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第2章1ー48
「あ、あの花はなんの花なのでしょう?」
「あの花はなんの花かな」
「もう少し近くに寄って、見てみましょう」
「揺れているね」
「なんのことでしょうか?」
「さあ、近くに寄ろう」
「あ、オジロトウネン」
「よそみをしないで」
「あの木は空から生えているのかしら」
「ほら、よそみをしないで」
「素敵な嘘をついてみて下さい」
「臆病猫さん。どんな嘘がお好きかな?」
「あなただけの、わたしのためだけの、嘘をついてみて下さい」
「あ、オジロトウネン」
女は、ブラックベリーと掃除機の間にある鉛筆に、ほくそ笑む。
「この花は鈴蘭。純潔のなかにこそ、伝い落ちるほどの甘い恋が、たくさん詰まっている」
「鈴蘭…。」
「この鈴蘭という花は、もしかしたら鈴蘭という花ではないかも知れないよ」
「では私は?」
「一人では分からない…。でも、二人なら分かる。必ず、分かる」
「必ず?必ず分かることなんて、この世界にあるの…」
「ある、必ずは、ある。ほら、もっとこっちにおいで」
「本当は、本当は…、二度と嘘をついて欲しくないのです」
「離さない…、お前を一度も離さない」
「もっと…抱きしめて下さい。強く、強く抱きしめて」
※続く




