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5年越しの『アルカディア』  作者: 兼乃木


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第5話 初めての実戦

 高尾(たかお)は怖くて先延ばしにしていた件に向き合う覚悟が足りなかった。

 だが、いつまでも見ない振りも出来ない。


「もしも俺がモンスターと向き合って悲鳴を上げて逃げる人間だったら…生産職メインで生きるしかなくなるんだ」

「真面目に訓練を受けてた真の理由がそれ!?」

「訓練はみっともない姿を曝したくないから受けたんだ!時間稼ぎなら街の見物でもなんでもあるだろう!」

「それはそうだね」


 まあ、街の景色は動画で見飽きているのだが。


「とりあえずオオカミは見た目が強そうだから、ネズミ狩りにしようと思う」

「ネズミも群れると恐怖を感じると思うんだ、ボク」

「ウサギ可愛いな」

「そうだね」


 始まりの街ファストの南門の近くで高尾はナビゲーションAIのナビと話していた。


 ゲーム内時間は夕暮れで、南の草原にはノンアクティブのウサギしかいない。

 ノンアクティブでもモンスターなのでうかつに触ると攻撃判定になるため、見ていることしか出来ないウサギだ。


 夜になると巣穴に帰るので、夕暮れの今はぴょこぴょこと移動し始めている。

 ウサギが群れていても怖さは感じなかった。


「従魔士は魔術士をコンプしないと開放されない2次職だったな…」

「ウサギを飼いたいだけでしょ」

「しかも飼うなら家が必要なんだ!最速で何日かかるんだ!なんて敷居が高いんだ、ウサギ…!」

「従魔にして戦わせるならそんなに敷居が高くないんだよ。連れ歩けばいいだけだから」

「お前はあの可愛いウサギに戦えと言う気か?もしも連れ歩くのなら、ウサギは懐に入れてパワーレベリングだな」


 高尾にとってウサギはペットなので戦力に数える気はなかった。

 でもペット連れではパーティを組んでもらえないだろうから却下である。


 従魔連れならパーティプレイも可能だろう。


 そんなウサギ談議をしているうちに日は落ちて、草原からウサギたちの姿が消えた。

 代わりに赤い目を光らせてネズミたちが湧いて出て来た。


「…怖いな、ネズミ」

「こうして見てると不気味だね…」


 高尾は門を確認するように少し振り向いてから、腰に下げた剣を鞘から引き抜いた。

 5周年記念でもらった武器なので、当たればネズミなどの一刀両断に出来る攻撃力がある。


「教官の教えを忘れず、みっともなく剣を振り回す醜態を曝さず…」

「そうだね。悲鳴を上げて無茶苦茶に武器を振り回すだけの男って…相当格好悪いね」

「だよな」


 しかも相手がネズミである。

 生産職メインで遊ぶ気も失って引退しそうな醜態だった。






 高尾はギルドの基礎訓練クエストを受けて、教官役の職員におすすめのスキルを聞いてから購入して来た。


 攻略サイトでもいろいろな意見があるし、ある程度は考えて来たつもりだった。

 それでもわざわざ尋ねたのは確認のためだ。


 コロシアムでの対人戦を基準にしたスキル構成が人気なので、モンスターとの戦いに有用なスキルは別だろうと思っていた。

『気配察知』『危機感知』あたりはフィールドの攻略に便利そうなのにプレイヤーの間では話題に上らない。しかしNPCは最初に勧めて来たものだ。


「ゔ、ザワザワする…」

「それは『危機感知』スキルだね。キミがまだレベル1だから、ネズミより弱いから〜」

「格上に狙われてると教えてくれるスキルだったな。ネズミたちがこっち見てるからな」


 これはPK(プレイヤーキラー)に狙われている時も、相手が自分より強いなら反応するらしい。

 ロックオンされた時点で終わっていると諦めるか、逃げるかは人による。


 それはともかくあくまでレベル差に反応するスキルなので、高尾が性能の良い装備のおかげで攻撃力も防御力もネズミを上回っていても知らせて来たのだ。


 高尾は基礎訓練で覚えたばかりの構えを取って、腰を落として剣は下に向ける。

 ネズミたちが駆け寄って来ても慌てずに最小限の動きで斬り捨てた。


 周囲に湧いたネズミたちを粗かた片付けた所で息を吐いた。


「パニクらずに戦えた…」

「格好良かったよ!さすがボクの力作のイケメンアバター!初期服なのが惜しい!早くイケメンに相応しい衣装を買おうね!次の目標が定まった!」

「他に買うものがたくさんあるだろ…」


 まずは家──ではなく、基本ジョブに転職しながら使うスキルがいくつもあるので、貰った10,000Gでは全く足りなかった。

 初期資金の500Gでは『剣術』スキルも買えないところだったのだ。1,000Gだったから。


 例え安いと知っていても、周年プレゼントがなかったら『剣術』スキルはキャラクターエディットの段階で取らざるを得なかったかもしれない。


 でも『STR上昇』などのスキルは10,000Gだった。剣術なしで500G稼ぐほうがマシな気もする。


「始めてみると分かる、5周年記念プレゼントのショボさ…」

「ショボくない、こともないかもしれない」

「今、最前線で使われてる武器は攻撃力100,000越えてるんだろ。なのに攻撃力50の武器を『初期装備の10倍強い!』って恩着せがましく渡されたからな」

「事実しか言ってないのに!」


 後続を簡単に追いつかせる気がないのだろう。

 アップデートで追加されるコンテンツは最前線のプレイヤー向けばかりなのに。


 じっくりとゲームを楽しんで欲しい、とか思っているのだろうが手の届かないコンテンツが増えるたびに指を咥えて見ていることしか出来ないプレイヤーのストレスも考えて欲しい。


