23 お持ち帰り
23 お持ち帰り
飯塚春菜
そして、結局その日の夜、奢ってもらうはずだったのに、自分でお金を払った。なぜかといえば、上司を潰してしまったからです……。
「お嬢ちゃん、このお兄ちゃん、どうすんの?」
バーのマスターに言われた。カウンターに突っ伏して寝てしまった中川さんを指差して。
「お持ち帰りします」
「男が女をではなくて、女が男をか」
「いけませんか?」
「いけなくはないけど、俺も男だからいうけど、ここまで酔うと今晩は役に立たないよ」
「はぁ、でしょうね」
わたしはすぐ横で寝ている中川さんを見る。
「それでも持ち帰るのか」
「はい」
「あ、あれか。さも、何かあったかのように言って既成事実を作るのか」
「そんな詐欺師みたいなことしませんよ」
「お嬢ちゃん」
マスターはふるふると顔を横に振ってから言った。
「そんな綺麗事ばっか言ってちゃ、世の中生きていけないよ」
「……」
神谷秀と少し似てるな、この人と思う。
「ま、でも、その心意気には感じるものもあるし、お嬢ちゃんではこのお兄ちゃんを運べないだろうから、タクシーに乗せるまで手伝ってあげよう」
そして、泥酔して歩けない人をタクシーに乗せてくれました。
タクシーの運転手さんは、泥酔している客を見て、嫌な顔をした。
「車の中で吐いたりしないでしょうね。その人」
「さぁ」
「困るんだけどなぁ」
「まぁ、そんなこと言わずに出してください」
自分の家の場所をいう。タクシー代くらいは中川さんに出してもらおうかなと勝手に人のポケットを探ってみた。財布はどこだ?
「なに、その人、お嬢ちゃんの彼氏?」
「いいえ」
なぜ今晩出会うおじさんは皆、わたしのことをお嬢ちゃんと呼ぶのか。まぁいいか。
「え、じゃあ、お嬢ちゃんが降りた後、この人一人で乗せる気?」
「いや、今晩はうちに泊めます」
「彼氏でもないのに?」
「上司なんです」
「いや、上司が潰れちゃダメでしょ」
「今晩はわたしが飲ませちゃったんで」
「あ、そういうこと」
いや、そういうことってどういうこと?
「まぁ、お嬢ちゃんがそれでいいなら、おじさんはもう何も言わない」
結局、わたしがお持ち帰りするってことで、目撃証言が二つできてしまったな。故意に酒を飲ませ泥酔させた後、飲食店経営の男性の手を借りて車に乗せるとタクシーで拉致、自宅にて監禁したのちに、二人が出勤してこないことを心配した経営者K氏の手によって発見され、N氏は保護された模様である。容疑者のIは今回が初犯であり、犯行に至った経緯には同情できる余地もあるとして、今回は執行猶予がつく流れとなった。
「うーん」
とうとう前科者になるな、いや、でも、執行猶予は前科になるんだっけ?と思いながらタクシーに乗っていると、中川さんが唸った。
「中川さん、吐いちゃダメですよ」
「え、なに?吐く?停める?」
おじさんがエキサイトし出した。でも、中川さんはそれきりまたピクリともしなくなった。
「ね、その人、大丈夫?」
「いや、大丈夫じゃないと困ります。大丈夫です」
「急性アルコール中毒とか……」
「……」
真夜中にタクシーの中でスマホで急性アルコール中毒を検索。症状を確認。呼びかけに応じない。そうか。
「中川さん、中川さん」
「んー」
「大丈夫ですか?中川さん」
バシバシ叩いた。やばい。どうしよう。やばい。
これは業務上過失致死か?執行猶予つくだろうか。
「なに……」
「大丈夫ですか?」
「気持ち悪い」
「吐きたい?」
「何?吐きたい?」
このタクシーの運ちゃんはそこにのみ過敏に反応する。
その後、むやむやと何か言いながらまた眠ってしまった。なんか可愛かった。子供みたい。
「何、停める?吐く?」
「また、寝ました」
「さっさと吐いたほうがいいのに」
「……」
どうしても吐かせたいらしい。でも、また寝てるし。呼びかけには応じたし。このまま運ぶ。
