48.最新の配信機材①
3月も末になった。暖かい日も増え、桜も咲いて世の中がどことなく明るくなった気がする。寺にくるおばあちゃんおじいちゃんたちの足取りも軽い。
寺の本堂脇にも桜の木があって、江戸彼岸桜で淡い桃色の、これぞ桜ってイメージの桜が満開だ。
せっかくだからお花見をしようと、寺にいる人で花見をしつつお昼にした。羅さんが人見知りな浦河姉弟は車で花見に行ってる。姉思いの弟さんだよ。
「……たくさんの、しかも娘となる人と花見ができるなど、思いもしなかったな」
父さんが桜を見つめながらそう呟いた。花見なんて俺としかしてないし、それも中学までだったかな。
瀬奈さんが仙台から帰った翌日、役所にいって婚姻届けを出してきた。ひと悶着あるかと思いきや寺の事情は知れ渡っていたようでニコニコ顔で受理された。うちが納めた税金が結構な額である、というのもあるでしょ。
これで3人は坂場家の一員になった。これからは瀬奈さん京香さん智美さんと呼ぶようになる。智だけは『智』呼びかもしれないけど。
なお結婚式はふたりの出産が終わって体形が戻ったらやろうということになった。
桜の木の下にシートを敷いてテーブルと椅子をセットした。花を見ながらお昼を食べるぞ。
「昨日、魚屋で桜鯛のいいのが入ったって言われたから2尾買ってきて1尾は刺身にしてもらって、もう1尾は鯛めしにしたよ」
1升炊いたから足りる、はず。足りてほしい。
「旬の食材を使った春キャベツの浅漬けとアサリの酒蒸しとハマグリのバター醤油焼き。アサリの酒蒸しは涼子さん、ハマグリは智が調理してくれましたー」
俺はご飯と浅漬けだけ。大助かりだ。
ただ、鯛はおろした後に切り身だけじゃなくてあらも骨も焼く。そしてあらと骨は昆布と煮て出汁をとって、その出汁で炊くとなお美味しい!
料理系動画で勉強した。だって前はお金がなくて鯛めしなんて作る機会はなかったし。ダンジョンができてからの方が生活がいいのは釈然としないけど皆が幸せならヨシなのだ。
「ほほぅ、涼子さんに智美さんもですか。醤油の焼ける匂いがたまらんですなぁ」
「お義父さん! ハマグリおいしいから食べて食べて!」
「鯛めしウマウマ! オカワリー!」
「ようちゃん、もっと噛もうね」
「刺身うめぇ! いくらでも食えるぜ!」
「京子、ちょっとは遠慮おし!」
「はふー、鯛めしの味が染み染みで優しい味です」
「アサリも旨みが強くておいしーわー」
「ダンジョン産の鯛があったらもっと美味しいのかも!?」
旬の食材は旬の時期に食べるべきだよね。今は年中好きな時に食べられるけど、やっぱり時期はあるんだ。みずみずしさが違う。
「あーうまかったー!」
「たべすぎター」
京子ちゃんと葉子ちゃんが「炬燵にやられて野生には戻れないワンコ」的に並んでひっくり返ってる。京子ちゃんは長いスカートで葉子ちゃんはジーパンなのでご安心ではあるけど牛になっちゃうぞ。
「ふわぁ……私も眠くなってしまいます………おや着信が。ビッチさんからですね」
あくびをした京香さんのスマホが鳴った。
「はい坂場京香です。今日から坂場姓になりましたのでよろしくお願いします」
『あらおめでとう。ようやくですわね。ご祝儀ではないけれど、あの商社から売り込みが来ましてよ。なかなか面白そうなものですわ』
スマホをスピーカーにしてあるのでみなが聞いてる。
「あのというとデッセン&リーファーカンパニーでしょうか」
『えぇそう。ダンジョンでも使える配信機材だそうよ。墓地ダンジョンで使い道があればと思って連絡した次第ですわ。資料はメールで送るので、興味があったら連絡を頂戴な』
「かしこまりました。後で確認いたします」
通話完了。そして疑問が。
「ダンジョンでも配信可能って言ってたね」
「そうおっしゃってましたね。ダンジョン1階なら強引に配信することも可能ですが、あの口ぶりからすると2階以降でも使用できそうでしたね」
配信ねぇ。俺がやるとインチキとかいうやつが来るだけだからなぁ。
「ダンジョンから配信できるの?」
「アーシも映る?」
「師匠のダンジョンでの様子をこっそり見られるかも?」
おっと美奈子ちゃん、それは盗撮だぞ?
ということで資料を見る前に購入が決まってしまった。
のんびり花見を楽しんでから、ビッチさんから届いたメールの資料を見る。みな見たがってるのでプリントしてかつ食堂の大型モニターにも映した。
「海外の著名錬金術師が開発したダンジョン内との通信が可能な機材である。だって」
著名錬金術師ねぇ。
「錬金術師って見ないよね」
「日本にもいるらしーゾ?」
「寺にもひとりほしいなー」
そういや前に零士くんが対魔法のアイテムの件で錬金術師って言ってたな。寺にいてくれれば何かを作れるかも?
素材となるドロップ品は結構あるんだよね。錬金術師、欲しいかも。
「Dungeon Stream System(ダンジョン配信システム:)【DSS】だってー」
カタログは英語だった。読めませんが何か?
「葉介さんお願いします」
「あ、はい」
葉介さんは六法全書とか法令集を暗記し終えてからはありとあらゆる言語を覚え始めてて、英語はじめドイツ語フランス語などの欧州語に加えてヒンディー語ロシア語アラビア語中国語各種の単語辞書の暗記を終えたらしい。今はアジア圏の言語を覚えてるんだとか。超有能なんですけど。
外務省とかにヘッドハンティングされないよね?
「えっと、超小型魔石発電機搭載の飛行船型滞空通信機を母機として地上と交信する。って書いてありますね。ちょっと専門語と造語も入ってて訳しにくいですね」
カタログには、ダンジョン1階に浮かべた母機とダンジョン入り口付近に設置した地上ユニットとの間で通信が可能になった。地上ユニットから有線ないし無線で配信機材と接続。そこから配信する形。ダンジョン内は子機のドローンカメラと母機間で通信する。
「母機は充電式のバッテリーで最大20時間稼働可能となってます。長時間稼働するんですね」
「子機はどうなんだろ」
「子機はプロペラが4つついたドローンですね。バッテリー駆動で1時間、カメラのみなら6時間と書かれてます」
普通のドローンは30分くらいで電池切れになるみたいだし。カメラのみってのはドローンを持つ、ないし体に取り付けてカメラ代わりに使う想定だって。
「通信可能な技術が謎なんだけど」
「錬金術師の特許で非公開となっています」
「怪しいなぁ」
カタログには導入例が載ってて、海外のトップハンターや有名配信者が導入したらしい。国内でも有名配信者が導入しようかと検討してるけど高いのがネックで二の足を踏んでるとか。
「で、お値段は?」
「見積には、母機が1億円、子機が1機500万円、地上ユニットが100万円、システム費用で1500万円となってます。子機は最大15機まで同時接続可能なようです」
京香さんが見積を見てる。値引きが入ってこれらしい。
「システムマックスで2億かー。確かに普通じゃ手が出ないよね」
「キャッシュで買えますが?」
「……買えちゃうのが怖い」
買うけどさ。
これがあれば、墓地ダンジョンの警戒ができるかなーって。各階に子機を飛ばしておいたらスタンピードの兆候を掴めるかなって。稼働時間が気にはなるけど。




