第2話 キャラクターエディット
みんな大好きキャラクターエディットの時間だよ!
と思いながら高良はダウンロードが終了した『Arcadia』というVRMMOゲームにログインした。
そして待っていたナビゲーションAIにため息をつきかけた。
「チェンジされてない…」
「追加データのダウンロードが終了しているという事はキサマ、ボクの懇願を無視してログアウトしてやがったなー!?」
「それが客に対する態度なのか?運営に抗議したらチェンジされるのか?」
「ぐぬぬ…!」
ナビゲーションAIのナビが待っていたのだ。
性格の不一致で苦痛を感じるので他のナビゲーションAIに替えて欲しいのだが、どんなに抗議しても応じてくれないと有名だ。
つまりこいつが高良の相棒ポジなのだ。
他の可愛い子が良かった。
ナビもショートカットのボクっ娘で見た目は可愛いほうだが、とにかくテンションが高くてやかましくて疲れる。
「そもそもナビゲーションAIのナビとか1番名前が適当な奴じゃないか?他はアリスとかジャックとかマイケルとか…まあ、適当っぽいけど」
「適当じゃないよ!ネーミングセンスがないだけだよ!主要キャラクターの名前だってリテイクの嵐で考えたの結局他の人だし!」
「センスか…それは仕方がないな」
頑張っても獲得できないものはある。
先天的な能力は本人の責ではないのだ。
高良にもないし、ネーミングセンス。
「お前で我慢してやるから、キャラクターエディットを始めるぞ」
「何この新人めっちゃ偉そう」
「俺は騎士ルートをメインに進める予定だから、鎧の似合う男にしてくれ。お前好みにして良い」
「…何この新人、めっちゃ好き!」
キャラクターエディットはこだわる者はとことんこだわるが、高良はリアルバレしなければ何でも構わない派だった。
そしてナビは男性プレイヤーの外見をイケメンにしたがると有名だった。
任せておけば、他のプレイヤーと被らないオンリーワンのイケメンアバターが誕生するらしい。
一応は当人の面影も多少は残るそうだが、知り合いがじっくり見ても「言われてみれば…?」と首をかしげてしまう程度だ。
他のナビゲーションAIも少し指示するだけで対応してくれるそうだが、おおまかなイメージくらいは伝える必要がある。
勝手にやるのはナビくらいだ。
「ふへへへへ、筋肉筋肉ぅ、細マッチョ、鎧を脱いだらスゴイんです系の着痩せして見えるタイプ!これだ!」
「…そうか」
「カラーリングはどうする?黒髪は捨てがたいよ!東洋人には黒が似合うよ!」
「肌を日焼けした褐色にして欲しい。強そうな感じで」
「生っ白いインドア派が良く言うけど、確かに生っ白いままだと筋肉が泣くね!どのくらいが良いかな〜」
「眼の色も変えたい。そうだな、夏の高尾山の青々とした雄大な自然の色が良い。強そう」
「意味の分からない指示やめて!?」
夏の高尾山だと言ってるだろう!と高良は怒ったが、伝わらないので仕方なく「夏の木々の緑色だ」と解説した。
それでどうにか通じたようだ。
「山くらい見ろ」
「どうやって!?『Arcadia』の山しか知らないよ!」
「…リアルの景色も見られない環境なのか…?」
「ナビゲーションAIをなんだと思ってるの?インターネットに自由にアクセス出来て情報を取得し放題だったら、なんかうるさいのが喚くんだよ!」
AIの暴走だとか、AIが人間を支配するつもりだとか、たぶん映画などを見すぎた被害妄想の酷い連中が喚くらしい。
世の中にはいろんな人間がいるものだ。
しかも日本国内だけではなく、全世界で遊ばれているゲームなのだ。プレイ人口も多い。被害妄想の酷い連中も山ほどいることだろう。
「ゲーム内で遭遇しないといいな」
「ゲーム内でもあれこれ喚いてるから、だいたい見れば分かるよ」
君子危うきに近寄らずである。
見て分かるならマシだなと思ったのだった。
アバターの外見はナビ任せで完成した。
何ひとつ高良の面影がない気がするが、鎧の似合いそうな逞しい青年になっている。
イケメンフェイスは必須ではないのだが、NPCからのウケが良いと言われていた。
もちろん女性NPCからの。
「良し、名前は高尾にしよう」
「高尾山が好きだね」
「ネーミングセンスのない人間はインスピレーションに従うほうがまだマシな名前になるものなんだ。変に捻ろうとしてドツボにハマるくらいならシンプルな名前で良い」
本名の高良とは関係ないのだが、高尾山の気分だから良しとした。
「次はステータスだかスキルを決めるんだったか?」
「スキルを決めるよ!ここで長考する人も多いんだよね」
「値段でソートして、高いスキルから選ぶだけだろう。どうせゲーム内で買えるスキルばかりなのは知ってる」
「なんてつまらない奴なんだ!」
「5年の間に解析され尽くしたゲームなんて、効率重視で最前線まで突っ走らないと最新のコンテンツが遊べないし」
