44.行って(1月)逃げて(2月)去ってしまう(3月)⑤黄金騎士団の結婚式①
日本における一大イベントであるバレンタイン。この時ばかりはキューピットが飛び交う日本だ。
その数日前に黄金騎士団の那覇の結婚式が予定されている。その招待状が獄楽寺に届いたのだが。
「智が不在だと守くんは無理よねー」
「私はその日が検診で」
智はその期間は大阪のダンジョンへ行って不在になる。京香は産婦人科の定期健診の日だった。その日以外だと業務で空いた日がないのだ。
「じゃーわたしがいくかなー」
ということで、瀬奈が出席することになった。駄菓子菓子。瀬奈はすでに妊娠5か月を過ぎている。
「瀬奈先輩単独はありえないのでポニーに護衛を依頼しましょう」
「あらいいわねー。じゃあお願いしようかしらー」
という流れでポニーの4人を呼びギルドからの依頼の話をすると。
「結婚式にですか!?」
「わたしらが出席していいんですか?」
動揺を隠せない4人。彼女たちは池袋へ行った際に那覇はじめ黄金騎士団を見かけてはいたが積極的に交流はしていなかった。自分たちは新人だし、池袋では有名な黄金騎士団に話しかけることを躊躇したのだ。虫が嫌で逃げたわけではない。たぶん。
「向こうの新婦に話も通してるし問題ないわよー」
瀬奈はほわほわっと返す。獄楽寺ー上野ー黄金騎士団の妊婦達は親密であり関係は強固なのだ。妊婦が出席、それが獄楽寺のナンバー2であれば護衛は当然だ。
なお、寺のナンバー2は瀬奈京香智の3人である。3人に何かあろうものなら守が暴走するだろう。
「で、でも、わたしドレスなんて持ってないですぅ」
太田がしょぼんとする。ドレスがどれほどの金額かは知らないが今は卒業課題の時期でもあり、稼いだお金は旅費に消えていくのだ。そもそもドレスを持っている高校生は圧倒的少数ではある。
「ギルドからの依頼なんだから、ドレスはうちが用意するわよー」
瀬奈が笑顔で答える。このあたりの不安点は瀬奈自身もわかるので先に手は打ってあった。
「スパイダーシルクが余ってるからそれで作っちゃうわよー」
「「スパイダーシルク!」」
「「高いやつ!」」
ポニーら4人は嬉しさよりも困惑と驚きがが勝っていた。布代は別なので作ったところで2ケタ万円半ばだが、高校生には大金だ。
「スパイダーシルクを染めた生地だから汚れにくいのよねー。早速採寸よー」
全員の身長と胸回りウエスト回りを測っていく。ついでに下着も作る。体重は機密である。
個々にぴったりにするのではなく、大まかなサイズで製作してきながら調整する予定だ。色は各自の好みで。
「ドキドキだー」
そんなこんなで式の前日、瀬奈とポニーの4人は出発した。
会場はサンシャインシティのホテルにあるレストランだ。もちろん貸し切り。
ホテルに前泊し、翌日の9時から式、そのあと披露宴に顔を出して帰る予定になっている。
ホテルの部屋は最上階でこそないがスイートで、獄楽寺の扱いがわかるものだった。しかも本来はふたり部屋にベッドを追加して5人部屋するという無理もしてもらっていた。
「おおすげえ高いぞ!」
「人がゴマみたい!」
「部屋が三つもある!」
「風呂も広いよ!」
女子4人は「すげえすげえ」言いながら部屋を歩き回ってる。餌を求める熊の群れだ。
「はーい、はしゃがなーい。夕食までは自由時間よー。わたしは部屋で仕事してるから遊びに行ってらっしゃい」
瀬奈はカバンからタブレットを取り出しながらはしゃぎまわる4人に声をかける。ダンジョンの利用予約が増えて京香だけでは処理しきれないので、今は瀬奈が取り仕切っていた。
利用されるほど赤字なのだがその分ハンターが強くなったと思えば痛みなどない。
「え、いいんですか?」
