55.成田君のピンチ②
翌早朝。ダンジョンの掃除は智と京子ちゃんに任せて、俺と市原君館山君足立ちゃん渋谷ちゃんは車で取手へ向かった。高速と下道で1時間半でついた。現在朝の7時。
取手ダンジョンは利根川の河川敷にできちゃって管理は国らしい。
河川敷の管理は、1級河川が国(国土交通省)、2級からは自治体(都道府県)なんだとか。
場所にもよるみたいだけど、ここは国管轄の地域らしく。現在は総務省管轄だから野放しだ。
プンスコだ。
「野次馬がいるねぇ」
足立ちゃんがうんざりしてる。成功するかどうかで賭けもしてるみたいだ。
「でも成田とかの姿がないからもう入っちゃったかも?」
「確かにいねーな」
市原君と館山君が言う通り、野次馬はいるけど肝心の【コブラ】と成田君らがいない。彼らが設置したカメラがある。かなり早くダンジョンに入ったらしい。
「じゃあ急ごうか」
「守さん、配信はするの?」
「んー、しないー。京香さんがいないと設定ができないんだよねーごめんねー」
ってのは表の理由で、もし【コブラ】と戦闘になったらいろいろ危ういので配信はしないんだよ。
負けることは考えてないけどハンター同士で戦うことを配信するのはよくない。
なお、取手ダンジョンがどんなのかは判明してる。
取手ダンジョン:ランク1ダンジョンで全10階で森系動物系。
「よーし、いくよー」
「守さん、いつものお願いしていいっすか」
館山君から待ったがかかった。そっか、あれか。
円陣を組んで咳払い。
「増長しない」
「「「「増長しない!」」」」
「生きて帰る!」
「「「「生きて帰る!」」」」
「いくぞ!」
「「「「おー!」」」」
いつもの気合入れでダンジョンへ入る。
森林ダンジョンなので木が多い。広葉樹なので葉っぱも大きく、視界があまり良くない。
下草もボーボーで足首から下は見えない。
蛇がいてもわからないね。
「今日は魔物を倒すのが目的じゃないからさっさと行くよ」
「「「「はい!」」」」
駆け足気味でダンジョンを抜ける。ルートにいる魔物は倒すけど魔石は放置。あいつらに追いつくのが先だ。
入ってから30分ほどで7階にたどり着く。そしてあいつらがいた。サーベルタイガー2体と戦ってるとこだ。
「ひーふーみーの、11人いる?」
「外人がいる?」
11人いて、ひとりが白人だ。あからさまに怪しい。
「そっちに行った!」
「こなくそ!」
武器を振ってるけどいまいち鋭さがない。成田君らの動きも鈍い感じ。寺のダンジョンで鍛錬してるときはもっと動きがシャープだったぞ?
彼らがどうにかこうにかサーベルタイガーを倒したところで俺が前に出る。白人が前に出てきた。
「チッ、【作務衣】か! 何をしに来た」
あ、日本語が流暢だ。助かる。
「いやー、そこの成田君たちと話をしたくてねー」
「踏破の邪魔なのでお断りするよ」
白人がこちらに掌を向けた。無意識にビニール傘を取り出して盾にする。
「チッ、お前たち相手をしてろ」
「わかりました」
【コブラ】の男たちが立ちはだかる。その隙に白人が下への階段に消えた。
「行かせないよ」
剣を構えた成田君から火の玉が飛んでくる。【ファイヤーボール】にしては小さいので【ファイヤー】の魔法っぽい。ビニール傘で叩き落した。
「おっとアブナイ」
火の玉が次々飛んでくる。ファイヤーボールじゃないあたり、金欠なのかなと思ってしまう。お金があったらファイヤーボールを覚えさせるもんね。
ただ、10発落とせば次までは時間がある。と思ったら10人がばらばらに襲ってきた。
「やれ!」
「おおお!」
乱戦になっちゃった。【説法】使うとみんなも寝ちゃいそうだ。
「くそ、やりにくい!」
「ああもぅ、天王台邪魔すんな」
元クラスメイトが混ざってるから4人も攻撃できなくて防戦一方になっちゃってる。
「守さん、あいつを追って!」
「こいつらは俺らで相手するんで!」
足立ちゃんと館山君が叫ぶ。
むむむ、大丈夫かな……よし信じよう。
「頼む!」
階段まで走りながら立ちはだかった【コブラ】の男の足をつかんで遠くにポイしといた。
階段を下りて8階についたけど魔物はいるけどあいつの姿はない。ダンジョンが狭いからすぐに下へ行けちゃうんだよ。
9階に降りたところけどで背後から肩を掴まれた。瞬時に収納と10回唱える。もうお経と同じレベルで出てくるのさ。
「ははは、迂闊だったな!」
収納収納仏様お願いします、と唱えてたら。
【魅了の魔法書×1】
あれ、これって唐津の時と同じか?
