地味で役立たずのブス、だそうですね
王都の片隅にある、魔物を討伐したお祝いで賑わう高級酒場。
大声と酒の匂いが立ち込めるその一角で、私は冷たい石造りの床に膝をついていた。
「――おいルシア。今日限りで俺たちのパーティーから出て行け。」
目の前でそう吐き捨てたのは、私の幼馴染でありパーティーのリーダーを務める勇者レオンだ。
彼は手に持った高級な酒のグラスを揺らし、まるで足元に転がる虫けらでも見るような冷たい目で私を見下ろしている。
「え……レオン様? 私が……追放、ですか……?」
私は震える声で問い返した。
今の私の体は、過酷な遠征のせいで血と泥にまみれていた。ボロボロの革鎧はあちこちが裂け、頭から深くかぶったフードの下では、長年伸ばし続けた重い前髪が顔の上半分をすっぽりと覆い隠している。
周りの冒険者たちから、私が「地味で、暗くて、顔もよく見えないお荷物ヒーラー」だと嘲笑されているのは知っていた。
「そうだ。お前は俺たちの『閃光の剣』の看板に泥を塗っているんだよ。愛想もないし、何より顔がブスで目障りなんだよ。」
レオンの言葉に同調するように、彼の腕にしがみついていた派手な魔法使いのマリアが、クスクスと嫌な笑声を上げた。
「そうよルシア。あなたいつも暗くてジメジメして見苦しいのよ。私みたいな華のある聖女こそが、レオン様の隣にふさわしいわ。」
マリアはそう言って、レオンの胸元にぴたりと体を預けた。
二人の言う通り、私は自分の顔に自信があったわけではない。
正確に言えば、幼い頃におばあちゃんから厳しく言い聞かされて育ったのだ。
『お前の顔立ちは目立ちすぎる。決して人に見せてはいけないよ。』と。
だからこそ私は、わざと長い前髪で目を隠し、サイズの合わない地味な防具を身につけ陰からみんなの傷を治し、守りの魔法をかけ続けてきた。
5年間、一度も文句を言わずに命がけでこのパーティーを支えてきたつもりだった。
「ですがレオン様……。私の回復魔法と、裏で支えている守りの魔法がなければ、次の最深部ダンジョンは危険です……。」
必死の思いでそう伝えた私にレオンは鼻で笑ってワインを頭からかけてきた。
バシャリ、と冷たく生ぬるい液体が私の頭から滴り落ちる。
「はっ! ふざけるなよ! お前のショボい魔法なんて、街のお店で買える回復薬以下だろ! 守りの魔法だって、効いているのかすら分からないぜ!」
レオンは腰のポーチから硬貨を数枚取り出すと、私の足元に投げつけた。
「ほら、これまでの給料だ。ありがたく思えよ。……さっさとこの場所から消え失せろ。お前の顔を見ているだけで嫌気が差す。」
周りにいた他の冒険者たちも、レオンたちに合わせてゲラゲラと下品な笑い声をあげる。
(……そうですか。)
私の胸の奥で何かが静かに音を立てて切れた。
怒りではなく、呆れたような、不思議と胸がスッキリするような気持ちだった。
私は投げつけられたお金を拾うこともせず、静かに頭を下げた。
「わかりました。5年間……本当にお世話になりました。それでは私は、これで失礼いたします。」
「おう、二度と俺たちの前に顔を見せるなよ。」
背中から嫌がらせの声を浴びながら、私は一度も振り返らず酒場の重い扉を押して夜の街へと踏み出した。




