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5年越しの『アルカディア』  作者: 兼乃木


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第1話 なうろーでぃんぐ

 入学式まで俺は現実世界には戻らんぞ!と母親に宣言して、意気揚々と没入型(フルダイブ)VRゲームの世界に飛び込んだ高良(たから)は打ちひしがれていた。


 そこは特に何もない空間で、ゲーム開始前にログインするホーム画面の位置づけに当たる場所だ。ゲームを進めるとカスタマイズしていけるという話だが。


「なうろーでぃんぐ…」

「ごめんねー、5年分の追加データだからだいぶ時間かかっちゃうんだ。その間にキャラクターエディットとチュートリアルを済ませておこうね。ボクはナビゲーターAIのナビだよ」

「何分かかるんだ、ダウンロードに!」

「うーん、180分くらいかな☆」

「3時間だと!?」

「5年分を3時間に圧縮したことを称えていただきたいね!」

「なんでソフトの中にあらかじめ入れてないんだ!ログイン前にダウンロードしておく気遣いくらいなかったのか!」


 本体にソフトをセットしたのは何日前だったか。その本体の設定などでインターネットには繫いだのだ。

 本体の更新データはダウンロードされていたし、ソフトの更新データがあったら通知が出てもおかしくない。


 そわそわと何度も見ていたが、そんな通知は出ていなかった。


「本人確認と認証の関係で、1度アクセスしてもらわないと出来ないんだ。年齢制限あるからね」

「じゃあ設定が終わったらログアウトしててもダウンロード出来るんだろうな!」

「ここ仮の空間だから、ログアウトされると設定したことが全部消えちゃうよ。ボクの記録から君との思い出も消えて2度と戻らないんだよ。それでもいいの!?」

「じゃあ3時間後にログインし直す」


 まだ何も設定していないので傷は浅い。

 空いた3時間をどう過ごそうか考えると、また待たされるのかとうんざりするが。

 5年も待った時間に比べたら一瞬とはいえ、待つという行為に嫌悪感すら感じる。


「ボクと君との思い出が消えちゃうんだよ!?」

「他のナビゲーターにチェンジされてるといいな。何種類かいるだろ」

「ボクとのことは遊びだったの!?」

「選べないらしいけど、ですのですのって語尾をつける子が人気だったな。当たらないかな」


 高良は話の通じないやかましい奴は嫌いである。なんで好みで選ばせないのか、性格の合わない奴と付き合わされるなんてストレスしか感じない。


 ナビの喚き声を無視してログアウトした高良は、きちんとダウンロードされているか確認してからベッドに横になる。

 やっと始められると思ったのに、とんだ肩透かしだ。


 18歳未満はプレイ禁止のVRMMO『Arcadia(アルカディア)』は5年前に発売されたゲームだ。

 没入型(フルダイブ)VR機器の発売と同時に全世界で同時に発売され、後発ゲームたちに今も追いつかせない圧倒的なボリュームとクオリティ、そして人気を誇る。


 18禁と言っても(エロ)表現が理由ではなく、暴力的なバトル内容が原因だった。

 ディスプレイ越しに見ていた世界を臨場感たっぷりに体験できるということは、モンスターたちに襲われる恐怖もリアリティ抜群ということである。


 VRヘッドセットなどで体験できたゲームも、やはり画面越しの世界だった。

 どんなにリアリティを追求しても、隔絶した世界でしかなかった。


 だから同じ感覚で遊べるだろうと軽い気持ちで始めたプレイヤーたちは、最初に出て来るモンスターにパニックを起こして悲鳴を上げて逃げ回った者も多かった。

 近所の犬に吠えられただけでビクつくタイプの人間には、より凶悪なデザインのモンスターに襲われて冷静でいられなかったのだ。


 そんな大人だって適性が必要になるゲームを子供たちにプレイさせられない、と定められた年齢制限である。


 もちろん子供だろうと平気な者は平気なのだから、大人たちの余計な心配なのだ。

 そして子供たちにやらせたくないという大人のエゴである。


 しかし世の中は大人のエゴで定められた法律が支配しているので、年齢制限をかけられたら子供は手も足も出なくなるのだ。


 年齢制限のないソフトも出ているが、全て大人が安心できる「怖くない」「安全な」内容ばかりだ。

 見た目をコミカルにしてリアリティを廃したものや、難易度が極端に低い簡単なもの。一方的に攻撃するだけで反撃もロクにされないなら、それは怖くないだろう。


 無双系のゲームが好きなら爽快感があると気に入るだろうが、高良は好きになれなかった。

 まあ、VR機器の本体を買うために小遣いを貯金し続けていたから、そんなゲームはやってないけど。


 ちなみに発売当初よりは少し値下がりしたが、本体は高かった。

 小遣い貯金だけでは足らなかったのだが、そこは大学入学のお祝いなどを前借りして賄った。


 両親に感謝はしているが、弱みを握られているようなものなので「合格発表まで待て」と言われたら従わざるを得ない。

 18歳ってオトナじゃなかったのかな、と思ってしまう。


 ベッドの上でゴロゴロぐだぐだしていた高良は、時計を見て絶望的な気分になった。


「10分も経ってない…あと170分…」


 今はゲームをしたい気分なのだ。

 でも『Arcadia』以外はやりたくない。


「…仕方がない。攻略サイトでも見て最終確認でもしよう。それと動画も見よう…」


 人気ゲームなので動画ならたくさんある。高良がまだ見ていない物だってたくさんある。


 …でもゲームしたい。


 今日この日を待ちわびながら関連動画を見て羨ましくて羨ましくて堪らなかった5年間が甦って来る。

 もう待つのは飽きた。


 なのにあと170分も待たされるらしい。


『時は金なり』という言葉をこんな仕様にした奴に叩きつけてやりたかった。






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