 5年も年齢制限で無駄にさせられたのだ。

 年齢制限が無くてもお金が足りなくて買えなかった事実は棚上げ中である。

 あと受験生だったから買えた所で遊ぶ時間がなかった事実も。


 つい恨みがましくなってしまうが、高尾も気持ちを切り替えた。


「最初に家を買えるくらいの資金が貰えていたら、俺は可愛いウサギを手に入れて全て許していた気がする…!」

「装備でもスキルでもなく、家とペットを優先するんだ…最前線に追いつく気はあるの?」

「ウサギとスローライフを始めていたかもしれない」


 俺の目指すべき場所はウサギと暮らす家なのでは?とかなり進む方向を見失いながらも、高尾はネズミ狩りを続けた。

 1度戦えると分かればバトルは難しくなかった。なにせ全て一撃で倒せるのだから。


 チートで無双とはこういう気分か、と気持ちも高揚して来る。相手は弱いネズミでしかないのだが。


 基本ジョブはレベル10でカンストするので、ネズミを狩っているだけで剣士ジョブが終わりそうだ。

 転職はメニュー画面からいつでも出来るが、次のジョブになる前にギルドに戻ってまた講習クエストを受けたい。スキルも買いたいし。


 次は拳士にしようと密かに予定を決めて、街の壁に沿ってなんとなく東に進んでいた。

 壁を背にしたほうが後ろの心配がないと思ってのことだ。


 ネズミの攻撃を受けても防具のおかげでダメージは1とか2なので、バトルの練習のつもりだった。


「あっれれ〜、あそこにネズミが群がってるぞぉ〜」

「わざとらしいな…何かのイベントか?」

「ぎくぅ!」


 ナビの示した所に確かにネズミたちが群がっていた。

 サブイベントだろう。こんな序盤にメインシナリオに繋がるイベントは起きないはずなのだ。


 最初の国はチュートリアルでしたと言わんばかりに、次の国に入ってから始まるらしいので。

 さすがにストーリーイベントの内容は調べていない。


 サブイベントはだいたい何か報酬があるので、時間がかかる割に報酬がゴミ!と言われる地雷イベントもあるらしいが、高尾は積極的にこなして行くつもりだ。

 発生がランダムなイベントも多いらしいから、後で探し回る羽目になりたくなかった。


 ネズミたちの所に行ってバッサバッサと斬るだけだし。


 そうしてネズミたちを数十匹ほど倒すと、襲われていたのはウサギだった。真っ白で可愛いウサギである。


 倒し終わってから「ネズミどもめ!」と殺意が湧いて来たが、絶滅させた後だった。

 イベントに関係ないネズミに八つ当たりしてしまいそうだ。

 その前から狩りまくってたけど。


「大丈夫だったか?」


 ウサギに尋ねると、イベント仕様だからかジェスチャーで応えてくれた。


 ダイジョウブだよ!


「…このウサギは飼えるウサギか?」

「ううん、その子は飼えないウサギ」


 ジェスチャーで応えてくれるウサギが欲しい。

 従魔にすると専用のAIに切り替わるという話なので、従魔契約をしたウサギは意思疎通が可能になると聞いている。

