50.入学式と佐渡島スタンピード⑥
「最高速度は60キロ毎時、持続時間は30分でクールタイムも30分ですね」
「行動半径30キロ……すさまじいですな」
「それがあれば、我々も……」
三条さんは悔しそうに唇をかんだ。
一緒に行きますか?って言ったら行くって言いそうだなぁ。
「守君の考えていることはお見通しですが? 陸自の皆さんに魔法を渡そうかとか考えていませんか?」
おっと奥様にはバレバレだった。三条さんが身を乗り出すのがわかった。
「守君、【飛翔】の魔法はいくつありますか?」
「うーん、渡してもいいのは、25個かなぁ」
30個以上はあるけど全部渡す義理もないし、渡した人が悪さをしない保証もない。
「だそうです、三条指令」
三条さんは腕を組んで考えてる。組織である以上、勝手に動くのはまずいだろうけど、行けるなら行きたいんだろうなぁ。
俺が背中を押せばいいのか?
「俺のスキルは無限収納でして、なんでもどれだけでも運べます。いまも寺からハイエースを持ってきているので」
「車を?」
「ちょっとそこに出しても大丈夫ですかね」
「そこにスペースを作ってくれ」
「「ハッ」」
椅子をガタガタ移動させて車が置けるくらいの空間ができた。天井も高いからいけるでしょ。
ってことでハイエースを取り出す。ほいっとな。
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
食堂が雄たけびで満たされた。テーブルやら椅子やらぽいぽい出していく。ついでに食事もだ。まだ湯気が立ってるんだぞ。
「とまぁ、必要なら戦車でもクレーン車でも持っていけますけどね」
三条さんへ笑顔を向ける。どやー。
「指令! 自分は佐渡出身です! 行けるなら行かせてください!」
「自分も佐渡出身です!」
マッチョ男子の何人かが立ち上がるとほぼ全員が立ち上がった。もう止めるのは無理でしょ。
「…………自推のみとする。死にたい奴は手を挙げろ」
三条さんが静かに告げた。全員が手を挙げた。
「俺はもちろん行くぞ。こんなことは二度と経験できん。連隊長として後輩に伝える義務がある」
指令が楽しそうに笑った。
「その言い方はずるいっす!」
「命がけなんで自分みたいな下っ端が行くべきです」
「第一空挺団にはかないませんが、俺だって降下部隊です」
食堂は「俺が俺が」と大騒ぎだ。
「俺たちはあくまで魔物のせん滅とダンジョンをどうにかするのが目的です。指令は現地でどう動きます?」
聞いてみた。俺には彼らがやるべきことはわからないもん。
「我々は空港を掌握したい。あそこが使えるなら輸送機も民間機も降ろせる。火災が広がっているならばけが人も多いはず。建物の損傷も予想され、がれきの撤去などやることは多い」
「俺が必要な車とかすべてを降ろせばいけますかね」
「わが第30普通科連隊は空中機動を得意としている部隊だ。空港を確保後にヘリボーンで隊員を降ろし、輸送機が降りられるように整備する。そうすれば港も再開でき、船で物資を運ぶことが可能になる」
「じゃあそれでいきましょう」
「整備班。明日はすべての車両を佐渡に持ち込む。バイクも医療車両もすべて持っていくぞ! 朝までに整備を頼む!」
方針は決まった。三条さんに【飛翔】の魔法書25個を渡す。びしっと敬礼されたので合掌で返す。そっちは頼みました。
渡しただけじゃ片手落ちだね。
「Aチームのみんな、陸自の皆さんにコツを教えてほしいんだ」
「「「「「うっす!」」」」」
その夜、Aチームの5人は陸自隊員と一緒に夜を明かしたのだった。
「いやー、君たち強いな」
「いえいえ、俺らなんて」
「自分らは隊で鍛えてるのに、それ以上だぞ?」
「うちらはハンターですし、獄楽寺にはとんでもない強さの人が多いんで、自分が強いなんて思えないっすよ」
「守さんはあー見えても師匠が「勝てねえな」って肩をすくめるくらいに強いです」
「師匠がいるんだ!」
「うちら全員が剣持って斬りかかっても素手であしらわれてお返しに殴られて終わるくらい次元が違う師匠っすわ」
「とんでもねーなー」
Aチームの5人は陸自隊員と一緒に風呂に入っていた。【飛翔】の魔法を覚える隊員が決まり、飛ぶコツを教えて、そのついでに力試しと素手で組み手をした結果、Aチームが勝ってしまった。
ヘリボーンができるレベルの隊員はそもそもの肉体レベルも高い。Aチームはきちんと強くなっていた。
で、すっかり仲良くなってしまったので、湯船につかりながらこんなことを話していた。風呂場はムチムチでむっわぁである。その筋の方なら御飯が5杯はいけるはずだ。
「しっかし、こんな危険な作戦に即答したらしいじゃん、君らのリーダーは」
「あー守さんは事情があるんすわ」
「魔物許さんとか?」
「お母さんが船橋のスタンピードで亡くなってるんで、スタンピードが起こって救援要請があれば飛んでいく人なんです」
「自分みたいな人は出しちゃいけないんだって。こうなると奥さんの京香さんとかでも止められないんっすよ」
「そっか、そんな事情があったんだ……」
風呂場は静まってしまった。自衛隊員の中には、子供のころに災害等で自衛隊に助けられ、それがきっかけで入隊したものもいる。今回は生まれ故郷がピンチで危険な降下を希望したものばかりだ。その気持ちは痛いほど理解できた。
「だからこそ全力でダンジョンをつぶしに行くはずっす。魔物には容赦ないっすし、守さん」
「踏破するだけなら1時間かからないって言ってたな。意味わかんねーけど」
「一部のアンチがなんか言ってるけど、守さんがブチぎれたら世界が終わるって知らねーんだろーなー」
「守さんは優しいからやらねーだろうけどさ」
「ってことで、俺らは魔物をぶったおすのと京香さんの護衛が仕事っす」
5人の言葉に陸自隊員の顔が引き締まる。目的は違えど、死地に向かう仲間なのだ。




