屋上から屋上に
俺は、空間収納の中にあるウサギの被り物を恨むしかなかった。
翌朝、コーヒーを飲みながらスマホのを確認すると、2件のメッセージが届いていた。
1件は娘からのいつもの通りのメッセージ、娘からの小言が俺を普通の世界に留めてくれてる気がしていやされる。
もう1件は権田からのメッセージ、魔法使いの薬と薬の効果資料、置いていった斧をどうするかを、確認する内容だった。
新しく仕事を始めるのに、ミノタウロスの斧を戒めと初心忘れない為に、出来れば譲って欲しいらしい。
別にミノタウロスの斧は何本もあるので、譲るのは問題ない。
それにしても、昨日の夜から今日の朝までに資料をまとめるとか、仕事が早いな。
権田とその仲間達は、悪事に手を染めなくても普通に優秀なんじゃないだろうか?
『なるべく早く資料をみたいので、今日の夜に取りに行くと返事をして下さい。
その時に薬も全部集めておいて欲しいですね、斧はマスターの好きにして下さい』
メッセージの確認をしたスケさんが、返信の内容を決めていく、こっちも仕事が早い。
俺は大体スケさんに言われた通りの内容と、斧は欲しければ譲る事を書いて送信した。
時間は夜8時で、場所は昨日のゲームセンターに決まった。
「そういえすっかり忘れてたけど、一ノ瀬少年達はどうしたのかな?」
『マスターが出て行ってから、すぐに逃げて行きましたよ』
「逃がして良かったのかな」
『大丈夫です、薬は解析不能ですし、彼らも使用していたので、自分達を犠牲にしてまで警察に駆け込むような事はしないでしょう』
確かに、一ノ瀬少年達に自己犠牲の精神は難しいだろうな。
時間がきたので、続きは念話でする事にして家を出る。
『魔法使いは、何で権田達を助けたんだろうな?』
『何を言ってるんですか、魔法使いに助けるつもりなんてなかったと思いますよ。
実験台が欲しかったから、自分で調達しただけで、そこにたまたま権田達がいたから、違う実験に利用した。
そんな感じじゃないでしょうか』
『権田達は運が良かったって事か』
『悪運が強そうですからね』
『実験好きの魔法使いの目的は?』
『あの薬だけでは解りませんね、魔法使いは戦うだけじゃなく、学者や研究者の側面もありますから。
魔法使いの数だけ、得意分野があって目標があるんですよ』
『だから、本人に直接あって話を聞きたいんだな』
『そうですね、大体の予測は立てていますので、その確認ですね。
話を聞いた後は、マスターの好きにして下さい』
『俺の好きにって‥‥』
スケさんには何でも見透かされてる様な気がする、知らなければ見て見ぬふりも出来たけど。
『警察に魔法使いを捕まえられると思うか?』
『無理でしょうね』
『だよな、本物の魔法使いだもんな』
『マスターなら大丈夫です、ダンジョンで強くなる時間がありますから』
『俺、一応吸血鬼と戦えるようにステータス上げた時よりも、強くなってると思うんだけど、魔法使いってそんなに強いの?』
『吸血鬼は弱点が多いので、真祖でもない限り戦い方次第で、ステータスが負けていてもなんとかなります。
魔法使いと呼んでいますが、正体不明の相手です、解っているのは、銃弾が効かず、数人をあっという間に倒せて、死体を消す、魔法の様な事が出来る事。
情報が少ないので、他に何が出来て、何が出来ないのか判断が出来ません』
『解らないから、取りあえず俺が強くなるしかないって事か』
『はい、まだまだマスターに死んで貰っては困りますから』
正直、魔法使いなんて関わらなければ、こんな事を考えなくていいんだけど。
魔法使いは、吸血鬼事件よりも危険だ、ターゲットに暴力団とか表沙汰にならない相手を選んでいるし、権田達以外にも薬を配らせてるかもしれない。
魔法使いの目的も分からないけど、その目的が達成するまで被害者が増え続ける。
退くつもりはないけど、スケさんの好奇心を満足させる為に、危ない話に首を突っ込んでしまったな。
そんな事を考えながら仕事をしても、問題なく仕事が出来るのは、プラス知力値のお陰だ。
無事に仕事が終わって、権田と会うためにゲームセンターに向かう途中で、大事な事に気がついた。
『スケさん、権田と会うなら、ウサギの被り物どうしよう?
ゲームセンターの前で被っても正体バレちゃう、バレないくらいの距離から被るのは恥ずかしいし』
『そういえばそうですね、やっぱり正体がバレるのは嫌ですか。
勿体ないですけど、スキルで解決するしかないですね、我が儘なマスターには困ったものです』
『なんで我が儘なんだよ、俺は俺の生活をこれ以上壊したくないだけだし』
『わかりました、条件に合うスキルを考えましょう』
約束の時間までは余裕があるし、じっくりとスキルを吟味する。
結局、スケさんに薦められたスキル隠密2000ポイントと、俺が面白いと思ったスキル透過3000ポイントを取得した。
約束の時間少し前、俺はゲームセンターのある建物の屋上に上がっていた。
路地裏とかでウサギの被り物を被って、隠密を使えば周りから認識されなくなるとスケさんは言うが、隠密を使っても自分では、周りからどう見えてるのか分からない。
本当に気づかれないのか心配になったので、路地裏から隠密を使って壁を駆け上がり、屋上に来たわけだ。
ここでウサギの被り物を被って透過を使う、使った瞬間足から屋上の床の感覚が消えて落下した。
透過は名前の通り物質を透過する、光や熱、重力などは対象外なので、下にあるゲームセンターに着く直前に自分に魔眼を使って速度を落とし、無事にゲームセンターの床に着地した。
透過を解くタイミングが上手くいって良かった、間違って床に足が埋まったら格好悪いからな。
天井から降って来た俺に驚いて、権田達は言葉を失っている。
「『約束通り、薬と資料を取りに来た』」
俺が声をかけると、やっと正気を取り戻した権田が声を出した。
「やっぱり、兎さんも魔法使いなんですね」
そういう権田の顔は凄く嬉しそう。
「『勝手に判断すればいいと伝えたはずだ、俺は薬と資料を取りに来ただけだ』」
「そうですね、これが今手元にある薬と資料です、それとお願いしたい事があるんです」
「『なんだ?、変な事じゃなければ聞いてやる』」
薬と資料を貰うから、本当に変な事じゃなければお願いを聞くのに文句はない。
「ありがとうございます、実は大斧を動かして貰いたくて、俺達じゃ、抜く事も出来ないんです」
結構深く刺したからな、斧をあげるって言ったのに、あのままじゃあげた事にならないかも。
俺は斧の所まで歩いて行って、柄に手をかけると少し力を入れる。
パラパラと壁の破片が落ちるのを見て、力を入れるのを止めて、空間収納から別の斧を取り出した。
あのまま抜いたら壁が壊れてしまったかもしれない、考えなしに刺してしまった斧の事を権田に説明して、新しい斧で納得してもらった。
権田の文句も言わずに俺の説明に頷く姿は、逆に心配になったけど気にしない方がいい。
この建物全部が権田達の所有物だった事に驚いて、新しい仕事もここを拠点に始めるらしく、まだ殺風景な最上階の部屋に斧を運んだ。
今度は魔法使いに会う時に会う約束をして、俺は屋上から屋上に飛び移って帰った。




