43.札幌ダンジョンと四街道の課題⑦
夜、智に連絡を取る。食堂だと目立つので母屋でだ。メンツは俺、瀬奈さん京香さんに葉介さんだ。
極々少数の身内に絞った。
ちゃぶ台の上にタブレットを置き、それで通話する。
「そっちはどう?」
『今日は札幌東に行った! 楽しかったよ』
『隠れ家的なお店も教えてもらいました』
『明日イクゼー!』
床に直に座ってるけど笑顔だ。楽しそうで何より。
「で、智が何か落ちこんでるらしいと風の噂で聞いたんだけど?」
俺がそう切り出すと画面の向こうの智が「あー」という顔になる。
『実はさー。雪ウサギって魔物がいて、ラビットフットってやつをドロップするって聞いて【盗人】スキルを試したらこんなことになっちゃって』
智がリュックを持ち出して床に中身をぶちまけた。コロコロとふわふわな物が大量に転がってる。
『智、それじゃ伝わらないわよ』
『雪ウサギからカツアゲしたんダゼー』
「「「「カツアゲ!?」」」」
『ちょ、ちょっと雪ウサギを捕まえて、ちょっと【盗人】スキルを使いすぎただけだってば!』
智がそっぽを向きながら言い訳を述べた。だが俺は騙されないぞ。
「【捕まえて】? 【使いすぎた】?」
俺の聞き間違いであってほしい。
『雪ウサギって、ホーンラビットと一緒で突進してくるだけだからタイミング合わせたら捕まえちゃって、でドロップしないかなーってえいえいえいえ!って念じてたらラビットフットがボトボトボトボトって落ちてきちゃったのよ!』
逆切れの智。俺は別に怒ってはいないけど、危ないなって。
「智。そのラビットフットと思われるドロップ品は鑑定しましたか? あと一緒にいたと思われる札幌東の生徒に口止めはしましたか?」
京香さんが速攻で確認をする。ってことはかなりやばいんだろう。
『札幌の生徒6人と一緒だったんだけど、6人にラビットフットを押し付けて黙っててって念押しした! ギルドに知られると騒ぎになりそうだから鑑定はしてない!』
「賢明ですね。守君を見ていればわかることではありますが」
『そう、それ!』
ひどい! 俺が反面教師になってる!
「鑑定については寺に戻った時にしましょう。間違いなくラビットフットとは思いますが。それよりも、【盗人】スキルにそのような効果があるとは知りませんでした。寺に戻ったら調査したいのですが?」
『うん。調べて役に立つなら使いこなしたい! もしかしたらポーションとか無限にゲットできちゃうかもしれないし!』
「その分智が危険にさらされるかもしれないので慎重に」
画面の向こうの智がうなづいた。
「それと、葉介さんから美奈子ちゃんの件で話がある」
「えっと、昨日の親権についてだけど」
葉介さんが話し始めると美奈子ちゃんの顔がこわばる。いい話ではないと思ってるだろうし。
「養育費っていうのはあくまで未成年を養っている場合なんだ。法律が変わって今の成人は18歳からになってて、法律上では高校を卒業するともう成人扱いなんだ」
葉介さんの話を聞いている智と葉子ちゃんもびっくりした顔になった。卒業したら成人なんだって言われたからね。
「で、多くが進学するからか、大学や専門学校へ行く人には養育費が発生する。でも高校卒業後に働く場合は養育費は発生しない。慰謝料の話だけになる。もちろん、名字の関係でどっちの親の名字にするかは決めなきゃいけないけど」
『えっと、それって』
「美奈子ちゃんの場合は卒業と同時にハンターになるわけだから、養育費の問題はなくなる。あとは慰謝料だから、両親間での問題になるんだ」
『そうなんですね。でもどっちかかー。四街道の名字で生きてきたけど、未練はないというか四街道の名字だと琢磨の娘ってのが付きまとうのよねー』
美奈子ちゃんが難しい顔をしている。よほど嫌なのか。
