3話 指名依頼
朝のグレイスロウ冒険者ギルドは、今日も騒がしかった。
鉄鎧の擦れる音。笑い声。受付前で依頼の紙を取り合う冒険者たち。
1週間前、はぐれモンスターが街に現れた時の緊張感は、もうここにはない。街はすっかり、いつもの日常を取り戻していた。
(……いつも通りだな)
入口からその光景を眺めながら、リュカは静かに息を吐いた。グレイスロウに来てから、もう数ヶ月。冒険者としての生活にも慣れ、顔見知りも増えてきた。
今日もいつも通り、依頼を一つ受けて――そんな一日になるはずだった。
受付へ向かおうとした、その時。
「――リュカさん」
落ち着いた女性の声が背後からかかる。振り向くと、受付カウンターの奥からギルドの事務員であるマイアが歩み出てきていた。柔らかな微笑みを浮かべ、軽く会釈する。
「お待ちしていました」
「……俺を?」
リュカが少し眉を上げる。マイアは頷いた。
「はい。リュカさん宛の指名依頼が届いています」
そして、奥の階段へ視線を向けた。
「こちらへどうぞ」
どうやら普通の依頼ではないらしい。リュカは軽く肩をすくめると、マイアの後に続いた。
ギルド三階。
ここは一般の冒険者がほとんど立ち入らない場所だ。会議室、応接室、そしてギルドマスターの執務室。支部の中枢とも言える階層。
案内された応接室の扉をくぐると、すでに三人の人物が待っていた。
一人は、ソファに腰掛けている紺色の髪の青年。背筋を伸ばして座り、静かに部屋の様子を眺めている。整った顔立ちと落ち着いた佇まい。どこか育ちの良さを感じさせる雰囲気だった。胸元には上級冒険者のタグが見える。
もう一人は――見覚えのある獣人の女性。以前診療所に来たことがある中級冒険者のライラだ。
そして、壁にもたれるように立っていた女性が、ふとこちらを見た。セラフィナだった。目が合う。
「……あ」
小さく声を漏らす。その瞬間。
「リュカじゃん!」
ライラがぱっと立ち上がった。
「あんたも呼ばれてたんだ!」
「……あぁ。ライラもか」
リュカは苦笑する。どうやら顔見知りが多いらしい。セラフィナもリュカの方を見ながら、小さく頭を下げた。
「…どうも…」
まだ少し距離のある対応だった。
その時だった。扉が大きく開く。重い足音と共に入ってきたのは、巨体の男。ギルドマスター、グスタフ。その後ろにマイアが続く。
「……集まったな」
低い声が室内に響く。グスタフはゆっくりと四人を見渡した。
「今回呼んだのはお前らだ」
そう言って、机の上に書類を置く。
「依頼内容は――」
一拍置いてから言った。
「グレイスロウ深層迷宮、五十階層付近の異変調査だ」
部屋の空気がわずかに引き締まる。
五十階層。
それは、上級冒険者でも簡単には踏み込まない領域だった。グスタフは書類を軽く叩く。
「ダンジョン管理室から報告が上がってきた」
マイアが説明を引き継ぐ。
「深層から、異常な魔力の流れが観測されています」
落ち着いた声だった。
「それに伴い、出現モンスターにも変化が起きている可能性があります」
「つまり」
グスタフが腕を組む。
「原因を探れって話だ」
ライラが腕を組みながら言う。
「それで、私たち?」
グスタフは頷いた。
「条件は一つ。単独で四十階層以上に到達した記録があること」
そして四人を順番に見渡す。
「その中から、相性が良さそうな奴を俺が選んだ。……今回は仮パーティを組んで調査してもらう」
部屋が少しだけ静かになる。その沈黙の中、ソファに座っていた紺髪の青年がゆっくりと立ち上がった。
「依頼内容は理解しました」
落ち着いた声だった。
「俺は、ユリウス・ヴォルディ」
軽く頭を下げる。そして四人を見渡した。
「パーティを組む以上、お互いの実力は把握しておきたい」
一瞬、考えるように目を細める。
「提案があります」
その視線が、リュカへ向いた。
「模擬戦をしませんか?」
静かな声だった。
「実力を知るには、それが一番早い」
理路整然とした口調。そしてどこか楽しそうな雰囲気。慎重な上級冒険者らしい提案だった。
登場人物増えました。
ここから1日1話で4日分ぐらい投稿出来そうです。
良かったら評価等お願いいたします。モチベ上がって頑張れます。