かかった振りしとくかな。
「よーしよーし、俺の言うことを聞くんだ」
白人がニヤニヤしながら俺の前に出てきた。なるほど、【魅了】の魔法で操っていたっぽいな。
じゃあ逆もありってことかな。
せっかくなので実験だ。作務衣の中に魔法書を出す。ちゃちゃちゃーん、まもるくんは【魅了】の魔法を覚えた!
ふむふむ、こんな感じか。【魅了】っと。
こいつに【魅了】をかけると、ビクッと震えて顔から表情が消えた。無表情というか、呆けてる感じ。外人だから年齢の予想がつかないけど、20代かなぁ。金髪に、割といい筋肉がついてる感じ。
「えーと、君の名前は何かな?」
「私はルーク。アメリカ海軍の下士官です」
「軍人かー」
「イエッサ」
ルークが敬礼をした。本当に軍人みたいだ。
「ルークは何をしに来たの?」
「若いハンターをスカウトして本国に送るためです」
わぁ、スカウトという名の誘拐だね?
「【コブラ】のハンターに何かした?」
「【魅了】でアメリカの偉大さを教えてやりました」
「他には?」
「魔法を少々覚えさせました。ろくに魔法も覚えてないハンターなど役に立ちません」
うーん、魔法を覚えてる君がこのありさまだからねぇ。油断しすぎじゃない?
さて、こいつはまだ【魅了】の魔法が使えるのかどうか。
「ルークはまだ【魅了】を使えるのかな?」
「イエッ……いえ、魔法が見つかりません」
「あー、おーけーおーけー」
ふむ、魔法は奪えちゃうんだね。スキルはわからないけども。
寺に帰ったら京香さんに報告して検証かな。
「【魅了】にかかっちゃった人はどうすれば……あ、こいつから魔法がなくなってるからその時点で魔法もキャンセルされてるのか」
じゃあ成田君たちの【魅了】も解けてるね。ってことは時間ができたからこいつを探ろうかな。
「ルークは何歳でどんなスキルを覚えてるの?」
「私は——」
名前:ルーク・アダムス
レベル14 25歳
【魅了】の魔法を用いてハンターを操る
【ヘイスト】
【カース】
【鑑定】持ちの非戦闘系
うわ、鑑定持ちかよ。
その少し前。7階では館山らが【コブラ】の10人と戦闘を続けていた。成田たちは全力で襲ってくるが元クラスメイトなので防戦一方だ。
「先に【コブラ】の5人を黙らせようぜ!」
館山が叫ぶ。湖北に剣で攻撃されているが、棍棒でなんなくいなせていた。なんとなく弱くなってる気さえする。
「うりゃ!!」
館山が湖北を押し返した勢いで【コブラ】の男の前に出ると男の意識が館山に集中する。
それに呼応した足立が背後に回り込み後頭部を殴って昏倒させた。
「ナイス足立!」
「おねーさんにまかせとき!」
足立がぐっと力こぶを作る。
「いい男前っぷりだぜ!」
「わたしゃ女だ!」
足立はぷりぷりだ。
「木下こっちだぞー」
「うりゃぁぁ!」
渋谷がベロベロバーして木下を煽る。成田もそうだが、木下も剣筋に精彩を欠いているので剣で払うだけで簡単にいなせてしまう。渋谷が木下を引き付けている間に一宮が【コブラ】の男の股間を蹴って悶絶させた。地面に転がってぴくぴくしているので当分復活しないだろう。
連携して5分で【コブラ】の男たちは沈黙した。残るは元クラスメイトの成田たちだけだ。
「あいつら、卒業前より弱くなってるな」
「さっきの外人に何かされてんじゃねーの」
館山と一宮が横に並んでささやきあう。
「守さんが何とかするっしょ」
「わたしらはそれまで時間稼ぎだね」
渋谷と足立も同じように横並びになっている。その2組は背中合わせで死角を無くした。




