表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/29

第18話 次の跳躍へ ー 美しい規則性

 それからの数日は、淡々とした試行の積み重ねだった。

だが、“単調”とはまるで違う。


1回1回の試行が、

南雲にとっては“階段を上る一歩”であり、

高木にとっては“未知の領域へ踏み込む観測記録”だった。


――そして、300回目。


実験台の上で、南雲は軽く息を吸った。


(動け)


――コツン。

音はかすかなはずなのに、室内に鋭く響いた気がした。


高木の目が細くなる。


「……10m。

予測通りです」


その言い方には、驚きよりも“理解が追いつく安堵”があった。

だが、その奥には一筋の緊張が消えていない。


次の100回で――

距離がまた跳ねる可能性がある。



検証は淡々と、しかし確実に続いていた。


――400回目。


1kgの金属片が、

音もなく消え、現れる。


「……1kg、成功。

きれいに“10倍”です」


その瞬間、南雲は思わず笑った。

緊張ではなく、どこか呆れるような、力の抜けた笑い。


「……本当に、交互に来るんですね」


高木は頷いた。

その表情は、研究者としての誇りと、

ほんのわずかな“畏れ”が混じり合っていた。


「ええ。

とても、美しい規則性です」


“美しい”と言った声の奥に、

なぜか少しだけ震えを感じた。



500回。

600回。

700回。

距離は100mへ。

重さは10kgへ。


南雲の中の何かが、静かに変わり始めていた。


(……遠い、はずなんだけどな)


100m先が、

まるで手を伸ばせば触れられるように感じる時がある。

“距離”という概念そのものが、

少しずつ輪郭を変えていく。


高木はその変化を見逃さなかった。


「南雲さん。

発動の“感覚”が変わってきていませんか?」


「……はい。

遠い場所のイメージが、前より掴みやすくて。

なんというか……

“近い”んです」


「それも能力の成長なのかもしれません。

数値だけでなく、“感覚”も積み重なっています」


高木は淡々と言いながら、

その表情に研究者としての興奮をわずかに滲ませた。



――そして、ついに 1000回目。

屋外の広い実験スペースに設置された専用センサーが、

薄い光を灯して待機している。


(……ここまで来た)


南雲は深く息を吸った。


(行け)

(動け――)


――コトン。


わずかな音が、遠くで鳴ったように感じた。

高木がタブレットを確認し、息を呑む。


「……1km。

本当に……1kmです」


静かな声。

だがその一言に、

これまでの“実験室の世界”が崩れた気配があった。


南雲は天井を見上げ、小さく笑った。


「最初は10cmだったのに……」


「ええ。

でも、この階段は……まだ途中だと思います」


高木の言葉は静かだった。

だが、それは“覚悟”に近い色をしていた。


「次の100回で、重さが伸びるでしょう。

そしてその先には、

もっと大きな変化が待っているかもしれません」


南雲は小さく頷いた。


(……本当に、どこまで行くんだ俺の能力は)



それから数日間。

二人は黙々と試行を続けた。


100m。

1000m。

10km。

100km。

1000km。

重さも100kg、1t、10tへ――


世界の“広さ”と“重さ”が、

皮膚の裏で静かに変わっていく感覚。


高木は冷静に記録し続けたが、

その目の奥に宿る光は、

研究者としての限界を越えるものを見つめている色だった。


「南雲さん。

規則性は崩れていません。

距離と重さが交互に伸びる流れは、一貫しています」


南雲は深く頷いた。


(……階段だ。

本当に、階段みたいに伸びていく)


その階段はどこまで続くのか――

想像するだけで背筋が冷える。



そして、その日が来た。

タブレットの画面には、大きく数字が表示されていた。


9999 / 10000


これまで積み上げた数。

“ここまでたどり着いてしまった”という実感があった。


南雲はゆっくり息を吐く。


(……ここまで来たんだな)


高木は画面を閉じ、まっすぐ南雲を見つめた。


「南雲さん。

次が――1万回目 です。レベル100に到達します」


南雲は喉の奥で小さく息を吸った。


「……はい」


高木の声は静かだったが、

その瞳には恐れと期待がせめぎ合っている。


「これまでの変化はすべて“量の積み重ね”でした。

距離と重さが交互に伸び、限界が拡大していく。

その流れは、一度も崩れていません」


彼女はゆっくりと告げた。


「……1万回目で何が起きるかは、誰にも予測できません。

ですが――

必ず“何か”が起こるはずです」


南雲は、静かに頷いた。


――いよいよだ。


静かな研究室に、

二人の呼吸だけが微かに響いていた。


お読みいただきありがとうございました。

「続きが気になる!」「誠頑張れ!」と思ってくださった方は、ページ下部にある「ブックマーク登録」と「評価の☆☆☆☆☆」をポチッと押して応援していただけると執筆の励みになります。

よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