44.行って(1月)逃げて(2月)去ってしまう(3月)⑤黄金騎士団の結婚式③
「そのデブを縛って倉庫にでも転がしておけ」
控室に入った恩納が吐き捨てた。黄金騎士団の団員だろう若い男が荒縄でぐるぐる巻きにしていく。
「はぁ、でも助かった。うちが手を出すとまたうるさいからな」
まったく、あそこには借りしかできない。しかし手際が良かった、いや良すぎるな。あの女の子もだいぶ鍛えられてる感じだった。さすが獄楽寺というところか。
「恩納さん、これなんですけど」
「なんだ?」
受付にいた若い女性が瀬奈の持ってきたご祝儀を持ってきたのだ。恩納は「この厚みは200万ってとこか」と一瞥するが一枚だけ様子が違うことに気が付き、片眉を上げる。
ドロップ品らしき名前が羅列されており『ご祝儀:どれか5つby坂場守』と丁寧な文字で書かれていた。
恩納は無言で読み取り、天を仰いだ。
「英に渡しといてくれ。俺の手に余る」
「は、はい!」
女の子はパタパタと控室を出て行った。
「金は目くらましでこっちが本命ってわけかよ……とんでもねぇなぁ」
恩納のつぶやきは、誰の耳にも入らなかった。
会場に入った瀬奈一行はざっと見渡した。
「うちの席はどこかしらねー」
「瀬奈先輩、あっちですね」
「あら、隅っこでちょうどいいわねー」
会場の端の席だ。目立たなくていい。瀬奈はそう思った。
主賓は新郎新婦の親とクランのスポンサーだろう。表立って取引のない獄楽寺は端っこでちょうどいいのだ。
テーブルは多く招待客も多い。礼服姿の男性が多いが奇抜でも下品ではない洋装の若い男もいた。デザイナーだろうか。
こんな時でもないと見れないもんねー、と瀬奈は楽し気に眺めている。
「あれ、人気モデルの霧島じゃね?」
「女優の垂水もいる?」
品川と渋谷は有名人を見つけたらしい。霧島は高校生の時の読モからプロ入りした女の子で垂水は中高生に人気の若手だ。どちらも真新しいデザインのドレスを着ていた。
「スポンサーのマネキンかしらねー。あの子たちが着てるドレスをはやらせたいんでしょー」
「テレビで流れるからですか?」
「ステマってやつよー」
「うわー業界の闇だ!」
ポニーも人の負の面を知っていかねばならない。
そうしているうちに会場の明かりが落ち、入り口にスポットライトが集まる。
「新郎新婦入場です」
司会だろう女性のアナウンスがかかる。
ドアが開けられ。那覇と3人の奥様ズの姿があらわになる。アラグネシルクが作り出すきらめきで包まれた様は落ちることのない雪をまとわせた白雪姫だ。煌めきを引き連れた4人がバージンロードを歩いていくと各テーブルからは感嘆の声が上がる。
「これがアラグネシルク……」
「きれい……」
「素晴らしい!」
もちろんポニーの4人の視線も釘付けだ。
「うわ、パソコンで見た画像よりきれいじゃん!」
「すごいぃぃぃ」
ざわつきの中、新郎新婦は式場の奥につくと来賓に向き直る。緊張しているのか、那覇の表情が硬い。対照的に新婦の3人は楽しそうな顔に見える。ひとりではなく仲間がいるからだろうか。
室内の明かりが戻されるが、新婦たちは煌めきをまとった妖精のままだ。手を伸ばせば光を握れそうに錯覚してしまう。
「これより結婚式を執り行います」
司会による開会宣言で式が始まる。誓いの言葉を交換し合い、指輪交換と流れていく。
「ほえー結構あっさりしてるんだ」
「あくまで式だからねー。披露宴とは違うのよー。あなたたちも自分の時を想像しておきなさーい」
「わたしの時かー」
「武志と、かな」
「まずは相手だな」
「そ、それだね」
わたしの時はどうなるのかしらねーと瀬奈が自分のことを考えたとき、入り口が開き剣を携えたハンター20人ほどが入って来てバージンロードの両脇に整列した。男性はタキシード。女性は白いドレスだ。
「ちょ、なに!?」
「足立、落着きなさーい」