「はい、ついたよ」
メーター倒してそっけなく言われた。さっさと降りろとドアが開く。
「この人、運べないんですけど」
「そんなのそっちの事情でしょ」
バーのマスターは心意気に感じてくれて、お持ち帰りの手伝いをしてくれたのに、この運ちゃんはやたらと文句を言った挙句、女の細腕で、この、太ってはないけど背丈はわたしよりあるし、どう考えても運べない人を運べという。
「そこのお前っ!」
指差してやった。
「なになに、急に」
「本来なら明かすつもりはなかったが、わたしは本当はそんじょそこらの小娘ではないっ!」
「じゃあ、なんなの?」
「サーターアンダーギー教の開祖である!」
チーン
この時、わたしもそれなりに酔っておりました。
「このものはわたしの今夜の生贄なのだ」
「いや、さっき、上司だって言ってたじゃない」
「それはそれ、これはこれだ。これは生贄だっ!運ぶのを手伝え」
「……」
「心配するな。刑事上罪を問われるような程度で痛めつける予定はない。ちびっとだ。ちびっと」
チーン
それでも動かない。おっさん。
「手伝わなければ、呪いをかけるぞ」
「おいおいおい」
「その代わり、手伝ったら祝福を授ける」
「どんな?」
意外とのってきた。
「万馬券が当たる」
「……」
「嘘じゃない。明日、必ず競馬場へ行きなさい」
「……」
本物のバカなのか、それとも、頭のおかしい小娘の相手をするのに疲れたのか、おっさんは泥酔の中川さんを肩に担いでくれました。こうでなくては。
「見た目より重いじゃない。お嬢ちゃんもそっちかつぎな」
「いいけど、万馬券ではなくなるぞ」
「いいからかつげ」
そして不親切な運ちゃんは玄関先に生贄を押し込むと帰ろうとする。
「奥まで……」
「ああ、そこで寝たって風邪引かないでしょ」
「万馬券じゃなくなるぞー」
行ってしまった。やれやれ。ま、しかし、ここまで運んでもらったのでもよしとするか。後少しで路上に捨てられるところだったもの。それにしても、いざという時にあからさまにみょうちくりんな話をすると、意外と相手がめんどくさがってこっちの要求を聞いてくれるものなのだな。ミゲールもこうやって徐々にああいう世界に入っていったに違いない。
さてと……
「中川さーん、起きてくださーい。最後ぐらいは自分の足でベッドまで行ってくださーい」
「うーん」
「専務ー」
「……」
「専務ー」
「専務と呼ぶな」
これにはそれでも反応するんかい。おもろいな。
「中川専務ー」
「ああ、もう、だから、専務と呼ぶな」
起き上がった。キョロキョロしてる。
「ここどこ?」
「夢の中です」
「はぁ」
「専務、ここは木の床の上です。こんなところでお休みになってはお体に毒です」
「なんで、俺の夢の中にづかちゃんが出てくるんだろう?」
「なんででしょうね。多分、仕事上で何か言い忘れたことがあって気になってるからじゃないですか」
「うーん」
「ま、仕事のことは明日考えればいいです。さ、専務、奥のベッドでお休みになってください」
ふらふらと立ち上がった。それから、しゃがみこんだぞ。中川崇。
「気持ち悪い」
「気のせいですよ」
「いや、気持ち悪い」
「じゃ、歩かないでいいから、このままはって行ってください。軍人にでもなったと思って、狭い家です。すぐそこです」
四つん這いで前へ進む。この人吐くかもなと思って、洗面所から洗面器を持ってきた。
「あ、じゃあ、このままここに横になって」
なんとか辿り着くとわたしのベッドの上に横になって眠り始めた。自分の花柄の布団にくるまって中川さんが寝ているのは不思議な光景でした。別に誰に咎められるわけでもない。飽きるまですぐそばで寝顔を見続けた。
中川崇
