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ひと探し。だが、探し人は、……。 【 警察の対応に、怒り心頭になる話 】

 五十嵐正克いがらしまさみは、探偵である。事務所は、構えていない。

 平田三郎は。五十嵐の助手兼マネージャーである。五十嵐と依頼人との間に入り、その折衝を受け持っている。

「倅が、怪しげな仕事に誘われたみたいで、……」と、依頼人。

「昨今、世間を騒がしている、例のアレですか?」

「どうも、そんな風な様子で、……」

「どういう経緯なんでしょう?」

「『いい仕事が見つかった。俺のことは忘れて欲しい』という連絡を、妻の携帯にしたきり、もうひと月以上、音信がありません」

「ふむ」

「……」

「息子さんと、連絡は取れませんか?」

「はい。こちらからの連絡には、まったく応答しません」

「トラブルの心当たりでも?」

「いえ、そうではないんですが」

「が?」

「倅に、いい仕事の口が、回ってくる筈など、ないんです。何をやっても中途半端で、スポーツにせよ、勉学にせよ、何かをやり遂げたということがない奴でして、……」

「ふむふむ。……」

「内向的な性格ですし、友達も皆無だと思います」

「ふ~む。……」

「息子さんを探すにも、何か手掛かりがないと、ですね」

「はぁ。……」

 事件が起きたのは、五十嵐が捜索活動を始めた矢先のことだった。


 かつて、都内に入るのに、電車で二時間くらいかかる地方都市に、その依頼人家族は住んでいた。子供が三人いる三世代同居の家で、家族経営の町中華を営んでいた。娘二人に、息子一人。高校生のその息子。仮にタツオ君としておくか。

 彼は、やや気弱なタイプで、同級の不良グループの使い走りをさせられていた。不良グループは、さらにその上をいくワルから目をつけられていて、度々金銭を要求されていた。ある時、その金銭の要求に窮して、タツオ君を人質として預け、カネの工面をしてくるという方策に出た。彼らは、真面目にカネの工面をする気がなく、丁度そういう頃合いだったのだろう、揃って都内にフケてしまうことにした。中に、少しばかり悪知恵の働く奴がいて、タツオ君の店に電話をし、「タツオ君は、不良に囚われていて、カネを払わないと解放してもらえません」という趣旨の話をした。一方、ワル連中には、「カネは、タツオの親が払います」とだけ告げて、仲間全員で行方を晦ました。

 驚いた両親は、タツオ君の携帯に電話をしたが、呼び出しには応答がなかった。翌日の夜、電話をした母親の携帯に、痛めつけられた様子が分かる、タツオ君の画像が送られてきた。

 思い余った両親は、すぐに警察署に駆け込んで、相談窓口の担当者に息子の保護を願い出た。

 担当者は、当番らしい刑事に両親を引き継いだ。母親が顛末を話し始め、自分の携帯の画像を見せようとすると、その刑事らしき男は、ひったくるようにその携帯を手に取り、いくつかの画像を見たり、通信履歴を見るような操作をしていた。丁度その時、その携帯に着信があった。刑事は、母親に携帯を渡し、電話に出るように言った。母親が出ると、声はタカシ君だった。

「タカシ、大丈夫?」という母親の声を聞くなり、刑事は携帯をひったくり、

「モシモシ、警察だ」と、大きな声で言った。

 通話は、そこで切れた。身元不明の遺体として、タカシ君が河川敷にある野球場の近くで発見されたのは、数日後のことだった。

 真剣に、当時のタツオ君の置かれている状況を考えれば、その刑事の対応は、極めて不適当なものだったといえる。何よりもまず、相談に来た者の話をよく聞いて、相談内容を的確に把握すべきなのは、普通に考えて当然のことだ。「その間もなく、突然着信があった」と言うかもしれない。そうだとしても、そういう事件の専門職ともいうべき、警察官の対応としては、お粗末としかいえないものだった。

 その刑事の「警察だ」の一声で、俺は思った。その無能な刑事は、権力を持つ己の立場を、誇示することに満足を覚えていたのだろう。彼は、警察署内の、例えば捜査会議などなら、慎重な意見を述べるのかもしれない。だが、相手が一般市民となると、相談者の側に立って、一緒に解決策を考えてやるような親身な対応などは、頭の中にない人間なのだ。

 相談ごとで、警察の窓口を訪れたことがあるか?

 彼ら警察の人間は、一見、親身に話を聞く態度は見せる。だが、「こうすれば、どうです?」程度の助言を与えるくらいで、とても親身な対応とは呼べないものだ。「俺らの仕事はな、あんたらを取り締まることなんだよ。つまらんことで、お上の手を煩わすんじゃない」と言ってるように、俺は邪推している。

 俺は一、二度、警察に相談したことがあるが、二度と相談になど行くものか、と思っている。俺は、警察が嫌いだ。まあ、それは置いておく。

 タカシ君の家族には、その後いくつかの不運が重なって、老齢だった祖父母は相次いで亡くなり、店は他人手に渡り、娘二人は家を出たらしい。両親を呼び寄せるほどの生活は、できていないらしく、とても、幸せな暮らしを送っているとはいえない状態らしい。

 タカシ君の両親は、すっかり気力を失い、しばらくは車中生活をしていたようだが、貧困ビジネスに誘い込まれそうになっているところを、偶々俺と出会って、ああいうアパートの住人になった。

 要約すれば、白石川の話は、以上のようなものだった。

 タカシ君の両親と出会ったくだりは、やや不明瞭だが、かいつまんで凡そ本当のことを話しているように、燻銀六郎いぶしぎんろくろうは感じた。

「そのご両親は、今は、どうしてるんですか?」

「後で、二人が住んでいるアパートに案内する」と、白石川。

 五十嵐は、白石川の配下の一人であった。

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