50.入学式と佐渡島スタンピード②
ほとんど味のしなかった朝食後、食堂には俺、零士くん、瀬奈さん、京香さん、智、美奈子ちゃん、葉子ちゃん、京子ちゃんが集まった。
「ニュースのとおりだが、あれがここで起きる」
「まずは情報整理からです」
零士くんの後に京香さんが続く。
「佐渡島ダンジョンはランク2ダンジョンで、スライムしか出ないスライムダンジョンです。ブルースライムをはじめ、酸を吐くブラックスライム、毒を吐くグリーンスライム、炎を吐くレッドスライム、ドラゴンのように空を飛び炎のブレスを吐くドラゴスライムなどが出現するダンジョンです。最高到達階は14階となっています」
「ずいぶん質の悪いスライムね……」
智がぼそっとつぶやいた。その気持ちはわかる。炎もそうだけど毒とか酸は直接的な被害のほかに武器とかにも被害がでる。しかもこいつらが地上に出たら、建物にも被害がでるわけで。
「スライム自体は強くはない。が、特性があって、打撃に対して耐性がある。そして一度にやつらの耐久力以上のダメージを与えないと倒せない」
「一撃で倒せってこと?」
「そうだ。しかもスライムすべてがその特性で、ドラゴスライムもそうだ」
零士くんが顔をしかめている。零士くんでも面倒な魔物か。
「スライムも強さがばらばらで、一番弱いのがブルースライムと言われています。グリーンレッドブラックと強くなり耐久度も上がっていきます。ドラゴスライムは10階以降にいる魔物で空を飛ぶ上に火のブレスを吐きます。半面打撃以外は効果が上がるようで、ガソリンをかけて燃やしたら倒せたという記録もあります」
「もしかして、魔法とブレスはよく効くってことかな」
京香さんの説明を聞くと、そう思っちゃう。
「おそらくは。ブレスで倒したという記録がないので定かではありませんが」
「ふーん、ならやりようはあるかなっていうか、スライムもスケルトンになるのかな? それなら智の【祈り】で対処できちゃいそうだけど」
「佐渡島のスタンピードの状況から、かなりの数の魔物のように思えましたので、長期戦になるかもしれません」
「休憩が必要だし、ダンジョンに入りっぱなしってわけにもいかないしなぁ」
どう対応するかだ。決まってるのは、絶対に地上には出さないってこと。これは絶対。
「智と京子だけじゃなくってツンドラちゃんも出せるわよー」
「わたしも出ます。スライムは初めてです。楽しみです」
にっこり瀬奈さんとやる気な美奈子ちゃん。
「オレはやるぜー!」
「アーシもやんゾー!」
金髪コンビもやる気十分だ。頼もしい。
「24時間体制が必要だろうが、とりあえず俺がダンジョンに入りっぱなしで連絡を取れるようにしとけば何とでもなるだろ。それよりも、現地のスタンピードがいつ解決するかだ。あっちが終わらん限りこっちも終わらんだろう」
「さっきのニュースを見る限り、厳しそうな感じだね」
中継のヘリが攻撃されてたし。無事だといいんだけど。
「スライムには銃が効かねえ。銃弾だと必要なダメージに足りんからどうしても近接戦闘で倒すしかねえが、空を飛ばれるとそれも厳しいだろうな」
「警察は……飛行機がないけど自衛隊がいるから大丈夫じゃないかな」
詳しくないから「知らんけど」になっちゃうけど。
「佐渡島には航空自衛隊のレーダーサイトしかないので陸自の部隊がいません」
京香さんの言葉に「え?」としか返せなかった。いないの?
自衛隊の基地って、結構数あるよね? 千葉県にもいくつもあるよ?
「陸自の駐屯地は新潟にある。空自は海難救助がメインの基地で輸送機はない。船で行こうにもドラゴスライムが邪魔だな」
「戦略で判断しますと、現在は魔物に制空権を握られている状況で、極めて不利と言えますね」
「ドラゴスライムは精々飛べても高度数百メートルだろう。その高さでは戦闘機は役に立たん。下手に攻撃すると地上に被害が出る」
あれ? どうしようもなくない?
「解決できるの? これ」
「スタンピードをつぶす方法はふたつだ。ひとつはあふれた魔物の全滅。これが普通の方法だ。もうひとつはダンジョンを無くすこと。つまり踏破だな。もっとも踏破できるならスタンピードが悪化してないから、実績はねえがな」
「踏破……」
ちょっと嫌な予感がしちゃった。
とりあえずこの場は「3時間おきにでもダンジョンの巡回をしよう」ということでまとまった。
霞が関にある総務省の一室では、とある人物が憤慨していた。総務省迷宮局局長の加古川だ。
「ギルドは何をやってるんだ! ハンターを送り込め! たかが魔物に何をしてるんだ!」
偉そうに椅子に座っている加古川が前に立つ中年男性をしかりつけていた。
「は、はい。佐渡島にいるハンターは招集をかけておりますが、住民保護のために各地で魔物と戦闘しておりまして」
「ぬぬぬぬ、他の地域からハンターを送り込めばいいだろ!」
「現在佐渡空港は閉鎖、両津港も閉鎖されており、島に渡るすべがない状況でして」
「航空機から降ろせばいいだろうが! ヘリでもなんでも投入して!」
「そ、総務省には固定翼機はございませんで。それにハンターは自衛隊ではございませんので、降下などは……」
「くそっ! 俺の出世の邪魔を……飛行機か。そうだな、防衛省だ、防衛省にやらせろ。あいつらなら飛行機だろうがヘリだろうが好きに使える。早く防衛省へ行って災害派遣でもなんでもさせてこい!」
「は、はい……」
中年男性は部屋から出ていった。
テレビはずっと佐渡のことしか映してない。自然災害ともいえるほどの事件だもんね。
内容はというと。
ギルドがハンターを集めて押さえていたが突如スライムが爆増、地上に氾濫した。各所で火災が発生し、ダンジョン周辺はほぼ燃えている。空にドラゴスライムが飛び飛行機が着陸できない。フェリーも運行停止しててトキセンターの朱鷺も緊急放鳥された。
空港は佐渡空港しかなく、フェリーもダンジョンにほど近い両津港からしか出てない。漁港はあるけど大きな船は入れない。完全に交通手段が閉ざされてしまっていた。
そんな時、ギルドの電話が鳴った。うちはまだ固定電話はあるんだよ。そもそも寺だしね。
「獄楽寺ギルドです」
京香さんが応対してる。
「……はい……はい」
む、京香さんが聞く一方だと?
「少々お待ちください。守君、ちょっと緊急事態がおきまして、お時間よろしいですか?」
「緊急事態を放置するわけにはいかないんじゃ? で何が緊急事態?」
「防衛省の副大臣からの電話で、佐渡島スタンピード鎮圧協力要請が来ました」