朝起きると、見慣れない天井が見えた。そして、頭が割れるように痛かった。それで、体を起こすと、自分のものではないTシャツを着ていて、自分の部屋ではないところにいて、何が何だかわからずに周りを見渡すと、自分が寝かされているベット脇の床に、づかちゃんが寝ていた。
頭が割れるように痛いなと思いながら、しばらくじっとづかちゃんが床の上で寝ている様子を眺めた。そして、きっとこれは夢に違いない。夢であってくれと思い、もう一度横になって目を瞑った。心臓がドキドキして眠れず、それでも、しばらく眠ろうと悪戦苦闘した上で、諦めてもう一度起き上がる。やっぱりそこは他人の部屋で、で、部屋の感じから行くと女の子の部屋で、そして、床に寝ているのはづかちゃんだから、きっとここはづかちゃんの部屋なのだろう。
なんでここにいるのか、さっぱり覚えてないんだけど……
痛い頭の痛さと痛さの合間とでもいうのだろうか、すこーしずつ思考力が戻ってくる。
これ、やべえ。
昨日、一緒に飲んでた。途中から記憶がない。それで、今、部下の女の子の部屋で目覚めました。俺、なんかしたんだろうか……。
布団をめくって自分が服を着ているか確認してみた。上が自分のものではない、しかし、メンズのTシャツ着てて、下が下着姿だった。(念のために言っておきますがブリーフではありません)よく見ると自分のスーツとワイシャツは部屋の片隅にきちんと架けられてました。
俺、服、脱いだの?
……なんか、したんだろうか?しかもよりによって、直属の部下に……。
酒の飲み過ぎとはまた別に、さーっと血の気が引いて、気持ち悪くなってきた。
スーツのまま寝てたらここまで不安にはならなかっただろう。
そっと床の上のづかちゃんを見る。裸ではない。
それに、一つのベッドで寝てたわけじゃない。
だから、きっと何もない。きっと何もなかったはずだ。
……覚えてない。
このまま不安なままでづかちゃんが起きるまで待つのがしんどくなってきたので、大変申し訳ないが気持ちよさそうに寝ている部下を起こした。
「づかちゃん、づかちゃん」
うーんと言った後に、目を開けた。しばらくじっと僕をみた後にボケっとした顔で体を起こし、あくびをした。
「あの、ここ、どこ?」
「夢の中です」
「そうか、やっぱり夢の中か」
パタリと倒れてまた寝始めてしまった。
「とはならないでしょ?夢の中じゃないでしょ?」
「休みの日くらいもうちょっと寝かしてくださいよ」
「わかった。寝てもいいから一つだけ答えて」
「何に?」
「俺、昨日、何かした?」
もう一度目を閉じて眠りかかってたのがパチリとまた開いた。ボケっとした顔のままもう一度むくりと起きた。そして、じっと俺の顔を見ている。
「……」
「何も言わないってことはやっぱりなんかしたってこと?」
「……」
腕を組んで、首を傾げてしかめ面しながら何か考える。これはやっぱりなんかしたなと思う。
「ほんっとすみません」
「してませんよ。何にも」
「へ?」
「残念ながら」
「……」
そして、パタリと倒れてまた寝だした。
今、なんて言った?残念ながら?それ、どういう意味?
……
ま、でも、何もなかったのか。やれやれ。
……
で、俺はどうすればいいのだろう?何もなかったのは喜ばしいが、それでも、部下の女の子の部屋に泊まってはならない。づかちゃんが寝てる間にさっさと帰って、明日からは今日のことはなかったことにする?いや、それは、ダメだな。もうちょっとちゃんと本人と話してからでないと。
しかし、寝てます。
やれやれ。
しばらく気持ちよさそうに寝ているづかちゃんの寝顔見たり、勝手に人の部屋をジロジロ見たりして時間を潰していたが、つまらないのでそっと起き上がり勝手に人んちの台所漁った。コーヒーがあったので、やかんに水を入れて火にかけた。
そして、お湯が沸くまでにまた思った。
さっき、残念ながらと言ったよなと。……ま、きっとでも、彼女流の冗談だったんだろう。
しかし、このシチュエーションで、そんな冗談、いう?