 だからこのウサギに固執する必要はないのだが、こんなの見たら欲しくなるだろう!


「俺のウサギ…」

「これはネタバレだけど、次の街には可愛い仔犬と仔猫のモンスターがいるよ」

「俺は犬派でも猫派でもない。ウサギ派だ!」

「そんな気はしてた」

「ちなみに高校の悪友たちは幼女派とケモ耳メイド派と巨乳派だった」

「とんでもなく不要な情報を取得してしまった!消去していいよね?」


 悪友たちはこのゲームをやっていないので、ナビが覚えておく必要はなかった。


 などととんでもなくどうでもいい話をしている間に、ウサギは近くの巣穴に入ってしまった。

 ここにウサギ小屋を建てたい気分だ。


 また出て来ないかなと高尾が眺めていると、ウサギがひょっこり顔を出した。やはり可愛い。


 そして高尾の側まで来て白い毛玉を差し出して来た。


「これは、もしかして…!」

「この系統のイベントも知ってたの?そういうネタバレ、ゲームをつまらなくするのになぁ」

「ウサギのしっぽを切り落として来た!?」

「なんで猟奇的な方向に行くの!?」


 白い毛並みがそっくりだと思ったのだが、良く考えたらサイズが大きかった。

 そしてしっぽは無事だよ!とお尻を向けて振り振りするウサギが可愛かった。


 動画を撮っておけば良かった!と終わってから気付いたものだ。


「それはモンスターの幼体だよ。ウサギがくれたのならウサギ系のモンスターに進化するはずだね」

「タマゴじゃないんだな」

「でもドラゴンの巣に一定期間入れておくと、ドラゴンに進化する可能性も出て来る。それがモンスターの幼体…!」

「…うさ耳のドラゴンにでもなるのか?」


 モンスターの幼体は進化前の環境によって何になるのか変わるものだそうだ。

 珍しいものなので、ランダムなサブイベントくらいでしか手に入らないという。


 意外とレアだった。


 ただしウサギに進化すると確定しているので、このサブイベントは不人気らしい。

 ウサギ系統は進化してもあんまり強くない種族だから。

 そして従魔士になればウサギをテイムするのは簡単だから。


「つまり──早急に家が欲しい!」

「売る気はないんだねぇ」

「1番安い家でも良いから、早く手に入れなくては…!」


 手に入れたウサギを手放す選択肢はなかった。


 幼体をくれたウサギに手を振って、レベル上げも放り出して高尾は街に向かった。

 まだ従魔士になれない高尾がこのウサギになることが決まっているモンスターの幼体と契約する方法が知りたい。


 そして次は拳士ではなくて魔術士のレベル上げをすることに決まったのだった。






□従魔を預ける施設もあるので、家はそこまで必要ではありません。高尾はただ、家でウサギを飼いたいだけです

□ちなみにバニーガールを見ても「好みじゃない」と見向きもしない男・高尾…

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