第6話 従魔契約
俗に『恩返しイベント』と呼ばれるサブイベントでウサギからモンスターの幼体を貰った高尾は、始まりの街ファストに入る前に南門の門番たちに尋ねた。
「モンスターの幼体を手に入れたんだが、街に持ち込んで良いものなのか?」
「従魔契約していないモンスターの連れ込みはもちろん禁止されているが、幼体なら問題ないぞ。進化したところでレベル1だからな」
「珍しいものを手に入れたなぁ」
NPCにとってはモンスターの幼体は滅多に見つからない珍しいものらしい。
白い毛玉は高尾の手の平の上でもぞもぞするくらいで、目も鼻も口も見当たらない。
タマゴじゃ駄目だったのだろうかと再び思ってしまったが、今知りたいのはそれではない。
「まだ従魔士になれないんだが、従魔にできるのか?」
「従魔協会に行けば代行契約してくれるぞ」
「詳しいことは従魔士に聞いてくれ。場所は分かるか?」
もちろん分からないので、マップを開いて場所の確認をした。だいたいの位置を聞けばマップに反映されていた。便利だ。
門番たちに礼を言って街に入る。
特に冒険者カードで身分証明を求められなかったが、街を出る時にも会っていたからだろう。
門の近くでネズミ狩りをしていたし。
「そういえばナビゲーションAIなのに、協会までのナビゲーションは出来ないのか?」
「失敬な!聞なかったくせに!街の施設なら案内するよ!ダンジョンの場所は攻略情報にあたるから教えられないけど!1回到達した後なら案内できるけど!」
大人しいナビゲーションAIのナビに何気なく尋ねたらやかましくなった。
門番たちと会話をしていたから黙っていただけのようだ。
「他にも協会はあるのか?」
「魔法協会はあるよ。剣術道場なんかもあるんだよ」
「…訓練クエストが不人気だから話題にもならなかったんだろうな」
「コロシアムのランカーなんかは、ライバルに教えたくなくて黙ってるんじゃないかな。道場の利用者はけっこう多いよ」
真面目にバトルの練習をするタイプがランクインしているのだろう。
リアルでも訓練を受けている戦士かもしれない。このゲームには世界中からプレイヤーが集まっているのだ。
そんな戦士がゲームで遊ぶのか?という疑問は置いておく。
高尾は対人戦をしたい訳ではないので、みっともない姿を曝さない程度に戦えれば充分だから、本格的な道場には通わないだろう。
「それなら従魔協会は何をする施設なんだ?」
「従魔士系統のジョブの人たちが相互扶助するために設立されたものだけど、従魔の売買の管理とかクエストを出して客の求めてる従魔をテイムしてもらったりしてるね。家を持たない宿暮らしの従魔士の従魔を預かる場所でもあるよ」
「そうか。従魔の召喚と送還が出来るようになった時に預ける場所か」
召喚と送還は従魔士の基本スキルで、転職した時に使えるようになる。だが別のジョブでも従魔の召喚・送還をするなら、従魔士を最大レベルまで育て上げる必要がある。
2次職なのでレベル20にすればコンプリートのはずだ。そんなに敷居が高くないので、覚えているプレイヤーは多いだろう。
ペットが飼えるスキルだし。
「それと従魔との代行契約だね。戦闘しない一般人が従魔を飼うなら、従魔士に頼むしかないから。あ、従魔士系統の上位ジョブにならないと使えないスキルだよ」
プレイヤーではなく住民たちのためのシステムのようだが、生産職のプレイヤーにとってもありがたいシステムだ。
可愛いペットが飼えるから。
そして高尾も今から世話になりに行くのだ。
しばらくしたら自力で可能になる予定だが、早めに契約したい気持ちが強い。
「あ、この街の従魔協会ならウサギがたくさん売ってるね!1羽1,000G!お買い得!」
「…ウサギ屋敷を建てたい」
「言うと思った」
いつかたくさんのウサギが暮らす家でのんびり過ごしたいものだ。
マップを確認して、ナビにも案内してもらって従魔協会までやって来た。
大通りにデデーンと建つギルドに比べたら小さい建物だが、酒場を併設しているファンタジー世界の冒険者ギルドのイメージに近い外観だった。
併設されているのは酒場ではなくペットショップだったが。
ウサギだけではなく、ネズミやオオカミ、イノシシにコウモリと始まりの街周辺に生息しているモンスターたちが売られていた。
従魔化しているので、さっきまで戦っていたネズミたちと違って可愛くなっている。
おもに目つきが。
「こうして見ると灰色の一般ネズミも可愛いな!」
「男の子って可愛いものより格好良いものに反応するんだと思ってた」
