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不可侵領域  作者: 時宮のシロ


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空と花

 ──春。はるみの大学の入学式。

 明るい日差しが降り注ぐ会場前。

 はるみは、肩が柔らかいダークネイビーのスーツに身を包み、空を見上げる。


 不思議なほど明るく、突き抜けるような青空。


(……久しぶりに空を見た。)


 どこまでも遠くが見えそうな青に、心を奪われるはるみ。


 ──風の音が響く。

 ひと吹きした強い風に、周囲の木から桜の花びらが舞い上がり、降り落ちる。


 一瞬の光景が動く絵画のようで、はるみは胸がじんわりと熱くなる。

 周囲の学生たちも、嬉しそうにざわめく。

 はるみは、一本の桜の木の前で、ひとりで静かに立っている男に気づいた。


 足を肩幅に開き、下ろした両手で拳を握りしめている。


 はるみの視線に気づいた男が、はるみを見る。

 少し硬い印象の黒いスーツが、晴れやかに男を包んでいる。

 男の前髪が、風で優しく揺れる。

 不思議そうに見返す男の眼差しが真っ直ぐで、はるみは引き込まれる。


「……はるみ。」


 はるみの父親が呼ぶ。

 ビクリと肩を震わせるはるみ。


「私たちは、先に行く。」


 静かに言う父親に、隣で母親も頷く。


「また、後でね……。おめでとう、はるみ。」


 母親ははるみに小さく微笑みかけ、父親のエスコートを受けて会場に向かっていく。


 一人になったはるみは、男に歩み寄る。


「一緒に会場に……行く?」


 男は、嬉しそうに頷いた。


 「うん。」


 はるみは、その表情から目を離せない。

 男は、戸惑うように微笑む。

 一瞬だけ、目がキラリと光った。


「──うん!」


 男はもう一度、はっきりと頷いた。

 男はまさると名乗った。


 まさるとはるみは連れ立って会場に進んでいく。


 会場の影で、はるみの母親が夫の腕に隠れるように、潤んだ目で息子を見守っている。

 父親は労わるように妻に寄り添い、短く言葉をかけた。

本作は『仁王立ちヒーロー』(まさる視点)と対になる作品です

『仁王立ちヒーロー』はこちら

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