「効率を重視したくらいで追いつけるほど薄い内容じゃないからね!」
年齢制限なんてかけるのが悪い、と5年分拗らせている高良はソッポを向く。
そこを譲る気はなかった。
「手探りで進めたいんだ!って言って安いスキルを選ぶ初心者をニヨニヨ見つめるボクの趣味が…!」
「なんて邪悪なナビゲーションAIなんだ…」
「人は失敗しながら成長する生き物なんでしょ?ナビゲーションAIは失敗すると故障を疑われる存在だけどね!」
「その趣味が放置されているなら、期待されていない証拠じゃないのか?」
「プレイヤーの自主性に任せるために余計な事は言わない設計になってるの!そこに楽しみを見つけることの何が悪いの!?」
「邪悪さが悪いと思う」
こいつ失敗作なんじゃないか?という疑問を抱きながら、ナビが出して来たリストからスキルを選ぶ。攻略サイトで見た通りに、『STR上昇』などのステータスアップ系のパッシブスキルが上に来ていた。
これらはレベルが低いうちはほとんど効果を感じられない補正値だが、長い目で見ると強力なスキルなのだ。
と攻略サイトにも書いてあった。
「剣術とかはギルドで買えるらしいからな」
「剣術スキルも持たない剣士…弱そう」
「しかも安いらしいからな」
「必須スキルだよな!って言って選んでいた初々しいプレイヤーたち…すっかり老けたよね」
「18歳以上なら最初から初々しさなんてなかっただろ」
アバターは老けないので、永遠に若々しい姿のはずだ。中身が大人げない者だっているだろう。
…老けてるほうがマシだな。
「次はなんだ?」
「ジョブを選んでもらうけど、剣士だよね」
「剣士と拳士、魔術士と治癒士しかないだろ」
最初に選ぶジョブは基本職と呼ばれている。
おおまかに4つのルートに分岐して行くのだが、『剣士と魔術士を最大レベルにしてあること』などの転職条件が出て来るため、この4つだけは育て上げたほうが良いという。
ここから2次職、3次職と上位のジョブにチェンジしながら強化して行くことになる。
高良は剣士から派生する騎士ルートを目指しているが、これも途中に治癒士を最大レベルにしていないと転職できないジョブがあるのだ。
このゲームのメインの育成システムなので、ジョブはかなりの数が用意されている。アップデートで追加されるジョブもある。
そしてジョブを最大レベルまで育ててコンプリートするとスキルを獲得できる。
スキルをセットできる数は限られているが枠を増やす方法があって、少しずつ強化して行くことになる。
スキルの組み合わせでも強さが変わるので、最強スキルセット理論などと煽る動画も多かった。
「魔術士ルートでも最初は剣士から始めるほうが楽だと聞いたな」
「魔法は強力だけどMPがすぐに無くなるからね」
高良も無意味な縛りプレイをする気はないので、順当に剣士スタートだ。
剣士から派生するジョブには弓士などもある。武器ごとに専用ジョブがあるが、どんな武器を使っていても騎士などには成れる仕様だ。
ステータスはプレイヤーにイジれる余地がないので、決める項目はこれだけだ。
アバター作り以外はシンプルである。
「最後に5周年記念のプレゼント!初期装備の10倍強い武器と防具!非売品アクセサリー!5周年Tシャツ!あとお金」
「Tシャツは使わないな…」
「そうだね。使ってる人、滅多にいないね」
10倍強い装備も攻撃力5が50になったくらいなので、最序盤なら使えるという性能だ。
インフレが激しいゲームなので、最前線の攻撃力は5桁6桁の世界なのだ。
防具も以下同文。
非売品アクセサリーは『1分ごとにMP1回復』という、最初の頃ならきっと嬉しい性能だ。
固定値なのですぐに出番が無くなるだろう。
お金は初期費用で500Gしか持っていなかったのに10,000G貰えたので、こちらはたくさん貰えた気分になる。
スキルを買う資金源だ。
「これで終わりか?バトルのチュートリアルはないのか?」
「それはゲーム内のギルドで受けられるよ、任意で。生産職のチュートリアルもゲーム内で受けてね」
「生産職…そんなものもあったな」
このゲームはあくまで戦闘職がメインで、生産職はサブジョブという位置づけになっていた。
生産職メインなら18禁にする必要はないだろう!とゴネる者がいるからだろう。
高良はバトルがしたいので、生産職メインで遊ぶ選択肢は最初からなかった。
「バトルが合わなかった人が流れて行くからたまに戦闘職メインの人を逆恨みしてる人もいて、問題になってるから気をつけるんだよ」
「最初の街にもいるのか?」
「どこにでも生息してるものだからね!」
「アルカディアじゃなくてディストピアなのか、このゲーム…」
高良もバトルが合わなくて、生産職メインになる可能性はある。
それは戦ってみないと分からないことだ。
5年も待った挙句にそんな展開になったら…逆恨みする気持ちは分かるかもしれない。