腰を浮かそうとした足立を瀬奈はなだめる。一番手前にいるのは騎士団の1軍で見かけたことがある男性だ。人数的に1軍+2軍というところか。ここにいない団員は式を裏で支える要員だろう。こちらも大事だ。
「団長に、捧げ剣!」
その男性が号令をすると一斉に持っていた剣を両手で握り、顔の前に垂直に立てた。
「おおおお!」
「かっけぇぇ!」
「ほらほら座ってなさーい」
興奮して立ち上がりそうにになる品川と渋谷を瀬奈は窘める。高校生ねーとおねえさんも苦笑いだ。
「新郎新婦、退場です」
司会がアナウンスすると那覇らが歩き始める。整列した団員らが天に腕を伸ばし、剣でアーチを作った。
那覇ら4人は剣のアーチの下をゆっくり歩いていく。剣を掲げる団員らの顔は明るい。
「かっこいい……」
「素敵だぜ」
4人とも「はふぅ」と吐息をついた。
「なおれ!」
新郎新婦が部屋を出ると団員らは剣を下ろし、整列を保ったまま同じく退場した。
「これにて式は終了いたします。10分の休憩後に引き続き披露宴へ移りたいと思います」
無事に式は終わったようだ。交代でトイレに行き、披露宴が始まるのを待つ。
「トイレが花で飾り付けられててきれいだったなぁ」
「あーゆー細かいところに手が届いてるのがポイント高いよね」
「気遣いっつーかさ」
「造花じゃなくて本物だったよ」
女子ならではの見方だ。だが料理が運ばれてくればそっちに目が奪われる。
「料理も可愛いな」
「色合いの時点で旨そうだ」
「写真とっとこ」
「このまま持ち帰りたいなぁ」
女子の興味は尽きない。
「フォークがいっぱいあるけどどれ使うんだ?」
「外側から使っていきなさーい」
「瀬奈先輩これって」
「ナプキンだから膝の上においておきなさーい」
初めてのテーブルマナーに戸惑うヒヨコたち。ダンジョンのようにはいかないのだ。
「準備が整いました。新郎新婦の入場です」
入り口の戸が開き、那覇と3人の奥様ズが現れる。まだウェディングドレスのままなので輝く雪に囲まれたお姫様だ。式とは違ってカメラが多い。フラッシュもバンバンうるさいくらいにたかれてる。
4人は笑顔を振りまいて歩き、メインテーブルに着いた。
「これより披露宴を開催いたします」
女性の声でアナウンスがかかり、ライトが落とされる。
新郎新婦の紹介。主賓挨拶と続く。おそらくスポンサーの偉い人だろうあいさつ中も、ポニーらは料理に目が行ってしまっている。興味のない話なので仕方がないが。
「乾杯の準備をお願いします」
アナウンスが流れてグラスに飲み物が注がれていく。瀬奈は妊婦、ポニーは18歳なのでロゼのノンアルコールシャンパンだ。グラスに注がれている液体はほんのりピンクで幸せ感がある。
「おおお、かわいい色だ」
「飲むのがもったいないね」
4人はこしょこしょ話をする。乾杯の挨拶が始まっているがそっちのけだ。
「――乾杯」
「わわ、乾杯!」
「か、乾杯!」
「かんぱーい」
「かんぱい!」
乾杯のタイミグも遅れた。瀬奈も苦笑するしかない。いつしか覚えるだろう。
「やっと食べられる!」
花より団子チームはこっちがお楽しみだ。料理はテーブルにあるが、立食パーティーのように中央に料理が並べられたテーブルもある。デザートはこっちにあり、参加者同士の交流を促している。
「うまっ!」
「お代わりほしい」
化粧をしているので慎重に食べてはいるがそこは高校生なので早い。そして足りない。
「じゃんけんで順番を決めるぞ」
「恨みっこなしな!」
浮かれているようだが彼女らにはまだ護衛という意識はある。
「よし」!
じゃんけんに勝った太田が先陣を切った。酒が進む大人と違って食事しかないのだから仕方ない。
太田がお代わりをゲットすれば次は渋谷だ。品川足立と一巡する。瀬奈は食べ過ぎ厳禁なのでデザートをどうしようかと考えている最中だった。




