120話後編 これからも。(終)
最終話です。
ユリウスがアルバに手を差し出すと、アルバもその手を取ってユリウスの腕に添えた。
「すまんな。うちの母に付き合わせて」
「いえ!いち早くライラお姉様やセラフィナさんのドレス姿を拝見出来ましたし、軍の礼服しか無かった私に、領主夫人がデザインしてくださったこの軍服のような素敵なドレスに袖を通させて貰えて感無量です!」
「だったらいいんだが……。アルバに良く似合ってるな、それ」
至極真面目な顔でマジマジと見ながら言われたアルバの肩が跳ねた。良く考えるとユリウスはとにかく顔が良い。遠目から見ても整った顔立ちなのに、間近でそんな風に褒められたアルバの顔に熱が集まる。
「うぇっ!?いや、あ……ありがとうございます……私なんてドレスに負けそうですけど……」
「そうか?アルバの雰囲気に合ってて良いと思うぞ。あの人は似合わない物なんて絶対着せないだろうから」
「そ……うですかね……?」
「あぁ。自信もって良い。俺が保証してやる。アルバはアストレアの要人なんだからな」
「……!はい!」
少し縮こまっていたアルバの背筋が伸び、ユリウスと並んで歩く。その足取りは自信に満ち溢れているようだった。
レンティスは肩を抱いていたライラを覗き込むように笑った。
「そろそろ行こうか、僕の愛しいお姫様」
「んんっ……ホント……レンティスさんって……」
「なになに?」
「……流れるように恥ずかしくなっちゃうような事言ってくるわよね……」
「えっ?そぉ?だってライラちゃんが可愛くて仕方ないからしょうがないよねぇ?今日だって本当はこんなに綺麗なライラちゃん、誰にも見せたく無いし閉じ込めて独り占めしたいぐらいなのに」
「それはちょっと困るわ……」
「うん。僕も兄様の式にはライラちゃんと一緒に出たいから流石にしないけど」
そう言うとレンティスはライラの手を取って手のひらに口付け、真っ直ぐライラを見つめた。
「ライラちゃんを手放す気なんて無いからね。兄様の次は僕だから」
目を丸くしたライラが意味を理解した途端、顔がみるみる赤くなっていき、そっと目線を逸らした。
「…………ヨロシクオネガイシマス…………」
「んふふ、言質取ったからね」
レンティスはライラの手を自分の腕に乗せるとそのままゆっくり歩き出した。
ライラがそっと見上げると、愛しさを隠そうともしない程に蕩けそうな青い瞳と目が合った。
その瞬間、ドッと大きな音を立ててライラの心臓が鼓動を奏でる。
きっと、自分はこの瞳にずっと捕われたままなんだろうとライラは何となく感じたのだった。
リュカが手を差し出すと、セラフィナはそっとそれに手を乗せた。
乗せられた手を軽く持つと、リュカはセラフィナの手の甲へ口付けを落とす。
「……行こうか」
「うん……あっ、……はい」
「ははっ、まだそんな畏まらなくていいよ」
「うん……」
セラフィナがリュカの腕に手を置くと、二人はゆっくりと歩きだした。
「慣れないよなぁ……俺らマジでただの庶民だったのに」
「そうだね……まさか、領主様の婚姻式に出席するなんて……」
「そうそう。しかも俺なんて親類枠とかなぁ……」
「……そういえばリュカって人誑しなんだよって言ってたよ。みんなを惹きつける才能が有るんだって。だからこうなっててもおかしくないんじゃないかな」
「……誰がそんな事を?」
「ライラだよ」
「はぁ……ライラは俺の事なんだと思ってんだよホント……」
「リュカとユリウスは沼男だからね」
「…………どゆこと?」
「ハマると抜け出せないから」
「……なるほど?」
いまいちピンと来なかったが、会場に到着した為話はそこで一旦止まった。
中に入るとグランスロット家の家紋を模したステンドグラスに光が入り荘厳な雰囲気があった。
一番前の席にはグランスロットの領主夫妻が右側に、グランヴェル帝国の第二皇子夫妻が左側に座っていた。
グランスロット領主夫妻の後ろにはトールとレンティス、ライラが座っている。
その後ろにユリウスが座っているので、リュカはセラフィナを連れてその横に座った。
