52.ダンジョン踏破が流行り?③
区切りの都合でちょっと長いです。すみません。
「感謝状?」
「佐渡のスタンピード鎮圧は、自衛隊では無理だった作戦を強行できたのは間違いなく守君の力があればこそです」
京香さんがメールを印刷した紙を持ってきた。
回りくどい文章でつらつら書かれてるけど、要約すると。
佐渡はありがとよ、助かったぜ!
褒章とかあげたいけど法律に引っかかるから感謝状ですまん!
そっちはダンジョンの管理で大変だろ?大臣を飛ばすからさ!
ついでに相談事もあるんだよ!
よろしく!
「まじか」
大臣が寺にくるの?
「防衛大臣は与党議員の厳島玄朗ですね。元自のガチ軍人大臣です」
「うぇぇぇ」
俺はただの坊主見習いだってばさー。
数日後。マジで大臣が来た。昼過ぎで一番融通がきく時間帯を選ばれたらNOとは言えなかった。迎えは俺と京香さん。大勢だと目立つしさ。
「大臣だし、お高い車で来るんだろうなぁ」
なんて思ってた。
黒塗りの国産高級車、と思いきや装甲車で来やがった。1台3000万円以上する国産高級車ではあるけどさ!
佐渡で見た車の天井が開くタイプだ。ガチ軍人ってのを忘れてたよ。
寺の駐車場に入ってくる数台の装甲車。近隣のおばあちゃんが「なんだべ?」って見に来ちゃってるし。
「ちょっと打ち合わせがあるんですー」
「お寺さんも大変だねぇ」
よし、かわせたぞ。
「いやぁ、なかなか景色のいいところだねぇ」
装甲車からスーツのおっさんが出てきた。皴が見て取れる顔に白髪だけど首がぶっとくてマッスルでスーツがぱっつんぱっつんなナイスバディしてる。
テレビで見たことあるぞ。この人が厳島大臣だ。
装甲車からは続々と迷彩服の細マッチョさんらが下りてくる。ざっと10人。なんでこんなにいるの?
「獄楽寺ギルドの坂場です」
「防衛大臣をやってる厳島だ。本日はお忙しいところ時間を割いていただき感謝する」
右手で握手した。ぎゅむむって握られたのでガギギギって握り返しといた。
「さすがはレベル27。すさまじい握力だねぇ」
にこにこの大臣。やべー、俺のレベルを知ってる。食えなさそうな人だぞこれー。
お客さんを通す部屋なんてのはないので本堂に入ってもらう。Aチームも呼ぶ。
「食堂じゃあれなので本堂ですが」
「仏さまが見届け人とは、襟を正さねばいかんな」
そう言ってネクタイとスーツの襟を直す大臣。付き添いの隊員さんも服を直している。
するっとこっちのテリトリーに入り込んできたぞ。敵に回したくない人だ。
「さて感謝状を渡そう」
感謝状は俺、京香さん、Aチームの5人に。卒業式を思い出してしまった。
「それとこれは防衛省からのせめてもの気持ちだ」
大臣が小さなはこを取り出した。ふたを開けると、銀色のバッジが入ってる。なんだろこれ。
「これは陸上自衛隊空挺徽章だ。空挺基本降下課程を修了した者がつけることができる徽章でね、君らはそれよりも厳しい実地をぶっつけ本番で行ったわけだからね。つける権利があるのさ」
大臣からそれぞれに徽章をつけてもらった。作務衣にこれはとは思うけど、俺の行いの結果でもありちょっと誇らしいぞ。
「やべぇカッコいい!」
「あがるな」
Aチームの5人は嬉しそうにおたがいのバッジを見せ合っててホンワカする。
配信するとAチームにも牙が向きそうなので自粛。余計なことはしないよ。
「ここからは相談なのだが」
大臣が話を振ってきた。本題はこれからか。
「今日来ている隊員は船橋から来た腕利きでね。ちょっとダンジョンで腕試しをしたいんだよ」
「いいですけど。そうだねAチーム、案内を頼んでいい?」
「もちろんっす!」
「じゃあお願いね」
彼らに任せた。本堂からぞろぞろ出ていく。ひとりだけ残ったのは、大臣の警護かな。
「厳島大臣。ここだと声が漏れますので、分家で話をききたいのですが」
京香さんがすすっと出てきた。出しゃばらないメイドさんさすがです。
「うん、そうしてもらえると助かるね」
ということで、分家に移動する。母屋だと声が寮にも届いたりするしね。分家なら家族しかいないし、聞かれても問題ないというかこの後相談するし。
普通の話じゃないなーってのは俺でも察せちゃう。
分家のリビングに4人でテーブルを囲む。お茶は緑茶でお茶請けは芋羊羹にした。成田においしいお店があるんだよ。
「佐渡島は急なお願いで本当に申し訳なかった。おかげで被害が最小限ですんだ。ありがとう!」
早々に大臣に頭を下げられてしまった。先制パンチだけど、本心でもあるんだろう。
「あれだけ早く現地につけたのはいろいろな手配をしていただいたおかげです。こちらこそありがとうございました」
ヘリに乗って飛行機に乗り継いで救急車に乗って、ヘリも輸送機も。かなりの数の人が動いてるはずだもん。
「はは、さすがは組織の長だねぇ」
「皆が助けてくれるのでやれてるだけですよ」
これほんと。俺だけだったらこんなことはできてない。俺を助けてくれる人たちがいてのことさ。
「謙遜しあいもよくないな。では本題へ移らせてもらうね」
俺も京香さんも姿勢を正した。
「相談というのは、佐渡でうちが渡された【飛翔】の魔法を大量に購入できないだろうかというものだ。おっと、その代金の話もしないといけないね」
「【飛翔】の魔法書ですか」
「現在陸自だけで空挺部隊は1900名ほどいる。そのすべてとは言わないが、半数には覚えさせたい。それと定期的に仕入れたいんだ」
「1900!?」
ちょ、多すぎぃ!
