カズミ
そこに立っていた男は生徒全員にとって見覚えがあった。
可愛らしい顔立ちをした小柄で小太りな男。
そうこのミュスクル魔法学園の園長ブッダにうり二つだった。
違うといえば髪型ぐらい。
ブッダは大仏の様なラホツヘアー。
しかしこのブッサはロングヘアー。
モジャモジャしていないのだ。
「よくもこの姿をさらけ出させてくれたな、ブッダ。」
不満そうなブッサに向かって苦しそうに、それでいて少し勝ち誇ったかのようにブッダは言う。
「久しぶりじゃないか、我が弟よ。少し老けたか?」
「お前に言われたくないわ!闇のオーラがなくなったからといって状況は変わらないぞ!次の魔法で消し飛ばしてくれる!」
「できるかの?曼荼羅の効果は悪しき存在の浄化。お前の闇は全て消し去った。いかにお前でもそう容易く回復はすまいぞ。無駄な抵抗はするな。」
「うるさい!勝った気でいるな!」
ブッサはそう言うと闇のグリモアールを出そうとする。
が、出ない。
「な、なんだこれは!?何をした!?」
「俺の闇を浄化したというのか?」
「お、おのれ!ならばこうだ!」
ブッサがそういうと、彼の胸のところが不自然に盛り上がり始める。
グイグイと突き出してきてそれがだんだんと誰かの顔のように見えてきた。
そう、それはカズミの顔だった。
グシケンは思わず叫ぶ。
「カズミ!?カズミなのか!?大丈夫なのか!?」
しかしカズミの顔は虚ろだ。
グシケンの声に気がついてさえいない。
ブッダはさらに険しい表情でポツリとつぶやく。
「ブッサ、お前はそこまで落ちたか、、、」
カズミの顔はブッサの胸の中でうごめくようにもがいている。
そして苦しそうにもがけばもがくほどに闇のオーラが溢れ出してきた。
そのうめき声は地の底に響くように人々の不安を誘った。
グシケンは思わず飛び出してグリモアールを出したが彼には「アフロディーテ」しかない。
皆をアフロにするだけの役立たずな魔法だ。
「ちくしょう!ちくしょう!俺は、俺は、無力だ、、、」
悔し涙を流しながら何もできない自分を責めるグシケンの肩をブッダは優しくトンと叩く。
「グシケンよ、お前は強くなる。だが今は待て、アフロディーテは範囲を絞れば強力な支援魔法になる。だが今はいかん、敵に当たれば敵の魔力も強化してしまう。」
ハッと振り返るグシケン。
「でも、カズミが、、、俺にはカズミが、、、」
グシケンの肩を持つブッダの力が強くなるのを感じた。
「グシケン、すまぬ、私の力が足りなかった。彼女は、、、もう、、、」
「え?」
「魔素ごとブッサの体に取り込まれてしまっておる、、、あれではもう私の力では助けることはできぬ、、、」
それだけ言うとブッダはガクリと膝をついて立っていることも出来ない様子だ。
「園長!そ、そんな、、、」
二人がそうこうしている間にもブッサの胸からは亀のようにカズミの顔が突き抜けてきている。
そしてその頭上に闇のグリモアールが現れた。
「フハハハ!これで終わりだな!ブッダ!!」
さも勝利を確信したかのように高らかに笑うブッサにブッダはもはな虫の息だ。
「グシケン、お前は死ぬな。」
そう言って再びブッサの前に立ちはだかる。
「悪魔のブレス!!」
ブッサのその言葉とともに再び黒い炎がブッダたちに迫りくる。
「ここまでか、、、だが子供達はやらせん。」
ブッダは合掌すると目をつぶった。
「梵我一如!」
そして今度はブッダの体が大きな赤い炎に包まれる。
翼のように燃え上がる炎は一路ブッサの放った悪魔のブレスへ飛び立った。
その巨大な黒い炎と赤い炎はぶつかり合いの威力は凄まじく、辺りはしばらく何もみえなくなった。
グシケンたちは伏せて耐えることしかできなかった。
しばらくして嵐が収まると正面にブッサの影が見えた。
ブッダは仰向けに倒れている。
「そ、そんな?」
しかしブッサの様子もおかしかった。
ブッダの魔法はブッサの頭を撃ち抜いていたのだ。
ブズブスと炎があちこちにくすぶっている中、生徒たちはや教師たちはブッダの元に駆け寄った。
「園長!」
「ブッダ樣!」
しかし返事はない。
「まさか、、、?」
「そんな、、、?」
「ブッダ樣?」
だがグシケンがブッダのその手に触れてみるとまだ脈はあった。
「気を、失っているだけなのか?」
その言葉に一同安堵するもつかの間、今度はブッサの方からうめき声が聞こえてくる。
「な、なんだあれ!?」
頭部を失ったブッサはブリッジをする形でよつばいになり、胸部から亀のように突き出たカズミが蠢きながら周りを攻撃し始めたのだ。
「カ、カズミ!?カズミなのか!?」
それはもはや化け物にしか見えなかった。




