第1話 蒼天のスクランブル ー いつもと違う出撃
沖縄の海は、いつだって息をのむほど美しい。
南條誠 二等空尉は訓練飛行を終え、
航空自衛隊沖南基地に向けて機体をゆっくりと降下させながら、
広がる海へ視線を滑らせる。
エメラルドから青、そして深い藍へと三色に溶け合うグラデーション。
波の白が朝日を弾き返し、空と海の境界を曖昧にしていた。
――この景色だけは、何度見ても飽きない。
胸の奥が少しだけ軽くなる。
自分が空を選んだ理由を思い出させてくれる瞬間だった。
着陸を終え、キャノピーを開けると湿った南風が頬を撫でる。
整備員に軽く手を挙げて応えると、背後から声がした。
「おつかれ、南條。今日もきれいに飛んでたな」
缶コーヒーを放りながら三浦二尉が笑う。
航空学校時代からの同期で、性格は正反対だが妙に気が合う。
「訓練だからな。無茶はしないさ」
「お前は真面目すぎんだよ。もう少し肩の力抜けって」
「お前が適当すぎるだけだ」
そんな軽口をかわす時間は、いつもなら心地よい“日常”だった。
だが――今日は違った。
胸の奥に、ごく小さな“曇り”がかすめた。
理由は分からない。
ただ、今日はどこか空気が重い。
「……どうした?」
「いや、なんでもない」
自分でも説明できない“ざわつき”を振り払うように、南條は頭を振った。
そのときだった。
甲高い警報音が、基地全体を引き裂く。
スクランブル。
空気が一瞬で張りつめ、整備員たちの表情が変わる。
放送が重なる。
『南條二尉、三浦二尉。至急、待機所へ』
「……マジか、朝っぱらからか」
三浦がぼやくより早く、南條の身体は走り出していた。
さっきまでの穏やかな海の青が、脳裏で別の色に変わる。
戦場の色。
「どうせいつものだろ。ギリギリで踊って帰るやつ」
後から三浦の声がする。
(……嫌な感じがする)
訓練帰りの緩んだ空気が、一気に金属の匂いへ切り替わる。
格納庫に入るころには、その“わずかな曇り”が静かに大きくなっていた。
F-15Jが朝日に輝き、まるで息をしているようにこちらを待っている。
南條は梯子を駆け上がり、コクピットに身体を滑り込ませた。
キャノピーが閉じる瞬間、外界の音が静かに遠ざかる。
(……帰ってこられるよな)
胸をかすめた不安を押し込むように、スロットルを押し込む。
背中が強くシートに押しつけられ、機体が空へ跳ね上がった。
離陸の瞬間、胸のざわつきは確信に変わる。
――今日は、何かがおかしい。
その“違和感”の正体を知るのは、ほんの数分後のことだった。
お読みいただきありがとうございました。
カクヨムにて、本作を「撃墜された元パイロット、空間を読む力と瞬間移動で資源探査の切り札になる~バディと共に国家プロジェクトに参加したら国際犯罪組織に狙われました」というタイトルで先行連載中です。タイトルは異なりますが内容は全く同じものです。