「護衛のお仕事がありますよ?」
「大丈夫よー。ホテル中に黄金騎士団のハンターがうろうろしてたしー、全館貸し切りだろうしー」
「え、でも」
そんな時にドアがノックされた。5人の視線がドアに集まる。ポニーの4人はお互いの顔を見合い、カバンに入れてあった伸縮式の警棒を取り出す。寺に来たばかりの頃の美奈子が持っていたアレである。
「黄金騎士団の那覇です」
「はーい、誰か開けてあげてー」
「は、はい!」
警棒をしまった太田が小走りでドアに行きカギを開けると、そこには那覇と宮古石垣与那国の奥様ズがいた。律儀にあいさつに来たのだ。
笑みをたたえながら4人が入ってくる。
「瀬奈さん、忙しいところありがとう」
「明日は忙しいから今のうちにあいさつに来ましたわ」
「お。かわいいどころが4人もいるじゃねーか! 式に華が増えるってもんだ!」
「スポンサーはおっさんばっかりでさ」
「ありがとーな!」
姉御肌の与那国にイイコイイコされた太田が直立不動で固まった。いきなりに対応できない太田なのである。
招待客は絞っており、親族のほかにはスポンサー関係者と交流のあるハンターだがスポンサーが多く、そして男ばかりだ。
結婚式なのだから華やかにしたいのは女性だけではない!
スポンサーの手前、言葉には出さないが那覇もそう思っていた。
「せっかくの式なのに華が少ないのはね」
石垣が頬に手を当ててため息をこぼす。おっさんの正装よりも女の子の煌びやかなドレスのほうがいいに決まっている。
「瀬奈んとこは派手にやるんだろ?」
与那国に問われた瀬奈は眉をㇵの字にさせる。
「わたしは親と断絶してるしー、守くんもお母さまがいないしー、京香ちゃんも家とは連絡とってないみたいだしー、智はお母さんと仲が良くないしー。だから寺でこぢんまりやるんじゃないかしらー」
「そ、そっか、ワリいこと聞いたな」
「気にしないでー。みんないま幸せだからー」
瀬奈はにこりと微笑み返す。祝いの席でこんな空気にしてはいけないのだ。
「あ、そうだ。師匠から手紙を預かってるのよー。明日だと渡せないかと思ってー」
「兄貴から?」
よほどびっくりしたのか那覇が目を開いている。
瀬奈はカバンからご祝儀袋のように折りたたまれた手紙を取り出した。ご丁寧に『開封無用』と書かれて封印されている。
「中は師匠以外誰も知らないわよー」
瀬奈はハイっとかるーく那覇に手渡した。
「あー、その、読んでも、いいかい?」
「おーおー読め読め!」
「もちろんですわ」
「なんだろーねー」
うずうずしている那覇が奥様ズに許可を取れば快諾の返事が。
ぱりぱりと封印を破り、紙を広げる。達筆な毛筆でつらつらと書かれていた。
「えっと、スグルおめでとう。嫁さんを幸せにするのは男の義務だ。俺にはできなかったがな! 精進しろ! 兄貴より……だって。ふふ、兄貴らしいな。あれ、もう一枚ある」
手紙とは別にメモ紙が同封されていた。文字を目で追った那覇が絶句した。
『祝儀代わりにオジキに武具の作製を強請っておいた。欲しい武具が決まったらオジキに連絡してくれ』
そう書かれていた。
「兄貴のオジキって確か……」
市川定である。零士の【羅刹】、四街道の【裁き】【白鶴】を打った鍛冶師で人間国宝だ。那覇が大きく息を吐いた。
「兄貴……もらいすぎだよこれは……」
肩を落とした那覇が苦笑する。
「んー、なんだかわからないけど、気になったなら師匠に連絡してあげて。スマホは持たせてて、番号はこれだからー」
にっこり笑みの瀬奈がメモにさらっと書いて那覇に渡した。
「ダンジョンに入ってると通じないかもしれないけどー」
「あ、ああ、ありがとう。後で兄貴に文句を言っとくよ」
那覇が嬉しそうに顔をほころばせた。




