第8話 簒奪される王城と、絶対的支配者の降臨
王都の夜空を、禍々しい紫色の光が切り裂いた。
王城の地下深くに隠された『人工ダンジョンコア』の暴走。
それは、自らの悪事が全世界に暴露された国王が、証拠隠滅のために百万人以上の領民を道連れにしようとする、狂気の自爆スイッチだった。
地鳴りが王都を揺るがし、絶望に満ちた悲鳴が街に響き渡る。
だが、死の光が人々を飲み込もうとしたその瞬間ーー紫色の奔流は、突如として足元から湧き上がった『黄金の光』によって完全に相殺された。
「な、なんだこれは……!?」
街頭の魔道具スクリーンを見上げていた市民たちが、驚愕の声を上げる。
黄金の光は王都の石畳を伝い、建物を包み込み、傷ついた人々の体を優しく癒していく。
それは、迷宮の最深部からレオンが放った、ダンジョンの『領域拡張』だった。
本来、人を襲うはずの迷宮の力が、絶対的な防壁となって王都の民を守り抜いたのだ。
『すげえ……王都全体が、黄金の結界に包まれてる!』
『紫の光が消えていくぞ! レオンが止めてくれたのか!?』
『ダンジョンが、俺たちを助けてくれた……っ!』
配信のコメント欄は、安堵とレオンへの称賛で爆発的に加速する。
一方、その光景を玉座で見ていた国王は、信じられないものを見るように目をひん剥いていた。
「ば、馬鹿な! なぜ王都が吹き飛ばない! 私の人工コアは、数え切れないほどの冒険者を犠牲にして作り上げた究極の兵器だぞ!」
肥え太った体を震わせ、手元の制御盤を乱暴に叩く国王。
しかし、制御盤の水晶はすでに光を失い、冷たい石くれへと変わっていた。
「無駄だよ、クソ王様」
突如、王城の玉座の間に、静かで冷酷な声が響き渡った。
国王が弾かれたように顔を上げると、豪華絢爛だった王城の壁や柱が、音を立てて迷宮の『石ブロック』へと変質していくではないか。
「な、何が起きている!? 近衛騎士団はどうした! 誰か、この逆賊を斬り捨てろ!」
叫ぶ国王の前に、空間が歪み、巨大なモニターが展開される。
そこに映っていたのは、迷宮の最深部で足を組み、冷たく見下ろしてくるレオンの姿だった。
「お前が頼りにしていた近衛騎士団なら、とっくに俺の軍門に降ったよ。団長のギルバートは、お前の狂った本性を知って絶望していたぜ」
「ええい、あの生真面目だけが取り柄の無能どもめ! ……だが、私にはまだ人工コアがある! この城の地下には、無限の魔力が……!」
「だから、それが大きな勘違いだって言ってるんだよ」
レオンが指を鳴らすと、モニターの横に、銀髪のメイド服姿のアリアが静かに進み出た。
彼女は氷のように冷たい紅い瞳で、国王をゴミでも見るかのように見つめる。
「……理解力が乏しいようですので、特別に教えて差し上げます。マスターの【超鑑定】は、ただ物の価値を見るだけのスキルではありません。物質の構成、魔力の流れ、ひいてはこの世界の『システムそのもの』を読み解き、書き換える神の権限なのです」
アリアの言葉に、配信を見ていた世界中の視聴者が息を呑んだ。
第一話で、なぜダンジョンコアがレオンを選んだのか。
なぜ適合率が99パーセントだったのか。
それは、レオンの持つ【超鑑定】こそが、迷宮の複雑なシステムを完璧に理解し、自在に操るための『マスターキー』だったからだ。
「お前が何年もかけて作った人工コアのシステムなんて、俺から見ればバグだらけの欠陥プログラムだ。俺の【超鑑定】で構造を読み取って、マスター権限で上書きしてやったのさ」
レオンが手のひらを上に向けると、そこに王城の地下にあるはずの『人工コア』が、小さな水晶となって浮かび上がった。
「なっ……私の、私のコアが!! 返せ、それは私が神になるための力だぞ!!」
「神? 他人の命を吸い上げてふんぞり返ってるだけの豚が、よく言うぜ」
レオンは握り拳を作り、その水晶をあっさりと粉々に砕き散らした。
パァンッ! という甲高い音と共に、国王の野望は物理的に消滅した。
「あ、あああ……っ」
すべての力を失い、王冠を落として床にへたり込む国王。
今まで彼が国民に向けていた絶対的な権力が、たった一人の鑑定士によって完全にへし折られた瞬間だった。
『うおおおおおっ! レオン最強!!』
『あんなクソ王、ただの豚じゃねえか!』
『私たちの命をなんだと思ってたんだ! 許すなレオン!』
国民の怒りと熱狂は、最高潮に達している。
「さて、国王陛下。お前は俺から大切なものを奪おうとし、ギルバートたちを騙し、何よりこの国の民を犠牲にしようとした」
レオンはゆっくりと玉座から立ち上がり、モニター越しに国王へ手を伸ばした。
「お前が冒険者たちを『養分』にしてきたように、今度はお前自身が、俺のダンジョンの養分になる番だ」
レオンの宣告と共に、王城の床が液状化し、国王の体をゆっくりと飲み込み始める。
「ひ、ひぎぃぃっ! 助けてくれ! 金ならある、地位もくれてやる! だから私を……っ!」
「お前の地位にも金にも、もう何の価値もない。一生そこで、スライムの餌としてダンジョンポイントを稼ぎ続けろ」
無慈悲な宣告と共に、国王の姿は完全に迷宮の床へと消えた。
王都を支配していた巨大な悪は、こうして誰一人の血を流すこともなく(悪党たちを除いて)、たった一日の配信によって完全に討ち果たされたのだ。
モニターの向こうで、アリアがレオンに向かって深々と一礼する。
「見事な采配でした、マスター。……貴方のような気高き魂の持ち主に仕えることができ、私は心から誇りに思います」
普段は感情を見せないアリアが、微かに頬を染め、慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
その破壊力抜群の笑顔に、コメント欄は『アリア様最高!』『俺もダンジョンに養ってほしい』と、先ほどまでの怒りが嘘のようにお祭り騒ぎに変わっていた。
「ああ、頼りにしてるよ、アリア。……さて、世界中のみんな」
レオンはカメラに向かって、不敵な笑みを浮かべた。
「邪魔者はいなくなった。ここからが、俺たちの本当の『ダンジョン運営』の始まりだ。期待しててくれよ」
底辺の裏方から、世界を統べる迷宮の支配者へ。
彼の快進撃は、まだ始まったばかりである。




