43.札幌ダンジョンと四街道の課題①
時系列は少し戻る。
卒業課題で北海道へフェリーで向かった佐倉、四街道、柏の3人だが。
「さむいー」
「覚悟はしてたけど、寒いわね」
「鼻水が凍ルー」
昼過ぎに苫小牧でフェリーを降りた3人はさっそく冬の北海道の洗礼を受けていた。今日は北海道全域で大雪だ。傘を持ってこなかった3人は吹き付ける風雪で雪だるまになりつつあった。
「さっさと札幌に行きましょ」
札幌へは特急で向かうことにした。荷物が多く武器もあるのでグリーン車を選んだ。旅費には苦労していない3人である。
武器はそれぞれ箱に入れて持ち歩く。美奈子は刀を、佐倉は守から借りた合金製金剛杖を、柏はクロスボウを入れた鉄の箱を座席にもっていく。
札幌まで1時間半ほど。15時過ぎに札幌駅に着く。大雪で空も地面も真っ白だ。
「やっと札幌についたー」
「座りすぎでお尻が痛いわ」
「アーシはよく寝たゾ」
3人はうーんと腕を伸ばして体をほぐす。佐倉は守に「札幌到着」とメールを打つ。すぐに「おつかれさん」と返事が来る。よし愛されてるな、とほっとする佐倉だ。
「地下道で行くといいみたい」
「濡れないでスムー」
周辺地図を見ていた四街道が戻ってきた。こんな時の柏はおとなしくしている。
札幌ダンジョンは大通公園にあり、もちろんギルドもそこにある。そこまでは地下道でつながっているのだ。
「まずは荷物を置きたいね」
「手ぶらになりテーゾ」
ということでまずは宿に行って荷物を置くことに。地下道にはダンジョンへの道しるべがあり迷うこともない。宿もギルドと一緒なのですぐに分かった。
古めかしい建物で壁も汚れが目立つ。宿の受付は4階とあったのでエレベーターで向かうが、エレベーターもガクガクとスムーズさに欠ける。
「エレベーターが落ちそうダナ」
「もともとは市役所だったみたいね」
「ダンジョンができて危険だからって駅の反対に移転したんだって」
受付は、役所のカウンターそのままだった。カウンター向こうには従業員がいるがみな忙しそうで、お客様をお出迎え、という雰囲気はない。
チェックインの時間だからか、武器を持ったハンターらしき人がいて、ちらちら視線を感じる。
「あのー、今日から3泊で予約をした桜前線です」
今回予約をしたのが四街道なので彼女が声をかけるとたまたまそこにいた女性が「あ!」と声を上げる。
「もしかして、四街道ちゃん!?」
「はいそうです。チェックインをお願いしたいんですが……」
「きゃーかわいいわー!」
と騒ぎ始めた。女性が声を上げたからかほかの従業員の注目を集めてしまう。
「あの子たちが」
「ほんとに来たぞ」
周囲からこんな声とスマホのシャッター音が聞こえる。「おっぱいスゲー」とか「生柏ちゃんだ」とか雑音がすごい。
いいから早くしてよ。おっぱいなんてどうでもいいでしょ。重くて邪魔なのよこれ。
四街道のたわわな胸にダークな感情がこもり始めた。
「ギルドに行きたいゾ。早くヨロ」
「うちのギルド長から差し入れがあるのでギルドに行きたいんですよー」
柏がカウンターにペシっと手を載せ、佐倉がしれっと圧をかける。殺気立ってきた四街道を察知してフォローに走ったのだ。
「そそそうね、チェックインが先よね」
わかってもらえたらしい。
すんなり手続きをして部屋の鍵をもらい、エレベーターで8階へ。5、6階が男性7、8階が女性のようだ。
「大人なんだから仕事を優先しなさいよ」
「ほんと、面倒だね」
「メンドー」
エレベータ内は3人だけなので愚痴が止まらない。
「うん、狭いね」
「安かったし、相応じゃない?」
「セマー」
部屋は8畳でバストイレなしだ。調べたら、元が市役所なので水回りに制限が多すぎて部屋に設置できなかった、とあった。古いのはともかくバストイレ別はいただけない。
こんなことならギルドの宿はやめておけばよかった次は遠くにしよう、と3人の意見が合致した。これも勉強だ。
「ま、次は考えましょ」
四街道がそういえば、ふたりも「そうねー」「ソダナ」と同意だ。
