4話前編 模擬戦
「模擬戦だと?」
低く響く声で問い返したのはギルドマスター、グスタフだった。
巨大な体を椅子に預け、鋭い視線を四人へ向けている。その圧力にも、ユリウスは落ち着いた様子で答えた。
「ええ。ダンジョン調査に向かう以上、互いの実力を把握しておく必要があります」
静かな口調だったがその視線は冷静で、まるで状況を分析する研究者のようだ。
グスタフは腕を組み、しばらく考えるように四人を見渡した。やがて口元がわずかに持ち上がる。
「いいだろう。訓練所の使用を許可しよう」
ギルド裏手にある訓練所は、広い石造りの空間だった。武器訓練用の設備が整えられ、戦闘訓練を行うには十分な広さがある。その中央には、人型の岩のようなものが四体並んでいた。
「……ゴーレムか?」
リュカが呟く。岩と金属で作られたそれは、関節部分に魔導装置が取り付けられていた。グスタフから説明があった。
「最近導入された魔法研究所製の模擬戦用ゴーレムだ」
胸部を指さす。
「そこに停止ポイントがある。強い衝撃を与えれば無効化される仕組みだ」
つまり、その部分を正確に叩けば戦闘不能になるということだ。ユリウスが興味深そうに観察している。
「なるほど。よく出来ている」
「はいはーい!」
明るい声が響いた。ライラが手を挙げて前へ出る。
「私先やるわ!」
自信たっぷりの笑みを浮かべている。
「四体同時でいいの?」
グスタフが小さく頷いた。
「もちろん」
ライラは肩をすくめる。
「中級だからってなめないでよ」
その瞬間、ゴーレムが起動した。鈍い動きで四体が前進する。
ライラは地面を軽く蹴った。足元の土が盛り上がる。
「岩壁――」
突き出た岩の壁が、ゴーレムの進路を塞いだ。しかし一体がそれを押し破ってくる。
「おっと」
ライラの体がふわりと浮く。風の魔法で体を軽く持ち上げ、そのまま空中で体勢を変えた。振り抜かれた鞭が空気を裂き、ゴーレムの腕に絡みつく。
「ほいっと!」
腕を引くとゴーレムの体勢が崩れた。その隙を逃さずライラは懐へ踏み込む。剣が正確に停止ポイントを捉え、一体目の動きが止まる。
「次!」
地面が再び盛り上がり、土の塊がゴーレムの足元を崩す。体勢を崩した瞬間、ライラは低い姿勢で滑り込み剣先を突き立てた。
二体目が沈黙するがその後も動きは途切れない。風の魔法で体を加速させ、土で足場を作り、鞭で動きを封じる。そこへ迷いのない剣が振り下ろされる。
戦闘というより、なだらかな舞踊のような動きだった。
やがて四体すべてのゴーレムが停止する。ライラは剣を肩に担ぎ、振り返った。
「はい終了!」
まるで軽い運動でも終えたかのような表情だった。ユリウスが腕を組む。
「……ふむ」
冷静に観察していた視線が動く。
「かなり多彩な攻撃だな……様々な場面で活躍できそうだ」
「でしょ?」
ライラは得意げに笑う。リュカは感心したように呟いた。
「ライラって強かったんだな……」
「今さら?」
ライラが笑った。
その隣で、セラフィナは少し驚いたような顔をしていた。
「次はお前だ」
グスタフが言った。視線はセラフィナに向けられている。
「……私?」
「そうだ」
ゴーレム四体が再び起動する。セラフィナは少しだけ考えた。
「……壊しても大丈夫?」
グスタフは鼻を鳴らし、口角を上げて即答した。
「構わん。好きにやれ」
「じゃあ遠慮なく」
風が静かに巻き上がった。セラフィナの体がゆっくりと浮かび上がる。
「浮いた!?」
リュカが思わず声を上げる。風に揺られてフードが外れ、銀色の髪が広がった。整った顔がはっきりと見える。ライラの目が見開かれる。
(ちょっと待って……セラフィナ、めちゃくちゃ可愛いんだけど)
そんなことを考えている間にも魔法は発動していた。
「土弾――」
土の弾丸が一直線に飛び、ゴーレムの停止ポイントを正確に撃ち抜く。
一体が停止。
「水弾――」
二体目の動きが止まる。
「炎弾――」
三体目も沈黙する。
そして、セラフィナの周囲に魔力が集まり始めた。
赤い宝石が強く輝く。
「炎乱――」
放たれた炎は一瞬で膨れ上がり、残っていたゴーレムを包み込んだ。炎が消えた時四体すべてのゴーレムは動きを止め、訓練場に静寂が落ちる。ユリウスが呟いた。
「……四属性の魔法をあそこまで使いこなすとは」
感嘆が混じる声だった。
「戦術の幅が広がるな」
目が完全に輝いている。リュカは空中に浮かぶセラフィナを見上げた。
(セラフィナって……すごい魔法使いだったんだな……)
そして、ふと思う。
(魔力暴走は……そのせいなのか?……でも……あんなに制御できているのに……)
答えは出ない。セラフィナは静かに地面へ降り立った。
「終わり」
いつも通りの落ち着いた声だった。
「じゃあ次、俺が行くわ」
そう言ってリュカが前へ出る。
「ちょっと待ってくれ」
声をかけたのはユリウスだった。
「君とは手合わせ願いたい」
「え?」
リュカは振り返る。ユリウスは真剣な表情でこちらを見ていた。
「上級冒険者同士、実力を知るにはこれが早いからな」
「えぇー……」
リュカは露骨に困った顔をする。
「許可する」
グスタフが即答した。
「お前も気になっていただろう」
「まぁ……そうだけど」
リュカは頭を掻く。
「本気じゃないよな?」
「もちろん模擬戦だ」
ユリウスは静かに剣を抜いた。
「互いの力量を知るだけだ」
その目は完全に戦う者の目だった。リュカはため息をつく。
「はぁ……なんでこうなるかな」
しかし口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。
それぞれの実力が少しでも分かってもらえれば...
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