「可愛い美少女と格好良い美少年がいてもか?」
「…可愛いほうしか見ない奴だ!」
男は可愛いものが好きな生き物なのだ。
格好良い女なんて見ても、自分より格好良いという事実に打ちのめされるだけなのだ。
カッコつけたい男の気持ちも考えて上げて欲しい。
格好良い女は自分より格好良い男を見つけないといけなくなって大変そうだ。
そんな戯言を言いながら、ついペットショップで過ごしてしまった。
買いに来た訳ではないのに。
高尾は可愛いものを堪能していたい気持ちを抑えて、ペットショップの会計窓口ではなく協会のカウンターに向かった。
時間を確認すれば夜の8時を過ぎたところなのだが、まだ閉店しないようだ。
「ウサギからモンスターの幼体を貰ったんだ。代行契約を頼む」
「御遣い様をお連れということは異邦人の方ですね。たまに異邦人の方が持ち込みますけど、契約する方は珍しいですね〜」
「契約しない奴らはなんで持ち込むんだ?」
「売却するためですよ」
売るのか、この可愛い生き物(になる予定の毛玉)を…と高尾は残念な気持ちになる。
聞けば買い取り価格は100Gだった。
モンスターの幼体は一律100Gで、ウサギに進化後なら値段が変わるそうだ。
「進化か…ウサギ系統はどんな進化をするんだ?可愛さが進化するのか?」
「進化で上がるのは基本ステータスですよ。ちょっと待って下さいね」
受付嬢はカウンターの奥にある棚から分厚い本を取り出して持って来た。モンスター図鑑のようだ。
「ウサギ系統は、このページですね。ファスト周辺にいるウサギは種族値1なので、全てのウサギ系の始まりになります」
「種族値か。なるほど」
ウサギの進化は途中で分岐しているが、種族値そのものは同じものもいる。
ジョブと同じで2次職3次職の代わりに種族値と言っているだけだ。
「…ウサギ、だんだんゴツくなるな」
「可愛いウサギがお望みでしたら、進化させないことです。最終進化とされているこちらの『エンジェリック・ラビット』は、進化させる方法が不明ですから」
「原点回帰のごとく可愛いウサギに戻った!」
「テイムに成功したという話も聞きません」
別ルートだと最終的に首刈り兎になっているが、エンジェリック・ラビットの挿し絵は最初のウサギに戻っていた。
正確にはたれ耳ウサギになって、その耳が身体の1.5倍くらいの長さである。
耳というより羽根のように見えるので、エンジェリックと名付けられたのだろう。
「この天使が可愛いぞ、毛玉。いつか進化してくれ」
「進化させる方法が不明なんですよ」
「いつか見つかるかもしれないんだろう。夢を見るだけならタダだし」
でも首刈り兎は可愛くないな…と心の中で思った。
こんな進化をするくらいなら種族値1のウサギでいて欲しい。
「とにかく代行契約を頼む。いくらだ?」
「100Gになります」
代行契約は相手がなんであれ、一律100Gだそうだ。
利き手を出してくれというので右手を差し出すと、手の甲に受付嬢のスキルで従魔契約紋という紋章が刻まれた。
刻まれたと言っても光る魔法陣っぽいものが浮かんで消えただけだ。
「召喚・送還のスキルを覚えるとスキル使用時に浮かび上がりますが、スキルがないと見えないようになっています」
それは格好良いのか中二っぽいのかビミョーなところである。
ファンタジーだな!と思うことにした。
そしてメニュー画面に従魔の項目が増えて、モンスターの幼体が載っていた。幼体のうちはステータスは表示されないようだ。
「名前を考えないとな…もう少し待ってくれ」
ネーミングセンスのない高尾は、ネットで可愛い名前を探して来ることにした。
ウサ子がダサいと言われることは知っている(経験談)。
「いや、性別はどっちだ?女の子か?男の子か?」
「男の子だね。ぷいぷいしてる」
「ぷいぷいしてるな」
毛玉のままでも可愛いのでは…?と思えて来たが、数日で進化するそうだ。
今のうちに動画を撮っておかねば!とナビに聞いて、動画やスクリーンショットの撮り方を学んだ。
ついでに無許可で盗撮されないための設定なども確認しておいた。デフォルトでは許可しないになっているが、フレンドは可など細かく決められる。
まだフレンドなどいないので、全て許可しないままにしておいたのだった。
□シナモ○ールやデジ○ンのテリ○モンなどの、長い耳の可愛いマスコットキャラクターを連想して考えたはずですが、ゼノ○レイドのノ○ン族かもしれない…(ただの冗談です)




