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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
3章 エルドリア王国
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72話 国家機密案件

「……イグニスについてはこんな感じだね。彼女を喪った時に、彼は完全に心を壊してしまったんだ。彼が今まで研究していたり、調べていた物は全て置いて去っていってしまってね。唯一無くなっていたのが、彼が机の上に置いていた彼女の写真だけだった」

 

 リシェルは話し終わると、ビーカーに入れたお茶を一口飲んで、小さく息を吐いた。

 

 レンティスは足を組み直しながら顎に手を置いて考え込んでいた。

「……洗脳魔法……禁忌の研究……ダンジョンのコア……ね」

 小さく呟いた後は顔を上げ、レンティスはリシェルに視線を向ける。 

「リシェルさん、イグニスの研究資料はまだ残っていますか?」  

「……残っているよ。いくつか、他の研究員と共同でやっていたもの以外の資料と、禁忌に触れる物は、僕が管理してる」

 

 ふと、リュカが小さく手を挙げてリシェルに聞いた。

「あの、一つ気になったんですけど、なんであの魔導具をイグニスって人が作ったって分かるんですか?」 

 リシェルは目を見開くと、眉を下げて小さく笑う。 

「あぁ、それはね、彼が残していった研究資料の中に、似たような機能を記した魔導具の構想があったからだ。それに、魔導具を()()で作ったなんて人物、彼以外考えられないよ。……資料を持って来る。量が多いから、すまないがレンティス君、手伝ってもらえるかな?」

「えぇ、良いですよ。行きましょうか。ユリウス達ごめんけど、これでも食べてもう少し待ってて」

 レンティスはそう言うと、魔法鞄から紙袋を取り出して隣に座っていたライラに手渡すと、リシェルと共に部屋を出ていった。


 扉が閉まると部屋に沈黙が落ちる。

 しばらくして、ライラは無言で紙袋を開けると中に入っていた紅茶のクッキーを机の上に広げ、一枚手に取ってそれを齧った。

「……美味し……ほら、折角貰ったしみんなも食べよ」

 その言葉で、それぞれクッキーを手に取って食べ始めた。

「…うまっ!……なぁ、さっきの話が合ってるなら、今はアストレアの研究員になってるって事だよな」

「そうだろうな。リシェル所長の話を聞く限りだと、蘇生魔法に至る過程に不死の研究があるから、そこに在籍しているような気がする」

「そうなんだよな……アストレアの研究施設で、人体実験みたいな非人道的な研究もやってるだろうし……」

 リュカはビーカーを手に取り、少し冷めたお茶を一口飲む。

「あのクソ野郎も、裏の仕事で“素材集め”をしてたんだもんね。……でも、さっき言ってた、人からも魔石が採れるって、本当なのかしら……それなら、ちょっと怖いわね……」

「それもだが、ダンジョンが古代兵器や魔導具の成れの果て、という話の方も衝撃的だ。あくまで仮説だと言っていたが…」 

「……古代文明が精霊を道具として使ってたっていう話もなんか嫌だな……」

 

「……てか、これ、俺達が聞いてもいい話だったのか?」


 リュカの言葉に三人が固まった。

 沈黙が広がり、時間だけが過ぎていく。その時、ユリウスが絞り出すように言葉を発する。


「………………王国騎士団のレンティス兄さんが居るから……ギリギリ……大丈夫か……?」


「「「…………」」」


 やはり、研究所からの依頼はヤバい案件だったと全員顔をしかめるしか無かった。


 全員が俯いて項垂れる中、扉が開いた。

「えっ……なんでみんなそんな暗い顔してるの?」

 資料を両手いっぱいに抱えたレンティスとリシェルが四人の姿を見て不思議そうな顔をした。



「あっはっはっはっ!!そんな事であんな暗い顔してたの?」

 理由を聞きレンティスは笑い飛ばしていたが、ユリウスが苦い顔をしてレンティスを見た。

「兄さんは良いかもしれんが、俺たちただの冒険者だぞ?」

 

「んふふふ……あの案件の当事者が何言ってんの。君たちのパーティは、これからしばらく()と動いてもらわなきゃならないんだよ」


「えっ?どうしてですか?」


「うん。それを今から説明するね」

 ひとしきり笑ったレンティスは姿勢を正し、四人を見渡した。

「あの洗脳の魔導具、ヤバい物だっていうのは分かるよね?」

 四人は小さく頷いた。

「リシェルさんに解析してもらった現時点での結果なんだけど、この魔導具には上質な魔石が使われてた。そこに、睡眠、催眠、洗脳三つの魔法が誰でも使用出来るように高度な回路が組んである。使用回数に制限があるかはまだ分からないけど、こんな禁忌の魔導具を趣味で作るとか本当に優秀な研究員だよ」

 レンティスはソファの肘掛けにもたれ頬杖をつく。


「これについて知っているのはガルディア連合国のファイフさん、ガルディアの王含む上層部三名、エルドリアは陛下含む上層部三名、僕の部隊、ユリウスのパーティ、後はセリオン兄様達。研究所ではリシェルさんだけ。国同士でも最高機密情報として扱われてる」


「……国家の最高機密情報を俺達が知っているから、監視が付くという事なのか?」

「うーん、それはちょっと違うんだよね。どっちかと言うとユリウスのパーティに協力を求めてる、の方が正しい」

「協力?」

 

「うん。これを作ったイグニスの追跡調査及び闇魔法への対処法の確立って所かな」

 

 レンティスは頬杖をつきながら、持ってきた資料に視線を移した。

どう足掻いても避けられない問題。

ただの冒険者だったはずなのに……

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