アルバは招待客なので後方の席に腰掛けていた。
しばらくして扉が開くと、セリオンが護衛であるサイレスを従えて入場した。
白い生地に金糸の刺繍が施された格式高いフロックコートに身を包んだセリオンが壇上に上がる姿は、元々の美貌も相まって後光が差しているようにすら見える。
胸元には薄紫色のハンカチーフが薔薇の花のように折られて飾られていた。
招待客の中には思わずセリオンへ祈ってしまう人もいるぐらいに神々しいぐらいの様相だ。
少し間を置いてもう一度扉が開いた。
そこには金髪を綺麗に編み上げて、美しい意匠で縁取られたレースのマリアヴェールを被ったセレスティア皇女が純白のドレスで現れる。
ジェシカが渾身の出来だと言う程に、美しいシルクとレース、チュールにビジューで作り上げられたドレスは目を見張る程に綺麗だった。
プリンセスラインのドレスで、上はビスチェでスッキリとした印象だが、パールとダイヤモンドで作られた星が煌めくようなモチーフのネックレスとお揃いのピアスが良く映えていて、ヴェールを留める為の髪飾りも同じモチーフが使われている。
スカートの前側はタッキングされ、所々にシルクとチュールで作られた薔薇の花が飾られ、ビジューの輝きが華を添えていた。
後ろはロングトレーンにヴェールと同じレースとフリルがふんだんに使われておりとても華やかだ。
セレスティア皇女の侍女が長いトレーンの裾を支えて入場し、扉が閉められた。
人前式の立会人であるエルドリア王国の宰相の前で、セリオンとセレスティア皇女は婚姻の宣誓を交わし、お互い書面にサインをする。
そのままセリオンはセレスティア皇女の手を取って指先に口付けを落とす。一歩近づいてヴェールをそっと撫でると、ゆっくり婚姻の口付けを交わした。
「ここに新たなご縁が結ばれた事を承認致しました」
立会人である宰相が高らかに宣言すると、参列者から大きな拍手が送られた。
グレイスロウにある時計台の鐘が大きく鳴っている。
セリオンとセレスティアは並んで壇上から扉に向かって歩いていった。
このまま馬車に乗り、グレイスロウの街中を周るのだ。
領主夫妻の結婚式以来の慶事に街中が華やかに彩られており、領民達は美しい領主代理夫妻を一目見ようと今か今かと待ち構えていて、街中がお祭り騒ぎだった。
二人が式場を後にした後はグランスロット家側は慌ただしくなってくる。
パレードが終わり、二人が帰ってくるまでに一族総出で晩餐会の準備をしなければならないのだ。
領主夫妻とトールはグランヴェル帝国の第二皇子夫妻や他国の要人を領主館の休憩室へと案内していき、ユリウスはアルバをもう一度エスコートして、休憩室へと連れて行った。
リュカはレンティスと共にライラとセラフィナを連れて、親族しか入れないスペースへと連れて行く。
彼女達をソファに座らせ、ゆっくりしていてと伝えると、レンティスはライラの頬に口付け、軽く手を振って颯爽と部屋を出ていった。
それを唖然とした表情で見ていたリュカは小さく笑うと、セラフィナの頬を優しく撫でてから部屋を後にする。
後に残された二人は顔を見合わせて、お互いの赤くなった顔を見て小さく吹き出した。
日も暮れた頃には無事晩餐会が開かれた。
セリオンは紺色のタキシードに着替えていた。襟元や袖元には金糸の刺繍がされている。優雅に着こなしているセリオンの周りに華が舞っているような錯覚を起こしそうになる。彼の周りにいるご婦人から溜め息が漏れていた。
その隣に立つセレスティアは金色のドレス姿だった。
Aラインの流れるようなシルクの生地で作られている。上のホルターネック部分は透明感のある紺色のレースで作られていて、首元で紺色のリボンが結ばれていた。
スカートも金色の生地に金糸で繊細な刺繍が施してあり、更にオーバースカートとして透明感のある紺色のレースがかかっている。レースにも金糸で刺繍がしてあり、とても華やかなのに上品で目を奪われるようなドレスだ。
