010:いつだって冒険者だもん
現在最高位のドラゴンスレイヤー2人がローラの救出チームとして出撃したことで、事態は一段落を告げた。
茶番だと思う。
誰一人として生きているとは思っていないローラのために、静里奈は死にかけたんだ。当然のことながら、ローラもその仲間も見つからなかったし、遺品すら持ち帰っていない。
それでいいんだってさ。
ローラのためにがんばってくれたから、それでいいんだってさ。
もっとがんばってくれればなおよかったと思っているんだろうな。
ふん。わたしも静里奈も生き残ったぞ、ざまぁみろ。
ここは王宮にもほど近い《イシ・ペゥロス記念病院》の409号室。
メッチャ不吉な部屋番だけど、それは前世の感覚なのだろう。
「いい病室だよね~。個室だし」
「そうかしら。ちょっと手狭で気に入らないのですけど」
「入院患者なんだからベッド以外になにもいらないでしょ」
お金持ちの考えることはわからない。
「狭いといえばミント、あなたの泊まっている宿は、サンヤ師のところでしたわよね?」
「ん。そうだよ、安さだけはどこにも負けないわたしの定宿」
裏通りの奥まったところにある安宿で、主のサンヤじいちゃんが、20年前に冒険者を引退したときに始めた宿らしい。
いまでは若い冒険者のよき相談相手にもなっていて、親しみを込めて『サンヤ師』と呼ばれることが多いみたい。
「こう言ってはなんですけど、女の子の泊まるような宿ではないのではなくて?」
「そりゃ、ひらひらレースの天蓋つきベッドやらぬいぐるみやらはないけどさ、相部屋でもしっかり男女別にはなってるし、取り立てて問題はないよ。ああ、三段ベッドがいまにも崩れそうな音を立てるときがあって、それは怖いかな」
慣れだよ慣れ。
「あなた、客分としてワタクシの家にきませんこと?」
「ほえ?」
なんの話?
「お父様もお母様も賛成してくれていますのよ。今回のことには感謝してもしたりないくらいで――」
「静里奈」
「は、はい」
ここのところははっきりさせておかなきゃ。
わたしは静里奈の目を見て言い含めるように告げた。
「わたし、あんたが大っ嫌い」
「は? え?」
「あんたの家の世話になったりしたら、大っ嫌いなのにへらへら愛想笑いでへこへこしなきゃならなくなる」
「い、いえ、そんなことはぜんぜん」
ぺち。両手で軽く静里奈の頬を挟むように叩いてやる。2度、3度。
ぺち、ぺち。
「なんですの、やめてくださいまし」
「おあいにくさまだよ。あんたの世話になんてなってやらない」
「……ふぅ。まあ断るだろうとは思ってましたわ」
「じゃあ言わないでよ」
「万が一があるじゃありませんの。そうなったらいいなって、思いましたのよ」
うっわ。ごくまれにかわいいんだよね、静里奈。
「いい? そういうのこれで最後にしてよね。次は怒るから」
「そうですわね、よくよく考えれば、あなたのようながさつな女にはあの宿がお似合いですものね。オーッホッホッホ」
いつも通りが一番だね。
これはこれで、イラつくんですけど。
そんなふうに『いつも通り』がずっと続くと思っていた。
だけど。
「え? ギルド長、なに? もう一回」
「静里奈から引退届が提出されたと言った」
「なにそれ、聞いてない」
「そうか」
「どういうこと? あいつそんなに予後が悪かったんですか?」
「さてね。うちは学校じゃないんだ。やめると言われたらそのまま受け入れるだけだ」
そりゃ、そうなんだろうけど。
逢いに行こうかな。
だけど、拒否されたらどうしよう。ううん、されそうな気がする。
だって、相談すら無しでやめちゃったんだし。
これって、もうわたしと逢いたくないって事だよね。
わたしはカラッとした性格だと言われがちだけれど、一人にするとどこまでだってジメジメと沈んでいくタイプなんだよ。
なんにもできずに膝を抱えたままうじうじうじうじうじうじ。
それから2ヶ月後。
わたしは、静里奈がどこかの大商会の跡取り息子の元に嫁いでいったと風のウワサで耳にした。
結局、お金持ちが腰掛けにやってただけってことね。
いいけどね、別にさ。
でも、客分の話をもし受けていたら、違う結果になってたかなぁ。
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「……んで、まーだ引っ張ってんのかおまえ」
「おまえって言わないで」
冒険者ギルドから、半年ぶり以上のダンジョン探索の仕事を受けた。
最近見つかったこの洞窟は、通路の狭さからナイトメアは連れ込めない。やむをえず今回は普通の魔術師として動くことになるから、そのための護衛が必要だったの。
「お前だって俺のことをアレとかコレとか言うだろ」
「あんたは実際にアレでしょ」
話し方からわかると思うけど、こいつは昔なじみの剣士。
名前は《マクシミリアン・スレーター》で、ニックネームはマックス。
そう、昔なじみの一人だ。
ふぅ、それにしてもこの急勾配は堪えるなぁ。
テイマーは魔術師の中では体力のある方なのに、もうへとへとだよ。
「もう少し自分の足で歩くようにしないと、すぐに衰えちまうぜ」
「うるさい。壁は黙って立ってて」
「ホントにおまえ、俺への当たりが強いよな」
「ふしぎだね。なんでかな? 心当たりないかな?」
このチャラい剣士の男も、前世では、わたしや静里奈と同じMMORPGで遊んでいたプレイヤーだ。
その中で、こいつは女の子のプレイヤーに片っ端から個別メッセージを送っては「オフ会やろうよ」とか言いまくっていたんだよね。
わたしも静里奈もそういうのは相手にしていなかったんだけど、あとでコイツにダマされて会っちゃった女の子が複数いることが発覚。女の子たち全員が自分以外にも声をかけていたことを知って怒っちゃって、総スカン。
有名クランからは出禁を喰らうわ、匿名掲示板で晒されるわ、大騒ぎになったっけ。
こちらの世界ではまじめにやっていると本人は言うんだけど、わたしはあまり信用してない。
そんな男となんでパーティを組んでいるかと言えば、静里奈を失った寂しさから昔なじみの男にふらふらと倒れかかって……なんて理由ではもちろんない。どんだけ節操無しよっ、て話だよね、これじゃ。
ぶっちゃけよう。わたし、あんまり友達いないの!
