50.入学式と佐渡島スタンピード⑩
「ギルドの建物の近くに移動しましょう」
京香さんの提案で駆け込み寺を解除する。400メートルくらい先に平屋の建物がある。多分あれがギルドだ。
平屋のギルドの建物は半分が焼け落ちてた。まだくすぶってるのか薄い煙が立ち上がってる。スライムもまだまだ溢れてて、Aチームの5人も倒してるけど減った気がしない。
「まだダンジョンから出てきてますね」
崩れそうなギルドの建物の隙間からスライムが染み出てくる。天井が崩れたのか、そこからドラゴスライムが飛び出した。
「真治こい!」
市原君がバレーのレシーブの格好をして叫んだ。館山君が市原君に駆け寄ってジャンプしてその手に足をかける。市原君が「うらぁぁぁ!」と館山君を放り投げた。館山君がドラゴスライムの目の前に飛んでいく。
ドラゴスライムが口を開けブレスで迎撃しようとしてるけど、そんなのお構いなしに館山君は棍棒を構える。
「砕けろ!」
館山君は炎のブレスに突っ込み、そのまま棍棒でドラゴスライムを砕いた。
「やったぜ!」
煙を纏いながら館山君が着地した。顔の一部がやけどで赤く爛れてる。見えない体も同じだろう。
「真治ポーションだ!」
「さんきゅーエイタ!」
野田君がポーションを放り投げ館山君がキャッチする。いいチームワークだ。
でもけがをすること前提はダメだ。
「ダンジョンの階段を早く見つけないと」
ギルドの建物が邪魔だ。建物の崩壊してる部分に投げ網をかけて収納すると、支えを失った屋根がガランガランと崩れてくる。
「下手に崩すと全壊しかねませんね」
だからといって見てるだけはできない。屋根の一部を収納し、周囲にある壁とか柱を収納していく。空間ができれば進むの繰り返しだ。
床には各種スライムがひしめいてて、何かを吐かれる前に収納していく。ただ、数が多くてなかなか進まない。
もどかしい!
陸自のバイクを追尾しているドローンは5台の動きを配信し続けている。バイクは畑から道に出て、爆走する。道にはスライムがいるが、前輪を上げたウィリー状態で轢き潰していた。
空港の入り口は北側にあり、降下地点からはぐるっと空港を回らなければならない。滑走路は見えるが侵入を阻むためのフェンスがあり、そこに行くまでが遠い。
「気が早すぎだろう!」
空を見上げた隊員が叫んだ。滑走路の上空にヘリ5機がホバリングしていた。すでに後部ハッチが開いて同僚の姿も見えた。
「俺のバイクでフェンスに穴をあけるから突っ込んでくれ!」
1台のバイクが速度を上げ、畑に突っ込んでいく。正面には侵入を阻む高いフェンスがあり、頂上部には有刺鉄線が張られている。
「すまん」
バイクの燃料タンクを優しくたたき、そうつぶやく。
「うまくいってくれ!」
彼は体を傾けバイクを横倒しにしてハンドルから手を離した。バイクは速度を保ったままフェンスに激突、大穴をあけた。バイクは何度も横転し滑走路わきで爆発炎上。放り出された隊員は地面で何度もバウンドしフェンスの違う場所に激突して止まった。彼の右手がゆっくり上がる。
「先に行く!」
4台のバイクが彼のあけた穴に突入して滑走路に侵入した。幸いなことにスライムの影はない。バイクを草むらに転がす。
「発煙筒炊け!」
「ヘリボーンの空間を確保」
滑走路の端に真っ赤な煙が立ち上る。それを合図に大型ヘリが降下を始めた。強烈なダウンウォッシュでドローンが滑走路に叩きつけられた。
5機のヘリが地上20メートルのところでホバリングしており、後部ハッチからロープが下ろされ、剣を背負った陸自隊員がロープを使って降り始めた。降りた隊員は滑走路を走り始める。
「輸送機の降りる空間を確保しろ!」