お湯が沸いた。
勝手に人んちのコーヒーカップとドリッパーとペーパーフィルター、コーヒーの粉を出してコーヒーを淹れた。すると家主がのそのそと起きてきた。
「中川さんがうちの台所でコーヒー淹れてる、変なの」
「勝手に使っちゃった。ごめん」
「わたしのありますか?」
「これをあげる」
「中川さんは?」
「もう一個淹れる」
淹れたてのコーヒーを彼女に渡して、もう一つコーヒーを淹れる。コーヒーの香りを嗅ぐと、頭の痛いのが少し治まった。づかちゃんは奥の部屋に戻らずに立ったままコーヒーを飲みながら僕を見てました。化粧をせずに部屋着姿の彼女は、当たり前と言っては当たり前だけど、普段の彼女とはまた違った。ショートパンツから若い女の子の綺麗な足が見えたので、ジロジロ見ないようにした。
コーヒー片手にテーブルに向かい合って座った。朝の光が眩しい中で。
「もう気持ち悪くないですか?」
「頭が痛いけど、まぁ、平気」
「よかったです」
「あの」
「はい」
「今日のことはなかったことに」
ぷっと笑われた。
「だから何もなかったんですってば」
「まぁ、そうなんだけど、でも、部屋に泊まったってだけでもさ」
「はい」
「なかったことに」
「わかりました。じゃ、秘密ですね」
「すみません。そういうことで」
いつもなら他愛もないおしゃべりを繰り返すのに、この日はなんか調子が狂った。なんとなく二人で黙ってコーヒーを飲んだ。その時流れている空気の雰囲気が、まるで初めてそうなった男女の間に流れているようななんだか親密な調子を含んでいて、いや、だから違うんだってと自分で自分に言うのだけど、錯覚してしまう。
「これ、誰の?」
「え?」
僕は自分の着ているTシャツを指差した。
「女物じゃないよね?」
「ああ、元カレの遺物」
「あ、そうですか」
会話が終わってしまった。
「着替えさしてくれたの?」
「シャツぐちゃぐちゃなっちゃうと思って」
「下も?」
「ズボンぐちゃぐちゃなっちゃうと思って」
「……」
「脱がさない方がよかったですか?」
「いや、別に」
もう一度会話が終わってしまった。僕は飲み終わったコーヒーカップを持って立ち上がった。
「じゃ、おせわになりました。そろそろ着替えて帰ります」
「あ、シャワーとか浴びないでいいですか?」
「え……」
僕がづかちゃんを見て、づかちゃんが僕を見る。
「あ、そうですよね。おかしいですよね。シャワーは」
「お気持ちだけいただきます。自分の家で浴びます」
顔だけ洗わせてもらって着替えて外へ出た。
そして、帰りの電車の中でまた思う。
残念ながらって……それに、シャワー浴びていきますかって……
というか、普通、いくら上司だからって、一人暮らしの部屋に男をあげるか?
何度考えても疑問でしかない謎々をこの日僕は抱えた。
***
「あの、野田くん、ちょっといい」
「あ、はい。なんですか?」
「ちょっと」
神谷が不在の時に、隙を見て部下を呼んで社長室に籠る。
「すみません。なんか、僕、やりました?」
「いえ、そういうことではありません。ちょっと、そこに座ってくれる」
「はい」
「今から話すことは」
「はい」
「……ここ、この部屋、盗聴器とかないよね?」
「え……」
ちょっと立ち上がってあちこち見渡す。盗聴器をつけるとしたら、どこだ?