今生も前世も誇り高きソロゲーマー! それがわたし。
そうは言っても、イベントでパーティ必須のときとかあるじゃない?
どうしても組まなければいけないときはあるってことさ。
そんなわけで、比較的気を遣わなくていい壁を一枚レンタルしたというわけ。
「おまえの言葉の端々に、俺の人権を認めていない節を感じるんだよな」
「おまえって言わないで」
ん? 何かを感じて足を止める。
マックスもほぼ同時に勘づいたみたい。まあそのくらいはしてもらわないとね。
「なにかいるかな」
前方に『探知』の呪文を放つ。
いる。人型、ほぼ等身大、複数。5~6体かな。
「チビと等身大で群れてる人型ならゴブリンか」
「おまえはやめてって言ってるでしょ。まあ、ゴブリンだろうね」
さあどうする。ゴブリンを始末するのが目的ならばあの辺の天井でも魔法で崩してやればカタはつくんだけど。依頼内容は洞窟の探索だからね。
「マックス、どう思う」
「この狭さじゃな。連中の数も洞窟の構造もわからないし、死角からいきなり襲われて挟み撃ちの可能性もある」
この場所まで入り口から2時間かかっている。先があるのがわかっている以上、それを無駄にはしたくないところだけど。
「帰ろう。ゴブリンの群れを相手取る準備ができてない」
「OK、リーダー。いい判断だと思うぜ」
手間より、命を惜しみたい。
わたしたちは、ゴブリンに見つかることなく洞窟を脱出することに成功した。
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「バードが欲しい」
「そうだな、群れのゴブリンならバードが最適だ」
なんだか無い物ねだりをしているみたいで、恥ずかしい気持ちになる。
あー、ちがう。ちがうんだ。バードは他にもいっぱいいるでしょ。
「なにを考えているか当てようか?」
「当てたらあんたクビにするから」
「うっわ、横暴な雇い主だわ」
マックスうざい。うざさマックスだ。
ここは冒険者ギルドの依頼窓口と同じフロアにある酒場。
昼日中から入り浸って飲んでいる連中は、仕事にあぶれて仕事を待っている冒険者たちだ。
老若男女、職業もさまざま。経歴もいろいろ。
過去の詮索は何よりの御法度だ。
コツ、コツ、コツ。
軽いブーツの足音が背後に近づいてきている。女か。
「このテーブルでバードの募集をしていると聞いたのですけれど?」
「おや」
「……ここは、純潔を大事にするパーティだよ」
「あらヒドい。バツイチは仲間はずれですの?」
「それより、この中で純潔なのはおまえだけじゃ、っていてえ蹴るな」
余計なこと言うなばか。
「やっぱりあんたに貞淑な奥様なんてむりだったんだね、静里奈」
「やってみてダメだったのならそれで済むんですわよ」
「ご両親は泣いてなかった?」
「泣きましたわね。でも、それ以上に笑ってましたわ」
「へぇ、いい家族だ」
静里奈の性格上、だんな様が彼女のお眼鏡にかなっていたなら、そのまま良い妻、良い母として生涯を全うするつもりだったんだろうけど。
そうならなかったということは、おそらくは身代を潰しそうな甘ったれぼんぼんだったんだろうな。
まあ、過去の詮索は御法度だもんね。追求するつもりもない。
ただ、育て方を誤ったあちらのご両親に感謝、ってところかな。
「それにしても、元人妻と聞くだけでこう、クるものがあるな」
「あんた死んでよもう。いい雰囲気台無しじゃない」
「そういえば、前世のオフ会の相手も人妻が多かったですわよね」
「え、そうだったの? 最低の最悪じゃん」
「あー、まあ、そんなこともあったかな?」
まあ、腐れ出会い厨はどうでもいいや。
とにかく、バードが揃った。なら、探検の続きができるじゃん。
「よし、行こうか」
「そうですわね」
「え、これから? 明日にしないか?」
「先に剣士をそこらで一人雇っていかないと」
「ちょっと待った悪かった行きますついて行きます!」
そんなこんなで、冒険は続くんだよ。
ご愛読ありがとうございました。
女サイドもこれで終わりです。
そのうち第三者視点のを書いてシリーズ完結にします。