走りながら滑走路上にいたスライムを斬っていく。5分後、三条が空港に到着すると同時に滑走路確保が完了。三条が報告を受ける。
「第30普通科連隊200名、降下完了しました! 先行のバイク隊員1名負傷もポーションで回復、徒歩で合流。他負傷者無し!」
「お前ら先走りすぎだ! 輸送機に合図、順に降ろせ! 荷降ろし要員以外はトラックで市街地へ行って警察と協力、魔物をぶっ殺せ!」
三条は怒鳴りつけながら命令を飛ばした。
同時刻の京香。
「サーバの負荷がやばいですね。予想以上に配信を見ている人が多いです」
京香が寺のサーバの状況を確認したところ、悲鳴を上げていた。唯一、佐渡島の状況を伝えているためだ。見ているのは一般の人だけではなく、防衛省や報道すらもその映像を注視している。
ハンターと自衛隊の降下に始まり、地上へ降りてからは10台のドローンでそれぞれの動きを配信している。負荷は増え続けていた。
「あ、2機から通信が途絶えました。しかし、最後の映像には陸自のヘリのお腹が映っていたので、無事に降りられたでしょう」
京香はほかのドローンの映像を見る。1画面に10個の映像を映していたが小さすぎてよくわからない。
三条の乗った装甲車を追っているカメラに切り替えた。滑走路に大型輸送機が3機駐機してるのがわかった。その輸送機のハッチから車両が続々と搬出されていく。
「あちらは滞りないようですね。問題はこっちですか」
京香はカメラを切り替えて守の映像にする。守ががれきを収納して道を作りつつ、出てくるスライムはAチームの5人が対処していた。
「建物の形状とダンジョンの入り口からすると、まだかかりそうです」
生存者がいた場合、下手に建物を壊すと下敷きになってしまう。だからこそ、守も慎重に進んでいるのだ。
「ドローンはこちらに2機と自衛隊側に2機にしましょう。残りはこちらに戻しましょう」
防衛省から現地の様子を見たいとメールで要望が来たので絞ることにしたのだ。わがままだが災害なので仕方なしだ。
1機は守、1機はここ、1機は空港での作業、1機は市街地へ向かったトラック。こう分けた。
「三条司令、こちら獄楽寺京香。聞こえますか?」
『こちら三条 ! どうぞ!』
「防衛省陸上総隊から伝達です。船で工作部隊を向かわせる、港の確保を願う、とのことです」
『クッ、港に向ける人員が……了解した! 第4から第8小隊は両津港へ行け! 港湾関係者がいたら助力を求めろ!』
三条が怒鳴るように命令している。
こんな場面も全国に流れてるなんて思わないでしょうね。後で怒られなければよいのですが。
京香は心の中で合掌した。
ただし、この情報が港にも届くので、港の対応は早かった。陸自が来るのがわかっているのだから。
『こちら三条。新発田駐屯地聞こえるか! 今からヘリを返す。お前ら全員乗ってこい! 人が足りん!』
三条が叫んでいる。配信されていることを思い出したようだ。
「三条司令のことは防衛省に任せましょう」
こちらはこちらでスタンピードを何とかしないといけないのだ。
守のカメラをチェックしようとした京香に電話がかかってきた。相手は葉介だ。何ごとかと出る。
「京香です」
『葉介です! 佐渡島ギルド職員の妹さんから電話がありまして——』
「生存者がいますか? どこに?」
京香は焦って割り込んでしまう。
『地下室だそうです。そこに職員とハンターが逃げ込んでるそうです。地上ですごい音がして人の声が聞こえたから鉄のドアをどんどん叩いてるけど気が付いてくれないそうです』
「わかりました伝えます!」
生きている人がいた。京香の胸が熱くなる。
京香は通話を切る前にパソコンへ叫ぶ。
「守君、地下室に職員がいるようです! 上物はさっさとなくしましょう!」




