50.入学式と佐渡島スタンピード③
何だか知らないけど防衛省の副大臣さんから電話が来て、テレビ電話で話がしたいといわれて、母屋でやることになった。食堂だと目立つ。
京香さんが電話で連絡を取りながらノートPCをセットしてる。大型モニターを持ってきた。横には零士くんがいて、カメラの視界に入らないようにしてる。
「つながります」
京香さんの合図でモニターに数人の人が映った。3人いて、真ん中にいる白髪交じりの髪をオールバックにしている中年男性がグレーのスーツ姿で、両脇の髪を短く刈り上げている両脇の人は紺色の軍服っぽいのを着てる。
「お初にお目にかかります。防衛副大臣の両津です。右にいるのが陸上自衛隊の陸上総隊司令官、左にいるのが航空支援集団の司令官です」
「副大臣は衆議院議員新潟区選出の議員ですね」
京香さんが小声で教えてくれる。地元議員さんか。
「突然の要請、申し訳なく思うがまずは話を聞いてほしい」
深々と頭を下げる両津副大臣。対応は鏡で。向こうが真摯な態度ならこちらも真摯たれ。
「獄楽寺ギルドの坂場です。こちらは」
「『妻!』兼職員の京香です」
そこを強調しなくっても。
「お忙しいところありがとうございます。時系列から説明いたします。昨日夜に佐渡ダンジョンでスタンピードが発生しました。ギルドがハンターを集めて初期対応して抑えていたのですが突然魔物が爆発的に増加して抑えきれずに地上にあふれてしまいました」
「突然増加した?」
「理由は不明ですが、10階以降にいる魔物が出てきたと報告を受けておりまして、監視カメラにも映っておりました」
副大臣が画面の向こうでタブレットを操作して、その時の映像を見せてくれた。ドラゴンみたいなスライムが火を噴いてた。
「佐渡ダンジョンはランク2ダンジョンで、スライム種しか出てこないスライムダンジョンです。あれはおそらくドラゴスライムで間違いないと思われます」
京香さんの知恵袋入りました。
「おっしゃる通り、ドラゴスライムです。地下10階より深い階にしかいない魔物ですが、地上まで出てきました。ギルドは火災で半壊、職員の半分は脱出して警察が保護できましたが半数が行方不明です」
両津副大臣が目元を抑えた。テレビで見たあの映像からすると、生存は厳しいかもしれない。行方不明と聞いた京香さんの顔がこわばってるのがわかる。
「ギルドおよびダンジョンは総務省の管轄ですが、この度総理大臣より防衛省に防衛出動が命ぜられました。本来であれば国会の承認が必要ですが時間がありませんので事後とするように命ぜられております」
副大臣は一度言葉を切って姿勢を正す。
「佐渡島に自衛隊基地はありますが空自のレーダーサイトで、戦闘部隊はほぼいません。ドラゴスライムが空にいるので佐渡空港は閉鎖、港も閉めざるを得ず、自衛隊を送ることもできないでいます」
「その状況で、我々に話を持ってきた理由をお伺いしてもよろしいですか?」
京香さんが切り込む。拒絶しないあたり、たぶんだけど職員が犠牲になってるのがきいてるんだと思う。
「理由はふたつあります。ひとつは、貴ギルド所属ハンターが空を飛べる魔法を取得していると、防衛省が掴んでおりまして。ならば、ドラゴスライムが近寄れない高度500メートル付近から戦闘しながら降下することが可能ではないかと判断しました」
副大臣がひとさし指を立てて説明する。
確かに、俺をはじめ【飛翔】の魔法を覚えてるハンターはいる。別に内緒にしてたわけでもないし、知られてても不思議はないけど、やっぱり調べてるんだぁ。
「ふたつめですが、こうなってしまった状況を収める手段はふたつしかありません。あふれた魔物の殲滅もしくはダンジョンを踏破して消滅させることです。ここまで被害が拡大しては魔物の殲滅は難しいと考えました。残るはダンジョンの踏破だけです」
あー、俺が日比谷を踏破したからかー。
「なるほど、理由はわかりました」
「行くしかないね」
「守君がそういうのは予想の範疇ですが、相談くらいさせてください」
「相談はするけど結果は変わらないって」
母さんみたいな人を出しちゃいけない。
「正直、守君ならば可能だとは思いますが、守君ひとりでは交渉する時間的余裕はないでしょうから私も行きます」
「ちょっと待って。やばいところには連れていけないって」
「明日は市船の入学式もありますし」
「そうだけど」
そうなんだよ。明日は市船のハンターコースの入学式があって、俺も来賓で呼ばれてるんだ。
「両津副大臣、よろしいでしょうか」
「なんでも」
わーん、京香さんが無視するよー。
「さすがにタダ働きはないと思いますが、我々への対価は何を用意されておりますでしょうか?」
「簡便な手段としては金銭となりますが、貴ギルドは国内でもトップの売り上げでありポーションの供給源となってもおりますのでそれ以外になると考えてはいます。が、時間がないのでできれば要望をお聞かせ願いたく」
「今回のスタンピードの鎮圧を配信したいと思っております。幣ギルド長はインチキだなんだといわれのない中傷を受けておりますので、今回の鎮圧をそのまま垂れ流してやろうかと考えます。配信機材はこちらで所持していますのでそれを使用いたします」
配信って、あー【DSS】を使うのかー。
別に俺がインチキとかは気にはしないけど、それが京香さんとかに飛び火するのは看過できない。
配信したところで信じないやつは信じないだろうけど。
「それと中傷した人物全員の情報開示をお願いします。訴訟しますので。ダニはダニらしくつぶさないといけませんから」
辛辣メイドさんが本気だ。副大臣と自衛隊の偉い人が苦笑いしてる。
「配信に関しては、機密が映らなければ問題はありませんが……誹謗中傷については法務省につなぎましょう」
「了解しました」
「急ぎ輸送の手配をします」
副大臣が空自の偉い人に顔を向けた。
「そちらにヘリが降下可能な広場などはありますでしょうか?」
「さすがに寺の敷地にはないけど……近くの小学校くらいしかないかな」
畑はまずいしね。小学校もまずいけどさ。
「そちらの自治体に話を通して迎えのヘリを近隣の小学校へ飛ばします。連絡手段ですが」
「私の携帯でお願いします。番号はこれこれです」
「ありがとうございます。特定秘密扱いにさせていただきます。ヘリで茨城の百里基地に移動、そこから輸送機で新潟空港へお送りいたいたします」
副大臣は陸自の偉い人を向く。
「新潟県にある陸上自衛隊 新発田駐屯地に移動していただき、大型ヘリで佐渡島上空から降下という流れを考えております」
ある程度向こうで考えてるっぽい。ってことは手配済みってことかな。急には動けないもんね。
「その迎えのヘリには何人乗れますか?」
「12名まで可能です」
「わかりました」
陸自の偉い人が答えてくれた。
俺がダンジョンに突撃したら京香さんはひとりで残ることになる。護衛は必須だ。
「現地の新発田駐屯地所属の第30普通科連隊に話を通しておりますので、希望があればお申し付けください」
「佐渡島のレーダーはロシア朝鮮半島を警戒しているものでレーダーに被害が及ぶと国防に穴が開きかねない。早急に解決したいのです。どうかお力をお貸しください」
自衛隊の偉い人に頭を下げられてしまった。
「わかりました」
言うしかないでしょ。まぁ行くんだけどね。見て見ぬふりはできないよ。
通話は終わった。