「100億までは出すよ?」
「マジで言ってます?」
敬語を忘れるくらいにびっくりな金額。
「ダンジョン管理が防衛省に移るんだし、自衛隊員も空を飛ぶくらいでないとまずいでしょ?」
どうして「変なこと言いました?」って狸みたいな顔するんですか?
「あまりニュースにはなってないが、アジア各国ではスタンピードの制圧に失敗が続いててね」
「あまり聞きたい話ではないですがどうぞ」
「うむ、少なくない国でスタンピードであふれてしまった魔物をどうすることもできずにいるんだ。要因としては軍の腐敗もあるんだけど、ハンターが連れ去られる事件もあってね。調査すると連れ去られた先はシンガポールで、おそらくバックには中国がいて、中国に犯罪をやらせて買い取っているのがアメリカっぽくてねぇ。日本としても対処をどうするか頭が痛くてさぁ」
「アメリカですか」
頭に浮かぶのがあの会社だ。
なんですか大臣。その「知ってるでしょ?」みたいな顔は。
コモンスキルを入手するのにはハンターが必要で。アジア各国でハンターが連れ去られてて。なんか知りたくもない情報だ。
いやだなぁ知りませんよ、って顔しとこ。
「メディアも妙に騒いでるし。ここは自国の体制をきっちりしておく必要があると思ってね」
「で、自衛隊の強化ですか」
「総務省じゃ無理だしね」
大臣がウィンクした。
面倒くさそうな人だぞ。
「実際に佐渡で苦汁をなめたわけだ、我々は。あなた方の協力無くして戦力の投射ができなかった。今回はたまたま助力を得られたけど、毎回そうはいかない。で、我々自身ができる必要があると判断したわけでね」
「補佐の安芸です。大臣を補足いたしますと、先日瀬戸内海の無人島にダンジョンが出現したのを確認しております。が、小島で接岸も小型船舶でしかいけません。ダンジョンを管理するにしても踏破するにしても物資が必要です。その運搬にも活用できると考えております」
断る理由をつぶされていく。
うーん、ダンジョン踏破が流行った結果、いたるところにダンジョンができちゃってるんだよなぁ。
今の話だと。無人島だけどそのダンジョンに飛行系の魔物がいたら好きに飛び回って人が住んでる場所にも行くわけで。
でも彼らに任せられれば、俺たちが行く必要もなくなる。メリットは結構でかいんだよなぁ。
「厳島大臣。お話はそれだけでしょうか?」
「あっはっは、このメイドさんは鋭くてこまるね。どう、自衛隊に幹部としてこない?」
「ご主人様は守君だけなので」
「残念! 振られちゃったね」
即席のコントを見せられたけど話はまだあるって聞こえたぞ。
「獄楽寺ってダンジョンがたくさんあるよね?」
今なら佐渡島ダンジョンもついてますが?
ってまさか。
「鍛錬に使う気ですか?」
「やー話が早いのは助かるよ!」
マジか。
「基本は陸自だけさ。迷彩服で来ると目立つから私服で来させて荷物は配送する流れかな。宿泊施設は検討中だけど地元の旅館なりホテルなりを借り上げようかとは考えてるよ」
くそ、地元にお金を落とすと聞いたら断りにくい。この辺りは田舎だから産業なんて農業くらいしかないんだ。地元が潤うのは俺的にも非常にありがたい。それによって人が戻ってくるかもしれないからさ。
「すでに話が煮詰まってる気がしますが?」
「いやだなぁ。何もなしに来ないってばー。県知事にはちょろっと話はしてあるからさ」
「外堀を埋めるのが早くないですか?」
「だってー、問題解決が大臣の仕事だもん」
厳島大臣が愉快そうに笑う。だめだ、俺には手ごわすぎる。
「まずは特戦群にしようかなと思ってるんだ」
「は? 聞いたことがないんですが何ですかそれ?」
「特殊作戦群っていって、自衛隊における特殊部隊さ。まずはこいつらをぶち込んで、どこまで一般の隊員を放り込んでも大丈夫かを確認しようかと思ってねぇ」
鬼か。
「今日来てるのがそうなんだ」
「展開が早すぎて一般人の俺にはついていけないんですけど」
「あっはっは。政府だってたまには先回りをするのさ」
厳島大臣が豪快に笑った。