「あの、中川さん」
「ん?」
「うちの社長に盗聴器が必要だとは流石に思いませんが」
「うん」
「それでもつけなくてはいけない時、それを準備して設置するのは中川さんだと思うんです」
「うん」
「だから、中川さんが知らないってことはここに盗聴器はありません」
「あ、そうか」
そう言われて立ち上がってフラフラしてたのを席に戻ってすとんと座る。
「あのね、野田くん」
「はい」
「単刀直入にいうと、自分てちょっと最近の野田くんと同じくらいの歳の女の子の言動や行動がよくわからないんです」
「あ、はい」
「だから、君に聞きたいんですけど、普通女の子って家族でも彼氏でもない男の人を部屋にあげたりしないですよね。一人暮らしの」
「ああ……、ないですね」
「じゃ、家族でも彼氏でもないのに家に入れてもらった場合、それってどういう意味なんだろう?」
「そりゃ、そういう意味じゃないですか」
「こう、酔った流れで泊めてもらったとかでも?」
「いや、そりゃバリバリ、手、出してくださいって誘われてますよ」
「……」
頭を抱えた。
「そのシチュエーションで、手、出さなかったんですか?」
「……」
「それ、失礼ですよ。反対に」
「いや、でも、正体不明で眠り込んでたから」
「ああ」
「だから、そういうことを期待して連れて行かれたんじゃなくて、親切だよね?」
「それでも、やっぱ普通は自分の部屋に入れませんよ」
「……」
「タクシーで中川さんの部屋まで送ると思いますよ」
「家わかんなかったとか?」
「それにしたって自分の家はなぁ」
「ないか」
「ないですよ。襲われてもいい相手じゃない限り」
「……」
頭を抱えた。
「結構、好みの子だったんですか?」
「そういう目で見たことないし」
「そうですか」
「ま、でも、あの日は酔っ払ってたし、無理」
「じゃ、次の日の朝は?」
「え、いや、朝から?ないっしょ」
引いた。
「待ってたかもしれませんよ」
「……」
「なんか誘われるようなこと言われませんでした?」
「いや、至ってサバサバしてたような」
「でも、家にあげといて……。本当に何も言われませんでした?」
「いや、ね」
「はい」
「朝起きて記憶がないから、俺、なんかしませんでしたかって聞いたら、残念ながら何もありませんでしたって」
「ほら、やっぱり誘われてるじゃないですか」
「えっ、こんな些細な言葉で?」
「そりゃ、女の方からあからさまに誘えないでしょ?」
更に引いた。
「でも、それで、あ、そうですか。じゃあ今からっていかないでしょ」
「まぁ、確かにちょっと朝からそんな気分じゃないですよね。よっぽどの人じゃない限り」
やれやれ。
「でも、多分、待ってましたよ」
「え……」
「なんか他にありませんでしたか?」
「えーっと、あ……」
「なんですか?」
「シャワー、浴びてけって」
笑われた。
「いや、そんな笑わなくても」
「すみません。でも、それ、あからさまにやっぱ誘われてますよ」
「……」
「そこまで言われて、それでも何もしないで帰ってきたんですか?」
「シャワーも浴びず、着替えて帰ってきた」
「いや、相手の女の子、完全に振られたと思ってますよね」
「でも、そういう関係の相手じゃないし」
「1ミリも可能性ないと思わせましたね。ここまでしたのに手、出されなかったら」
「……」
もう一度笑われた。
「中川さん、しっかりしてくださいよ。社長みたくなってくださいとは言いませんけど……」
「いや、でも、こっちの勘違いだったら……」
「だから、襲われたくない人を一人暮らしの部屋になんて普通あげませんって」
「……」
「ま、でも、結局は好みじゃなかったってことですよね?」
「そういう目で見たことないし」
「その子にはかわいそうだけど、でも、何もなくてよかったんじゃないですか。中川さん、適当に手出すような人じゃないでしょ?社長と違って」
「まあ、そうですね」
「じゃあいいじゃないですか。それで」
その場はそれで終わり、野田くんは部屋を出てった。でもね、野田くん。君の知らない事実が一つあります。その子は、直属の部下です。直属の上司と部下の間でこういうことが起こった場合、それでも、やっぱり誘われたってことなんでしょうか?
これ、間違えてなんかなんて、絶対できないやつなんですが。
誰にも聞けません……。