世間は知らないけど、智たちも俺たちもそんな目では見ないからね。
「たらればの話なんだけどね。ウルトラCの解決策があって、美奈子ちゃんが坂場家に養子で入ることも可能なんだ。普通養子縁組って制度があってね。養子に行っても実子関係が存続する養子縁組があってね。しかも養子が成立する要件には養子本人と養親本人の合意が必要だけど育ての親の認可は不要なんだ。だから、どうしてもいやだって場合は、名字を変えちゃうことも可能だよ。だから、あまり不安になることはなくていいからね」
葉介さんが諭すようにゆっくり説明する。美奈子ちゃんは時折うなづきながら静かに聞いていた。
事前に葉介さんに聞いていたけど、こんな抜け道もあるんだ。
『養子……ということは年齢的にもわたしはおにーさんの妹になるのかな。そして瀬奈先輩の妹にも! あ、ってことは智の妹にもなるのね』
『ファッ?』
『だってそうじゃない。おにーさんと智は結婚するんだから。義理の家族関係に年齢は関係ないわよ?』
『マジで?』
『ズルイ! アーシも妹にナルゾ!』
『仮の話だから』
画面の向こうで3人がわちゃわちゃし始めた。これはとても良いものだ。目の保養にしかならん。額縁はどこだ。
札幌二日目。昨日は札幌東を訪ねて接待してもらった佐倉一行はご機嫌だ。おいしいお店も教えてもらえ、明日の観光の期待が高まるというもの。
朝の混雑を避け、9時ころにギルドの待合場についた3人は、今日こそはじっくり調べるぞと気合を入れる。
そんな空気をぶち壊す不埒物がいた。
「おっと、また会いましたね」
3人に声をかけてきたのは、昨日の味噌塩しょうゆのラーメン兄弟だった。佐倉の中ではラーメンとしか記憶されていない。
「昨日は早々にダンジョンを出たようで」
慇懃に言葉を吐き出す味噌。背後の塩としょうゆはクスクスと笑いを堪えることもしない。
よし処すか。
と佐倉が考えるのもやむなしである。
「ちょっとトラブってね」
トラブったのは事実だ。因果応報ともいえるが。
「だから言ったでしょうに」
味噌が薄く笑った。ムカつき仕草ナンバーワンだ。
雪原に埋めてやろうか、と口にしかけた佐倉だが何とか飲み込んだ。
「俺のスキルは【カリスマ】っていうユニークスキルで、仲間の能力を大幅に引き上げられるんですよ。一緒にいればトラブルにならなかったと思いますよ」
としたり顔の味噌。トラブルはお前がいてもいなくても関係なく起きてたよ!
ただ。
「支援スキルならあたしも持ってるし、困ってないから」
「レベルもわたしたちのほうがずっと高いしね」
「ダナー」
そうなのだ。
「そう意地を張らずに黙って俺たちの言うことを聞いてれば――」
「しつこい」
「なっ!」
「黙れ」
怒れる佐倉が圧をぶち込んだ。合金製金剛杖を床にゴドンと打ち付けると待合場の室温が50度ほど下がった気配がする。佐倉の背中から漆黒の炎が立ち上がっている、ように見えた。三鈷剣を持ったお不動様がいるのだ、きっと。
「お、俺がだれかわかって……」
「北海道の会社のボンボンでしょ? わたし、シヅマ副社長の四街道琢磨の娘なのよ」
「シ、シヅマ!? シヅマってあのシヅマ!?」
小鹿のように足をガクブルさせてる味噌が口をはさんだが、今度は四街道がぶった切った。待合場にいたハンターらも「は?」と驚きを隠せていない。聞き耳立ててるんじゃない。
「おかげでよく知ってるんだけど、親の権威を笠に着る奴に碌なやつはいないのよ」
返す刀で八つ裂きにしておまけとして火あぶりを追加した。味噌は爆散寸前だ。
「わたしはわたしで強くなるの。親なんて関係ないのよ。さ、行きましょ」
「よっしゃ行くゼー」
「行きましょ」
3人は近寄れないオーラをまといながらダンジョンへの階段を下りて行った。




