44.行って(1月)逃げて(2月)去ってしまう(3月)⑤黄金騎士団の結婚式②
式当日朝。式の開始は午前9時となっているが準備はその3時間前から始まっていた。
最初にドレスの着用だ。
若い4人には無難さを優先してスカートの裾が広がるよくあるタイプのドレスだ。形もお揃いにしてある。
ただしオフショルダーで肩はがっつり見せて若さをアピールする方向だ。寒さはストールと若さで何とかするのだ。
ポニーの4人は慣れないドレスに着られている上に化粧もしていないので、なんというか、芋いのだ。
「似合わなくも、ないか?」
「渋谷はかわいいわよー」
「えへへ、そうっすか?」
「お、おなかのお肉が……」
「太田ー、気になるならコルセットでもするー?」
「ふ、腹筋に頑張ってもらいます!」
「ふはは、色気のかけらもねえ」
「寄せてあげれば、いけるか?」
「品川に足立ー、主役は新婦なんだから、控えめでいいのよー」
「そりゃそうだ」
「わたしらはモブだしちょうどいい」
「4人とも可愛いんだから、卑下しちゃだめよー」
「「「「えへへへー」」」」
ポニーの4人は、口ではこう言いながらも表情はでれでれで緩みっぱなしだった。
自分のドレスである。しかもお高いのだ。嬉しくないわけがない。
「猫背はだめよー。しゃんと背筋を伸ばせば大丈夫ー。わたしはモデル!って念じるのがコツねー」
瀬奈に注文を付けられ、ぐっと胸を張る4人。ハンターとして鍛えてあるので体に棒が刺さったようにびしっと決まって風格さえある。モデルも真っ青なレベルだ。
「お! わりといいんじゃない?」
「絶望するほど悪くもないなー」
「こ、これもあり。きっと」
「何とかなるだろ!」
ポニーの4人はクルクル回ってみたりポーズをとってみたりお互いを写真で撮ったりと大はしゃぎだ。姦しさが輝いている。
ドアがノックされ「メイクの時間でーす」と声がかかる。
瀬奈らが泊まったスイートにはメイク担当のお姉様が3人投入され、まずは瀬奈、足立、品川が持ち込まれた化粧台の前に座らされた。
瀬奈は体の線が出る薄ピンクのマーメイドタイプのドレスと守からもらったサハギン大真珠のネックレスをつけている。お腹が目立つが「あえて」である。
3人は流れるような手つきでメイクされていく。
「うわー、足立が足立じゃねえ」
「おいこら渋谷ぁ!」
「品川が可愛い?」
「太田ぁ、わたしはいつもかわいいぞ!」
「はーい、お嬢様がたー? メイク中はおしとやかにしましょーねー。かわいい顔をもっとかわいくしちゃうからねー」
じゃれつきもメイクさんによって流されていく。さすがはプロである。
そして選手交代。
「お、太田がほっそりしてるだと!?」
「頑張ってダイエットしたんだからぁ!」
「渋谷がお嬢様になってんぞ!?」
「はっはっは、そこらのモブのわたしがお嬢様のわけ……あるな!」
きっちりお返しはされていた。そしてメイク完成。
「すげぇ! わたしが美人だよ! 武志に写真送ってやろ!」
「品川、全身撮ってやんからスマホよこしな」
「たのむわー。終わったら渋谷もなー」
品川と渋谷がお互いの写真を撮っては騒いでいる。
「お母さんに写真おくろっと」
「あ、わたしもおくっとこ!」
「うちの子にあるまじき可愛さだって。もー」
「あはは、『誰?』だってさ!」
太田と足立もニンマリだ。
プロのメイクによってモブくらいの女子がクラスカースト上位の可愛い女の子に変身していた。
瀬奈は当然美女である。
「いやぁ、メイクし甲斐がある子たちだわ」
「若いってだけで肌のアドバンテージは無限よね」
「立ち姿もしっかりしてるから映えるわよきっと」
メイクのお姉様たちも満足したようだ。
そして式場へ移動だ。レストラン前には受付が設置されており、招待状の確認をしている。マーメイドタイプのドレス姿の瀬奈と色違いのドレスに身を包んだポニーの4人はゆっくり歩いていく。
「誰だあの妊婦さん。どっかのモデル?」
「一緒にいる4人も可愛いな」
ひっそりとだが周囲からも注目を集めている。
ポニーの4人は受付周辺にいる女性が気になっているのか、彼方此方を見ては嘆息していた。
「美人しかいねえじゃん」
「イケメンばっかり」
「ぐぅ、へこむよぅ」
「さすが黄金騎士団ってか」
「あなたたちも負けてないわよー」
「そ、そうっすかね」
「緊張してきたー」
