「異論は?」


 国王が尋ねた。


 誰もなかった。


「では、この案でエレノア本人と正式に話そう」


「陛下」


 宰相が言った。


「一文、加えてください」


「何だ?」


「本職の待遇および任用は、婚姻その他の私的関係に一切左右されないものとする」


「採用しよう」


 オスカーは記録した。


 これでエレノアがアルフォンスを選ばなくても、仕事には何の影響もない。


 囲い込む。


 だが、捕まえない。


 王家としては、そこが限界だった。


 あとは。


 全員の視線が、一人へ向いた。


「……何ですか?」


 アルフォンスが尋ねた。


「アルフォンス」


 王太子が言った。


「お前はどうする?」


「まずは、退任後の生活に慣れてもらうべきだと思っています」


「それから?」


「何度か食事に誘えればと」


「それから?」


「街へ出る機会なども作って」


「それから?」


「少しずつ、お互いのことを」


 王妃が目を閉じた。


 国王が天井を見た。


 宰相が資料を片づけ始めた。


 大神官は微笑んでいる。


「アルフォンス」


 王太子が言った。


「はい」


「お前、何年かけるつもりだ」


「急ぐことではないでしょう」


「十年待ったんです。あと一年くらい――」


「その十年、お前は何もしていないだろう」


「……」


「十一年に増やしてどうする」


 王妃が机を指で叩いた。


「一年?」


「母上」


「一年あれば、何件の縁談が来ると思っているのです?」


「エレノアが選ぶことです」


「だから候補に入りなさいと言っているのです!」


「まずは手を繋ぐところから――」


 会議室が静まり返った。


 オスカーはアルフォンスを見た。


 国王も見た。


 王妃も見た。


 王太子も見た。


 大神官も。


 宰相も。


 全員が見ていた。


「……殿下」


 オスカーは、側近として言わなければならないと思った。


「はい」


「その前に、食事へ誘ってください」


「分かっている」


「いつです?」


「退任後、落ち着いてから」


「遅いです」


「……何がだ」


「正式な協議が終わったその日に誘ってください」


「その日に!?」


王妃が頷いた。


「その日です」


国王も頷いた。


「その日だな」


王太子も。


「その日でしょう」


大神官まで。


「善は急げと申します」


宰相が資料を閉じた。


「では、正式協議当日の殿下の予定を一時間空けておきましょう」


「宰相!?」


「善は急げと申します」


「まだ日程も決まっていないでしょう!」


 アルフォンスの声が、会議室に響いた。


 オスカーは静かに議事録へ視線を落とした。


 国家の安全保障と、第二王子の恋愛。


 二つの問題を一つの人事で処理する。


 王家という組織は、思っていた以上に効率的だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。