編み上げられた髪にはゴールドの花モチーフの髪留めが散りばめられ、ピアスは同じモチーフで作られていて、セレスティアの金髪によく映えている。
二人は次から次へと挨拶に来る客の対応に追われていて休む暇も無さそうだった。
リュカとセラフィナは少しだけ談笑の輪から外れた所でカクテルを飲んでいた。リュカはセラフィナの顔を覗き込むようにして声をかけた。
「……大丈夫か?疲れてないか?」
「うん。大丈夫だよ。みんな凄い綺麗なドレスで見てるだけで楽しい」
「そっか。それならいいんだ。疲れたらすぐ言ってな?」
「うん。ありがと」
セラフィナは一口カクテルを流し込むと、ポツリと言葉を溢した。
「……なんかね、人前式でセレスティア皇女、凄く綺麗だったなって思った。ドレスも素敵だったのはそうなんだけど、なんて言うか、ちゃんと幸せそうだなって」
「確かにそうかも。セリオンさんも、何だかんだ皇女様を気に入ってる感じするしな」
「うん。そうだね」
リュカはセレスティアを楽しそうに見つめるセラフィナの横顔を優しく見ていた。
グラスを給仕に渡すと、セラフィナの空いた手を取って指先を緩く絡めた。
その仕草に少しだけ驚いたセラフィナはリュカを見上げる。
「……セラフィナも、やっぱり憧れたりする?人前式とか」
「うん……そうだね。今日、セレスティア皇女見て、白いドレス素敵だなって思ったよ」
「そっか……じゃあさ……」
リュカは絡めていた指先をしっかりと握り直した。
「……俺のために、着てくれる?白いドレス」
「えっ……!?」
「今すぐじゃなくて良いけど、近いうちに……」
耳まで真っ赤になっているが、セラフィナを見つめる瞳は真っ直ぐで、セラフィナもじわじわと顔に熱が集まってくる。
それでも繋がれた手をセラフィナはしっかりと握り返した。
「……うん」
「そっか……ありがとな」
手を繋いだまま、二人は真っ直ぐ前を向いていた。
様々な人達の騒めきを聴きながらも、確かに此処に居るんだと、お互いの手の温もりを感じていた。
「あー!いたいた。セラフィナ!リュカも!こっちで何か食べましょ!私達の分わざわざ準備してくれたみたいよ」
ライラの声に振り向けば、そこにはライラをエスコートしているレンティスがいて、ユリウスもアルバを連れている。
その奥ではトールと領主夫妻がにこやかにこっちを見ていた。
リュカはセラフィナと顔を見合わせると小さく頷いて、もう一度前を向いた。
「あぁ、今行くよ」
セラフィナと繋いだ手はそのままに、リュカはみんなの方へ足を向けた。
思っていたよりも軽やかに前へ進む。
未来の約束に、一歩踏み出すように。
最後の最後でユリウスの沼っぷりを発揮。ハマると抜け出せ無いよ!アルバちゃん!!
サラリとプロポーズする重たい男代表レンティス兄さん。ライラはもう抜け出せない。
リュカもセラフィナと、未来の為に一歩踏み出していきました。
これにて【聖槍の光、魔杖の夜】一旦完結です。
途中、更新までの間が空いたりしていましたが、無事に完結する事が出来て本当に良かったです。
この話のテーマ『孤独な二人の再生と成長の物語』をなんとか書ききれたのではないかなと思っています。
リュカとセラフィナの中には恋愛感情だけじゃなくて、友情、家族の愛情、師弟としての敬愛、仲間への信頼等など…。
沢山の愛のカタチがあって、それを受けて、二人はお互いに欠けていた所を埋めていく。
二人の世界は孤独の舐め合いで終わる訳じゃなくて、取り巻く人達とこれからも未来を作って行くのだと、示唆出来ていたらいいなぁと、拙い文章でしたが伝わってて欲しい。
まだまだ番外編などで書きたい話もたくさんあり何か書くとは思うんですが、次回、第3回登場人物紹介を更新したら、一旦完結設定にする予定です。
私自身初めての長編小説で、本当に読みづらい所もあったと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございました!
評価やブックマークもとても嬉しかったです。
ではまた、番外編でお会いしましょう(。・ω・)ノ゛




