第30話 最後の鍵と、王都の決戦
「……なるほど。地底の神様気取りの連中が、俺たちの世界を『第一階層』と呼んで管理下に置こうとしているわけだ」
地下200階層からの緊急帰還後、王城の作戦会議室。
俺は没収したエドモンド伯爵の懐中時計と、バルトロ侯爵家の魔導具データを机に並べ、冷徹に言い放った。
「マスター、クレイモア子爵の持つ『儀礼用の長剣』ですが……先ほどの地鳴りと同時に、子爵が怯えて王城へ自ら持参してきました。すでにアリアの手で回収・解析済みです」
アリアが完璧な礼と共に、黄金に輝く古びた長剣を机に置く。
これで、初代国王と天才魔導技師クローヴィスが貴族たちに分散して隠させた、3つの『封印の断片』がすべて俺の手元に揃った。
【超鑑定】を走らせると、3つの鍵が完全に共鳴し、地下200階層の扉のロックを解除するための『完全な暗号コード』が脳内へと流れ込んでくる。
だが、それと同時に、地底からの侵食の速度はさらに増していた。王都の至る所にあるゲートから、かつてないほど高密度なエネルギーを纏った『古代の人形兵器』が這い出し始めていたのだ。
「地上の防衛線は、私とギルバートで死守しているわ! だけどレオン、敵の数が多すぎる! 倒しても倒しても、ゲートの奥から無限に湧いてくるのよ!」
通信魔導具から、セレスの切迫した声が響く。背景からは、ギルバートの大盾が敵の攻撃を弾く凄まじい金属音が聞こえていた。
敵の狙いは、俺たちが持つ鍵を奪い返し、この王都の地脈の管理権を完全に『第二階層』へと引きずり落とすことだ。
もしも管理権を奪われれば、王都の百万の市民は、本当の意味で地底の支配者たちの『家畜』へと書き換えられてしまう。
『嘘だろ、地上の防衛戦が突破されそうなのか!?』
『最後の鍵が揃った瞬間にこれとか、本当に詰みかけてるじゃねえか!』
『レオン、頼むからみんなを救ってくれ!』
配信のコメント欄も、かつてない世界の崩壊の危機に、絶望と祈りの声で埋め尽くされている。
「レオン様……私を、もう一度あの扉の前へ連れて行ってください」
その時、ノエルが真っ直ぐな瞳で俺を見つめた。
彼女の純白の聖衣が、微かに神聖な魔力の光を放ち始めている。
「ノエル?」
「私の中に眠る『聖女の祈り』の本当の役割が、3つの鍵が揃ったことでようやく分かりました。……私は三百年間、あの扉を『内側から閉じるための楔』として生かされていたんです。私がもう一度あの扉の前に立ち、命を捧げて祈れば、地底からの侵食は完全に遮断されます」
「ダメです、ノエル様! そんなことをすれば、あなたは今度こそ本当の虚無に消えてしまう!」
リーシャがノエルの肩を掴み、激しく首を振る。ノエルの顔には、自分の犠牲で王都の百万の民とレオンたちを救えるなら本望だという、悲しい決意が浮かんでいた。
だが。
「おい、ノエル。お前、まだ俺のルールを理解してないみたいだな」
俺はふう、と深く溜息を吐き、ノエルの頭を強引に、しかし優しくくしゃくしゃに撫で回した。
「レ、レオン様……?」
「俺の国じゃ、誰かの犠牲で成り立つような不細工なシステムは採用しないって、最初のパンケーキの時に言ったはずだ。お前はもう、ただのノエルなんだよ。世界の楔だか何だか知らないが、そんなクソみたいな役割は、俺の【超鑑定】で今すぐ全否定してやる」
俺は机の上の3つの鍵ーー懐中時計、魔導具、そして儀礼用の長剣を、まとめて右手で掴み上げた。
「アリア、リーシャ、ノエル。これより地下200階層、いや……あの扉の『向こう側』へ殴り込みをかけるぞ」
俺の言葉に、アリアの目がゾクリと歓喜に細まり、リーシャもまた涙を拭って双剣を構えた。
「鍵が3つ揃ったんだ。だったら、向こうから開けられるのを待つ必要はねえ。こちらから鍵を差し込んで、正面突破でハッキングを仕掛ける」
俺の右目が、過去最高に眩い黄金の光を放ち、王都の全システムが俺の意志と完全に同調する。
「地底の引きこもりの管理者ども。俺のルールを、お前たちの脳内に直接インストールしてやるから、首を洗って待ってろ」
底辺鑑定士レオンと、彼を信じる最強の仲間たち。
王都の百万の命を背負った、世界の創造主に対する『絶対的な逆ハッキング』の決戦が、ついに幕を開ける。




