嫉妬
春風のふく校庭。
そこに暖かく心地のよい空気を吹き飛ばすかのようなどよめきがワッと起こった。
「うおおおお!」
「嘘だろ!?」
「だ、誰だあいつ??」
「スゲェーー!!」
「ありえねーー!!」
「え?筋肉全然ないのに!?」
大歓声の中、ポツンとたたずむグシケン。
何が起こったのか自分でもわからなくてキョトンとしているのだ。
そしてアフロが春のそよ風に揺れている。
平和そうなその顔は、今にもアフロに小鳥が飛んできて巣作りを始めそうなほど健やかだ。
「グシケン君、、、?」
カズミも驚きでポカンとしている。
そして次の瞬間、そのざわついた空気を切り裂くような声が轟いた。
「デタラメだ!!!」
叫んだのは中井彗星だ。
「わ、私は信じないぞ!!」
その声に驚いてシーンと静まり返る。
「12万6千だと?そんなデタラメな数字、何かの間違いに決まってる!」
それを聞いてまたキョトンとするグシケン。
「そんな顔してとぼけても無駄だ!貴様、何か不正をしたんだろ?素直に白状しろ!」
他の生徒もそれを聞いてだんだんとグシケンに疑念が湧いてくる。
「不正?インチキなのか?」
「え?そうなの?」
「確かに筋肉もないしおかしいよな?」
「それもそうだな、おかしいよな。」
ザワザワする校庭。
次第に疑心暗鬼につつまれてゆくのが分かる。
「なんだよびっくりさせやがって。」
「え?嘘なの?信じられない。そんな嘘つく?」
「だいたいあの筋肉じゃろくな魔素はないだろ?」
「先生の弱みでも握ってるんじゃないの?」
「え?マジで?最低、、、」
ヒソヒソと音も葉もない事を言い始める生徒たちの声にグシケンは不安な表情を隠せない。
しかし、カズミにはそれが耐えられなかった。
そして
「あなた達!お黙りなさい!!」
真っ黒なオーラを放ちながらカズミは叫んだ。
「インチキなんて!グシケン君がそんなことできるわけがないでしょ!?」
その手にはすでに中井彗星の頭が握りしめられている。
メリメリと頭を締め付けられて持ち上げられ、手足はバタバタともがいている。
「こんなひ弱なチンチクリンの言うことが真実だって言うの?」
そう言いながらカズミは中井彗星の頭を握ったまま中井彗星。横八の字に振り回し始める。
「フォオオオオオオ!」
まるでヌンチャクでも振り回すかの様に高速で中井彗星をブンブンと振り回すと、彼の手足はもがくこともできずダラリとなすがままになった。
流石にここでバルクアップ先生が口を挟む。
「やめなさい!貴族に手を出せばタダでは済まないぞ!?」
先生はさも不快そうにカズミを諌めるがカズミは見向きもしない。
それに引き換えパンプアップ先生はやる気がなさそうだ。
「おいおい、入学早々やらかしてくれるな。」
と、止めるでもなくやれやれといった感じで眺めている。
他の先生たちは慌てて止めに入るがカズミの丸太の様に太い腕はビクともしない。
グシケンはというとカズミの暴走に「あわあわ」と慌てふためいている。
もはや誰にも止められないと思ったその時だった。
「これこれ、おやめなさい。」
と、大きなカズミを軽々と持ち上げて空中へポイッと投げた小男が一人。
そう、校長のブッダだ。
カズミは何が起こったか理解できないまま空中でジタバタして浮かんでいる。
「ラホツ魔法、涅槃寂静。」
ブッダが手をかざしてそう唱えると黄金の輝きが辺りを包む。
気がつくとカズミは信じられないぐらい穏やかな気持ちになっていた。
「あれ、、?私、、グシケン君を守らなくちゃいけないのに、、なんか安らぐ、、」
と、カズミはポトリと中井彗星を手放して落としてしまった。
落ちた中井彗星も宙に浮かせてキャッチすると、ブッダはほがらかに微笑んでいる。
「あなた達、おいたが過ぎますよ。」
穏やかだが凄みが溢れ出している。
そして何より有難い雰囲気。
そのお姿にカズミも思わず涙を流して合掌した。
すると皆も自然と合掌する。
その時だった。
晴れ渡った空の彼方より真っ黒い影が突然モクモクと雲のように沸き起こる。
その『影』は真っ青な空にみるみる大きく近づいてくるとその闇の中から邪悪な気配とともに赤黒く光る2つの目が現れた。
「生徒達を校舎へ避難させろ!私が食い止める!」
ブッダはそう言うとふわりと浮かび上がって
「天上天下唯我独尊」
その言葉と共に巨大化して黒い影に立ちはだかる。
「ブッサよ、何をしに来た?また痛い目を見たいのか?」
黒い影は不敵に笑う。
「フハハハ!!ブッダよ!兄貴ヅラしていられるのもこれまでだ!」
その言葉が終わるか終わらないかのタイミングだった。
突然地面から黒い影が突き出てきてカズミを飲み込んで地中に引きずり込んでしまった。
カズミは叫ぶ暇もなく一瞬でグシケンの眼の前から消え去ったのだ。
「カズミ!?」
グシケンはあまりの出来事に狼狽えて何も出来ずにただ立ちすくむ事しか出来ずにいた。