4話後編 模擬戦
訓練場の中央で、二人の男が向き合っていた。
リュカは聖槍を軽く回し構える。対するユリウスは大剣を肩の高さに掲げ、静かに呼吸を整えていた。
周囲にはセラフィナとライラ、そして腕を組んだグスタフが立っている。模擬戦とはいえ、空気は張り詰めていた。
「まぁ怪我しても俺が治すから」
リュカが気軽な調子で言い、挑戦的な笑みを浮かべる。ユリウスはわずかに口角を上げた。
「あぁ。君のヒーラーとしての噂は聞いている」
大剣を構え直し、肩を竦める。
「うん。そうだな。手加減すると逆に怪我をしそうだ」
その言葉にはどこか期待が込められていた。
次の瞬間、仕掛けたのはリュカだった。踏み込みと同時に槍が一直線に突き出される。狙いは肩。速く、鋭い突きだった。
だがユリウスの大剣がわずかに動く。槍の軌道を読み切ったように、刃が正確にそれを弾いた。
(反応が速い……)
リュカはすぐに次の突きを放つがそれも防がれる。さらにもう一撃。ユリウスは体勢を崩さない。
(やっぱりな)
リュカは心の中で笑う。
(俺をただのヒーラーだと思ってたら、ここまで対応できない)
何度か刃が交差する。互いに決定打はない。
やがて二人は同時に距離を取った。ユリウスが静かに息を吐く。
「すごいな。防ぐので精一杯だ」
槍を肩に乗せ、リュカは眉をひそめた。
「嘘つくなよな……全部わかってたって顔してただろ」
ユリウスは小さく笑った。否定はしない。
「次はこちらから行くぞ」
大剣を下げ、空いている手を前へ向ける。水の魔力が集まり、凝縮されたそれは槍のように細く鋭い形を取り放たれた。水の槍は一直線にリュカへ向かった。
初めて見る攻撃にライラが目を見張った。
「ちょっと待って、あれ水魔法?威力ヤバそうなんですけど」
少し考えた様子のセラフィナが独り言のように呟いた。
「……すごく圧縮してる……普通の水魔法じゃない」
まるで貫通を目的とした弾丸のような速度だった。
「うわっ」
リュカは体をひねり、ぎりぎりでそれを避けるが、通り過ぎたはずの水の槍が軌道を変え、背後から再び迫ってきた。
「追尾かよ!」
リュカは舌打ちする。その瞬間聖槍の宝石が淡く光った。それを地面に突き立てると守護結界が展開される。
水の槍は薄い魔力の壁に弾かれ、霧のように散った。
「あっ……ぶな!!」
リュカはすぐさま前へ踏み出し、一気に距離を詰める。ユリウスは目を細めた。
「あれを弾く守護結界とは恐れ入る」
「いや普通に怖いから!!」
言葉を交わしながらも剣と槍は止まらない。刃が何度も交差する。
その最中、ユリウスの視線がわずかに動いた。次の瞬間、リュカの足元の地面が崩れる。
「っ!」
土魔法だった。足場が崩れリュカの体勢が揺れる。その隙を見逃さず、ユリウスの大剣が振り下ろされる。
リュカは完全には避けきれず、腕を切り裂かれた。赤い血がにじむ。だがリュカは表情を変えない。
「治癒」
淡い光が腕を包むと傷は瞬く間に塞がり、そして次の瞬間にはもう前へ出ていた。再び槍が突き出される。ユリウスの目がわずかに見開かれた。
「自己治療してすぐ突っ込むのか」
「これが俺の戦い方だ」
まるで倒れても起き上がる兵士のように、リュカは止まらない。何度傷を受けても回復して前へ出る。ユリウスは剣でそれを受けながら思う。
(なるほど、実際見るのは初めてだが…これが戦場型ヒーラーか)
「ちょっと待って……回復した瞬間また突っ込んだんだけど…ヤバ...」
その戦いを見ながら、ライラが小さく声を漏らした。グスタフは腕を組んだまま答える。
「実戦慣れしてるな。後方で回復する神官とは違う」
ライラは眉を上げる。
「いや、違うってレベルじゃないでしょ!ほぼ前衛じゃん」
グスタフは低く笑った。
「戦争帰りの連中には時々いる。自己治療しながら攻撃もする、倒れない前衛だ」
次の一撃で決着がつきそうだった。
ユリウスの剣が振り下ろされ、リュカの槍が突き出される。互いの攻撃が同時に届く距離。その瞬間。
「そこまで!!」
訓練場に声が響いた。グスタフだった。
二人の動きが止まる。ユリウスの剣はリュカの肩に触れる寸前で止まっており、リュカの槍はユリウスの足を貫く寸前だった。
わずか数センチ。沈黙が落ちる。グスタフが腕を組んだまま言った。
「互いの実力は、もう分かっただろう」
二人はしばらく見つめ合い、やがて同時に武器を下ろした。ユリウスが口を開く。
「……なるほど。君は面白い戦い方をする」
リュカは肩をすくめた。
「そりゃどうも」
軽く笑う。ユリウスも小さく笑った。
その時、グスタフが言う。
「ダンジョン調査開始は明後日の朝だ」
四人を見渡す。
「それまでに各自装備や持ち物を整えておけ」
模擬戦は終わった。だが本当の戦いは、これから始まる。
上級冒険者のヤバさが少しでも伝われば…
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