ポニーの4人は護身用の警棒をバッグに入れてある。4人ともそっとそのバッグに手をやる。
「テレビカメラ!?」
肩に担がれている大きなカメラを足立が見つけた。しかも複数台あり、バズーカのような望遠レンズを付けた一眼カメラを持っている人もいた。
「ハンターTVの中継があるはずよー。あとは民放かしらねー。ウェデングドレスが原因よー」
アラグネシルク製のウェデングドレスなのでアパレル雑誌のカメラマンも大勢いる。昨年のウエディングドレス発表以降セレブから問い合わせが相次いでいたが音沙汰がなかったところに黄金騎士団の披露宴で公開されるとなったので各社がカメラマンをそろえて投入していた。
「うぇ! 撮られてる!?」
カメラが向いているのを渋谷が気づいてしまった。おそらくは瀬奈狙いだろうが一緒に映っているのは間違いない。
「普通にしてればいーわよー」
瀬奈は普段通りおっとりした足取りで受付をする。並んだのは若い女の子のところだ。
「この度はおめでとうございますー、獄楽寺ギルドの勝浦でーす。この子たちもでーす」
と桃色の袱紗からご祝儀袋を取り出しトレイに入れる。ご祝儀は瀬奈の指の太さの2倍ほどあった。獄楽寺の名前を出したからか視線が集中した。
「ッ……獄楽寺……少々お待ちください」
息を飲んだ受付の若い女の子が控室に駆け込んだ。代わりに正装した年嵩の男性が出てくる。日本人にしては浅黒く彫が深い。沖縄の出だろうか。
「本日はありがとうございます。クランの経理を取り仕切っております恩納と申します。スグルが生意気な頃から見ておりまして、ここ数年は疲れた顔をしている時もありましたが、御寺へお邪魔してからはガキのように目を輝かせやがって……姫たちが抜けた穴を強化された2軍がきっちり埋めた上にクランの士気もあがりまして、感謝しかございません」
恩納が深々と頭を下げた。
「うちのギルド長も黄金騎士団さんには日々感謝していますのでーおあいこということでー」
瀬奈が首をかしげてふふっとほほ笑む。
事実、守が不在の時に墓地ダンジョンを抑えてくれていることには感謝しきれないほどだった。
「しかしそれで……む」
恩納の顔が険しくなった。その視線の先にはデブの中年がいる。タキシードにオールバックで決めているがお腹のせいでタキシードが悲鳴を上げている。
そのデブは肩を怒らせて受付に来た。危ういと感じた足立がとっさに瀬奈の前に割って入る。残りの3人も瀬奈の周囲を固めた。
4人の目つきが変わり、臨戦態勢にはいった。カバンに入れてある警棒に手が伸びる。
「アンワードの笛吹だ」
「招待状はございますか?」
「ふん、無くした」
「アンワード様には招待状をお出ししておりません」
「そんなことはわかってる! ライバルのラコールにドレスを創らせおって! けしからんから見に来てやった!」
「招待状がなけ――」
「お前じゃ話にならん! 那覇を出せ! ウスノロが、さっさと動け!」
デブは手を振りあげ、唾を飛ばしながら罵倒する。
「あれ、アンワードのデブ吹だ」
「黄金騎士団が出禁にしてたろ」
「嫌がらせに来たな」
瀬奈の耳には周囲から漏れ聞こえてくる声が入ってきた。そして苦い顔の恩納を見て察する。
いろいろ面倒だから呼ばなかったスポンサーかしらねー。てか出禁なのねー。黄金騎士団がやったら角が立つからわたしが退場させようかしらー。
「やるわよ。太田、あのデブに【カース】をぶち込んでー」
瀬奈は小声で太田に伝えると、「イエスマム」の返答。と同時に笛吹の体がぐらりと揺れた。
「なんだ、からだが……」
笛吹はよろめきながらもなんとか踏みとどまった。
あらしぶといわねー。追い打ちしましょうかー。
瀬奈の追い打ち【カース】でデブの笛吹が前のめりになった。
「あらあらーどうされましたー?」
「ぐふっ」
瀬奈は近寄って介抱するふりをして掌底でデブの顎を揺らし失神させる。膝から崩れそうな笛吹は瀬奈が支えた。
「うわエグッ」
瀬奈の行動を見てしまった渋谷が思わずつぶやく。
「渋谷」
「は、はい!」
そそっと寄った渋谷が笛吹の脇をもって引き取る。
「あらあら。ご気分がすぐれないようですよー」
「それはいけませんね。医務室までお運びいたします。ささ、こちらで預かりますよ」
いい笑顔を浮かべた恩納が渋谷から笛吹をもらい受け、そのまま控室へ消えた。少々ざわめいたが瀬奈はそ知らぬ顔で受付を済ませたのだった。




