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恨むしかなかった

 吸血鬼の次は魔法使いか、俺が思ってるよりもファンタジーは身近に潜んでいたようだ。


 「悪いけど、魔法使いの正体は知らない。


 でも、俺の知ってる事は全部話す、だから助けてくれ」


 その言葉を聞いて俺は男から離れて、男が座っていたソファーに腰をおろした。


 ウサギの被り物をした男が、ゲロにまみれた男をソファーから見下ろす、シュールな光景だな。


 戦いが終わったら、臭いが気になったので洗浄魔法を使って、ゲームセンターの一角を綺麗にした。


 「貴方も魔法使いだったんですか?」


 急に綺麗になった部屋に驚いた男が、態度を変えて聞いてきた。


 「『質問をしてるのは俺だ、俺が魔法使いかどうかはお前が勝手に判断すればいい』」


 因みに今回も会話はスケさん任せだ、俺だとボロが出そうだし、何よりこの件に興味があるのはスケさんだから。


 スケさんは敢えて、魔法使いと思われた事を否定せず、自分の話を進めた。


 男が魔法使いを信じて、崇拝してる様な印象から、その方が話を聞きやすいと思ったんだろう。


 男は権田(ゴンダ) (タケシ)、某有名アニメのジャイ○ンに似た名前で、高校を中退して仲間と一緒に窃盗、恐喝と犯罪に手を染めていた。


 そんな事をしていたら、当然もっと悪い人達に目をつけらる、地元の暴力団に仲間と一緒に拉致されて、リンチにあってる時に、ローブを纏った魔法使いが現れたらしい。


 突然現れたローブ姿の正体不明の存在に、暴力団員達は迷わずに発泡、銃弾はローブを貫通し着弾した。


 絶対に死んだと思ったが、目深に被ったフードで顔もよく見えない口元が、赤い三日月のような笑みを浮かべると、魔法使いはあっという間に暴力団員達を返り討ちにした。


 魔法使いが暴力団員の死体を跡形もなく消して、去って行こうとした時、魔法使いに助けられた形になった権田が魔法使いに声をかけた。


 呼び止められた魔法使いは、権田達を一瞥して去ろうとしたが、権田が助けられた礼をしたいと言ったら振り返り、権田に例の薬を渡してきた。


 薬を使ってその効果を試して欲しいと、サンプルは多ければ多い程いいと、権田達に言った。


 いくら助けられたとはいえ、自分達で薬を飲むのは躊躇ってしまう、しかし、助けてくれた礼を自分から言い出したのに断る事も出来ない。


 そこで自分達以外に薬を使い、効果を聞けばいいと考えた。


 権田達にとって嬉しい誤算は、その薬に中毒性があって合法ドラッグとして、麻薬と同じ様に金まで稼ぐ事が出来た事だった。


 売り上げの半分と薬の効果記録を魔法使いに渡たすと、また新しい薬を渡される。


 そんな感じで、定期的に魔法使いとやり取りをしていたら、いつの間にか権田達のグループは大きくなっていた。


 グループが大きくなって、末端の方は薬を法に引っ掛からない麻薬と思っていたり、逆に身体能力の向上するだけの薬と信じていたりだ。


 薬を売る条件は、薬の効果と使用した感想を伝える事になっていて、薬のやり取りついでのアンケートだと思ってる者が多い。


 魔法使いの実験で、この条件が重要だと理解しているのは、権田達上層の一部だけになってしまっていた。


 そんな中で、最近薬をかった一ノ瀬達が、ここ数日で効果や感想も無しに、薬を売って欲しいと言ってきた。


 もちろん、一ノ瀬達が接触していたのは、権田のグループの末端だが、末端も上に報告をあげないといけない。


 それで、一ノ瀬達が薬を横流ししているんじゃないかと疑いをかけられて、薬を売ると見せかけ、このゲームセンターに呼び出したと。


 『一ノ瀬少年達が、ここに来たの、完全にスケさんのせいだよね』


 『薬を売っている相手から徐々に辿っていくつもりでしけど、最初から大物が釣れるなんて結果オーライです』


