58.錬金術師①
北国分さんのお兄さんが錬金術師と聞いて、さっそく話し合いの段取りをとろうとしたけど。
「うちに来るのが怖いと」
「そう言ってるんですぅ」
なんでも30歳を過ぎた魔法使いだそうで、女性が多い寺に行くのが不安だと。
「取って食わないし、もしかしたらご縁があるかもなんて下心も持たない仏さまなのか」
「顔はぁ、まぁ私と同じで地味には違いないんです。仲間がふたりいて、そのふたりも魔法使いだって聞いてます。あ、私も2年後には魔女ですかねぇ」
あははと自虐的に笑う北国分さん。仏さま、この方々にもご慈悲を。
ってか、出会いが足りないんだよね。人との出会いが多ければ、それだけ気が合う人も見つかるだろうし。
現代社会って、意外と出会いはないんだよ。みんな忙しいし。俺だって……おっと話がそれた。
「錬金術師が3人て、珍しいというか」
「3人で秘密結社を立ち上げてるんですよ」
「秘密結社」
「ただの車好きなんですけどねぇ」
北国分さんのお兄さんたちは車好きで、ハンターになって力か強くなれば機械で車を持ち上げなくってもいいのでは?と思ったらしく、実際にダンジョンへ入ったが揃って【錬金術師】スキルを得たとのこと。そんなこともあるんかい。
「なんとも言いようがないんだけど、やっぱりその人の生きざまというか、そんなのが反映されるのかもね」
そんな感想を持ったよ。
「ここじゃなくってトレーラーハウスの中で話し合いをするとかでもいいけど」
浦河姉弟みたいにね。
「ちょっと聞いてみます」
北国分さんに連絡を取ってもらったら、それならばということになった。
6月に入り梅雨を意識し始めるころ。彼らはやってきた。ぶおんぶおんて爆音と一緒に。赤ちゃんが起きちゃうので控えめでお願いしたい。
迎えに出たのが俺と瀬奈さんと北国分さん。駐車場にはSUBARUの青いセダン。STIってステッカーが大きく張ってある。
ドアが開いて出てきたのは、青いつなぎ作業服の3人の男ども。背丈は日本人の平均ほど。みんな長髪で前髪が長くて衛生的に問題がありそうな感じ。
だがこちらから挨拶だ。
「こんにちは初めまして! ようこそ獄楽寺へ」
「ど、どうも」
「ござる……」
「おはつなり」
第一声は小声過ぎて聞き取りにくかった。
トレーラーハウスに案内して、用意してあった席に着く。丸テーブルだと座りきれないからレンタルの長テーブルでごめんなさい。でも椅子は、背もたれもひじ掛けもあるちゃんとしたやつやぞ。
ひじ掛けって肘を置くのに掛けるって言うのはなんでだろうかね。
「獄楽寺の坂場守です」
「妻兼ギルド職員の瀬奈でーす」
「同じくギルド職員の北国分です」
「北国分 瑠偉32歳独身。レベルは8、熟練度7の【錬金術】です。そこの調の兄です。好きなものと趣味は車です」
「秋山 晴斗 同じく32歳独身でござる。レベル8熟練度7。【錬金術】をやってるでござる。SUBARUの車は世界イチでござる」
「矢切英介32歳独身なり。レベル8熟練度7の【錬金術】なり。水平対向こそ至宝なり」
「「「我ら3人【水平太閤】!!」」」
なかなか個性的な挨拶だ。
【水平太閤】というのは彼らのパーティ名で、敬愛してやまないSUBARUのエンジンからだって。熟練度7はすごいと思う。
でも、マイナスとして、少々汗臭い。太ってはなくてむしろ細身だ。風呂キャンセル勢だろうか。
瀬奈さんの鼻がひくひくしてるので臭いのを我慢してるっぽい。窓を開けると嫌味になっちゃうので早く話を進めよう。
「あの、実は錬金術で作って欲しいものがあるんですが、そもそもの錬金術に詳しくなくってですね、どんなふうにやるとか必要なものとかを聞きたいんです」
名前は有名だけども何ができてそのためには何が必要とかさっぱりなんだ。京香さんも詳しくは知らないっていうくらいだし。
「錬金術でござるか」
「ござる」というのは秋山さんだ。彼は残りふたりの顔を見る。ふたりは「うむ」と重々しく頷いた。
時代劇か。
「僭越ながら某が説明致すでござる。錬金術とは『物質同士を融合させることによって違う物質に変換する術』を指すでござる」
「融合?」
「うむ。融合であって単体の変化ではないので鉄を金に変えることはできないでござるが、物質を合わせて金にすることは可能でござる。ただし、掛け合わせる物質が入手できないので現在は不可能でござるが」
物質を合わせたら金ができちゃうのもやばい話だな。
「物質の融合にはエネルギーとしての魔石が必要でござる。魔石はダンジョンから出たら売却しなければいけないので錬金はダンジョン内でやるしかなく、我々が戦う力がないのも相まって錬金は難しい問題でござる」
「錬金術には魔石が必要、と」
「よって、錬金の依頼はギルドが主で、ギルドが錬金術師をお抱えする場合もあるでござる。まれにダンジョン内での錬金依頼が来るでござるが、受けることはないでござるな」
ふむ、魔石はギルドには山ほどあるし、俺個人も収納に入れっぱなしなのもある。これは問題ないな。
「また、錬金術師の特性としてレベルがなかなか上がらないという厄介な点があるでござる」
熟練度7なのにレベルが8だもんね。推して知るべしだ。
「レベルが上がりにくいのはわかりましたけど、それが何か不都合なことがあるんですか?」
戦うハンターだとレベルが上がると戦うためのスキルを覚えるけど、錬金術はどうなんだろう。
「そうでござるな……例えば某はレベル8でござって、レベル5で【蒸留】スキルを覚えたでござる。【蒸留】スキルとは、蒸発を利用した物質の抽出でござって、現実には困難な複合物質から特定の物質のみを抽出したり、廃棄液から特定の有害な物質のみを除去することも可能でござる」
「むちゃむちゃ有能じゃないですか」
「ゆえにレベルが上がりにくいのでござる」
「なるほど」
すごいな錬金術師。上がりにくいのにレベル8ってのは優秀かつ慎重なんだろう。3人の株が上がるなぁ。
「よくある依頼はポーション、武具の作成でござるな。某どもは神聖なるSUBARU殿に油が良く落ちる『劇落ち油バスター』なる石鹸を納品してござる」
「補足だけど、アイテム類も作成可能でも成功率はあって、レベルが高いほど成功する確率が高い。石鹸は必要な材料も入手しやすく、性能も確かなのでよく売れる。それが我々の生活の糧となってる」
「良く落ちる石鹸は欲しーわー」
北国分さんのお兄さんが補足してくれた。
瀬奈さん、指をくわえながら俺を見ないでください。魔法使い3人が顔を赤くして俯いちゃいましたよ。余波が北国分さんにも行っちゃってるし。
ちょっと気になる質問をするか。
「あの、作ってほしいのはアイテムなんですが、武具も作成可能ですか? うちはクランでありギルドでもあるので魔石は唸るほどあるんで」
収納から魔石を30個ほど取り出してテーブルに置いた。