気を取り直してギルドに行くのだが武器とメモ帳代わりのタブレットを持って行けばいい。武器は絡まれたときようだ。佐倉だけデイバッグをしょっていく。
エレベーターで1階へ向かい、案内図に従って待合場に行く。役所のロビーを増築してダンジョンの階段まで空間をつなげたので、かなりの大空間だ。
「なにあれ、うちみたいだね」
佐倉がつぶやく。
ダンジョンの階段はガラス張りの部屋で囲われており、ゲートはその外にある。佐倉から見れば、墓地ダンジョンの入り口そっくりだ。
「何か理由があるんでしょ。さっさとカウンターに行きましょ」
「イクゼー」
四街道と柏に誘導され、佐倉はカウンターに向かう。
「こんにちはー。千葉の獄楽寺ギルドから来ましたー」
ギルド職員はいるが作業で忙しそうなので誰に向かうでもなく挨拶する。
「あれ、もしかして桜前線の3人かな?」
気が付いて応対したのがアラサーくらいのお姉さんだ。
「はい。うちのギルド長から差し入れです」
「あらご丁寧にありがとう」
お姉さんはにっこり笑顔で返してくれた。
佐倉がデイバッグから差し入れを取り出す。ポーション30本を小分けにしたビニール袋ときれいな包帯50個が入ったビニール袋だ。
京香の差し金で「3人をよろしく」と賄賂である。
「こ、これもしかして、ポーション!? 布はきれいな包帯だったり!?」
佐倉は答えず笑顔になるだけ。騒がれたくない。
「きゃーこんな貴重なもの、ありがとうございます!」
お姉さんは察したのか、小声で喜びお礼を言って上司らしい中年男性のもとに小走りで向かった。彼ともどもカウンターに戻ってくる。
「受付課の富良野と申します。差し入れ、ありがたく頂戴しましたと、坂場ギルド長へお伝えください」
富良野はぺこぺこと何度も頭を下げた。宿の受付よりも好印象だ。課題に書いておこう。
「なんだなんだ、騒がしいな!」
奥のほうから偉そうなデブがしゃしゃり出てきた。つかつかカウンターに歩いてきて差し入れの袋を見た。不機嫌そうに眉をひそめ。
「たったこれだけか。持ってくるなら100個くらい持ってこい。わかっていないのは困るな」
と言い捨てた。
北海道は上野商会の支店を設ける話にはなっているがまだ開設されていないはずだ。だからポーションは貴重なはずである。それなのにたったとは。
佐倉はもちろん四街道も柏も呆れた。
乱暴に差し入れの袋をつかみ、そのままどこかに消えてしまった。上司が慌てて追いかけていく。
まさか転売なんてしないよね?
佐倉の頭に浮かんだのはそれである。
「なにあいつ。日比谷のデブと一緒じゃない」
「わたしの胸を見てニヤついてた」
「ギルドにいるデブは悪い奴だってパイセンが言ってタゾ」
思わず言葉が出てしまう。
「うちの馬鹿がごめんね」
受付のお姉さんがすまなそうに手を合わせた。
「あいつは札幌の資産家の親類でね、コネで副ギルド長になっているけど仕事しないやつでね。ギルド長も強く言えないのよ……」
「どこもこうなのかなぁ」
「お姉さんは悪くないですよ」
「悪いのはデブ」
ギルドのデブにはいい印象がない。
お姉さんにダンジョンの資料はあるかと聞くと、待合場の端っこを指さされる。粗末な本棚があり丸テーブルといくつかの椅子がある。薄暗くてキレイではないので使うハンターもいないのだろう
「ちょっと使わせてもらいますね」
3人はウエットティッシュでテーブルを拭き、本棚にあるファイルを取って広げた。
目次を見れば、ダンジョンの構成、出現する魔物とその傾向、ドロップ品の種類と該当する魔物などがある
「ランク2のダンジョンで最下層が20階だって」
「ダンジョンボスもわかってるのね」
「倒さねーのは無くなったら困るカラカ?」
「4年前にダンジョンボスに挑戦したけど倒せなくって撤退したみたい」
「ダンジョンボスは雪男!?」
「ブレスで燃えるカナ?」
3人は持ってきたタブレットにメモを入力していく。ついでにギルドのデブの横柄な態度と受付のお姉さんの大変さもメモしたのだった。