 『酷いな』


 『助けたのでチャラですね』


 「『話はわかった、魔法使いの事は知らなくても、定期的に会うなら都合がいい。


 次に魔法使いと会うのは何時(いつ)だ?』」


 「毎月1日に、最初に会った倉庫で受け渡しをしています」


 毎月1日か、今月はもう過ぎてるから来月になるけど、スケさんは我慢出来るかな。


 「『来月の受け渡しは俺も同行する、権田、連絡先を教えろ。


 それと薬の取引は今日で終わりだ、今まで稼いだ金まで取らないから、薬は全部俺に渡してまともな仕事しろ』」


 「そんな事したら、俺達が魔法使いに殺されるかもしれない。


 それに薬売るのを辞めたらどうやって生きていけばいいんですか」


 「『薬を売るのを辞めたからって、魔法使いの奴がお前らをわざわざ殺しには来ないと思うけど、何かあれば俺が魔法使いを始末するから安心しろ。


 それと、魔法使いの薬のお陰とはいえ、組織作って、資料まとめたり、金のやり取りもして商売が出来たんだ、金さえあればまともな仕事も出来るだろ。


 もし、また薬を売るつもりなら、俺が本当にお前らを殺してやる』」


 そう言って、俺は空間収納からミノタウロスの斧を取り出して、壁に叩きつけた。


 ズゴンっと大きな音を立てて、刃渡り2え(メートル)近い大斧の刃が壁に半分埋まっているのを見て、権田は青ざめる。


 「『魔法使いに渡した資料を俺にも準備しろ、今までの分出来るだけ早くな』」


 「は‥っ、はい」


 俺は権田の所まで歩き、ガタガタと震える権田と連絡先を交換した。


 「なんて登録したらいいですか?」


 恐る恐る聞いてくる権田に。


 「『兎でいい』」


 スケさんのネーミングセンスに苦笑いしながら答えて、ゲームセンターを出る時に、俺が怪我させた権田達を回復魔法で治すと、権田は目を見開いて俺を見ていた。


 『一ノ瀬少年達から、話を聞かなくていいのか?』


 『もっといい資料が手に入るので、彼らは必要ないですね。


 これに懲りて、明日から少しは真面目になるんじゃないですか』


 本当に一ノ瀬少年達にはもう興味がないようだ、帰り際に一ノ瀬君達のゴーレムを回収して、権田達につけているのを見た。


 これで、権田達はスケさんから逃げられない、上が魔法使いからスケさんに変わっただけだ。


 スケさんが権田達を悪い様にしない事を祈っておこう。


 俺はウサギの被り物を脱いで、なんだか大変な夜になったと家路についた。


 ウサギの被り物はパンダとクマの被り物と一緒に、俺の空間収納に仕舞われた。


 ウサギは、権田や魔法使いに会う時に必要かもしれないから分かるけど、なんでパンダとクマまでだ。


 空間収納だから邪魔にはならないけど、スケさんが何故か気にいったらしい。


 佐藤が去ったゲームセンター、権田達は佐藤が突き刺したミノタウロスの斧を見ていた。


 「剛さん、何ですかこれ?」


 「ははっ、お前達は寝てたから分からないよな、これは兎さんがやったんだよ」


 「あのふざけたウサギ野郎ですか?」


 「兎さんだ馬鹿、たぶん魔法使いよりもあの人の方がヤバい、今日で薬の売人は終わりだ。


 今までの金を元手に、何か新しい事でも始めるぞ、じゃないと殺される」


 そう言って、権田はビクともしない斧の柄を握って宣言した。


 「ふわぁっくしょん」


 『何ですか、そのくしゃみは』


 「別にくしゃみくらいいいだろ、今日は16階層で適当に稼いで帰るぞ」


 『わかりました、そういえばマスターは洗浄スキルを取得したので、もう1つの魔眼は御預けですからね』


 「いや、それはないだろ」


 『スキル1つには変わりないです、諦めて下さい』


 俺は、空間収納の中にあるウサギの被り物を恨むしかなかった。

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