第2章 1ー22
馬のリズミカルな蹄の音色が、四人のそれぞれの豊かな内界のなかで、翼を生やし、ペガサスとなって、艶麗な、弧を描きながら飛翔している。その外界と内界が、優美に溶け合う様子に、魅了されて、たくさんの戯れ合う天使達も集まってきている。なにやら、室温が上がり、騒がしくなってきた。四人が座る馬車には、実際のところ、その七倍か七十倍、それ以上の存在が、身を寄せ合っている。
アミ、ハマエ、カサ、ルタンとルタン軍はフェルマエに向かっていった。フェルマエまでは、かなり距離があり、数日がかりの旅になるが、ルタンにとっては、まことに好都合であった。
「アミさん、わたしは本当の名前が知りたいのです。ルタンという名前も大変気にいっておりますし、親から授かったこの名前を誇りにさえ、思っております。ですが、妙に、気になってしまうのです…。生命は奥深いものを宿しているように、わたしは感じます。ルタンという名前は、わたしの名前なのですが、わたしの生命の一部だけを顕している名前のように感じるのです」
これには、カサやハマエも共感するものがあった。言われてみれば、自分自身の生命を顕す名前は、他にもありそうな気がする。しかも、もしあるならば、その名前によって、自分自身の見知らぬ可能性や力を、見出だすことが、出来るのではないだろうか、と。周囲にいる天使達の目は、まんまるになっていた。どうやら、髪の毛がクルクルとした天使ちゃんも、モチモチ柔らかな肌は、チャーミングな愛と光で創られている天使くんも、興味津々のようである。天使の頬と天使の頬が合わさって、こすれあって、ぷ。
アミは言った。
「名前は、非常に重要な役割を持っております。ルタンさんが感じられているように、名前と存在、生命は、密接不可分であります。名前には、ひとつなる神のアイデンティティーや生命エネルギー、この世界で果たすべき役割、独創性、特色、それらの輪郭が、刻まれており、集約されているのです。起源をさかのぼれば、これは、ひとつなる神が、わたしたちを創造されたときに、名前を詠んで、創造されていった、という経緯があるからです。ルタンさんの生命体や魂の性質、今世でのお役目を顕す名前は、やはり、ルタンなのです。親は子に、名を授けるときは、いわば、預言者になるのです。また、ルタンさんは、あの世から、自身の親になる魂に、エネルギーを発して、働きかけ、親になる魂の人もそれによって、アイデアが閃きます。このように、相互的に成されていき、しかもそれらの交流の背後には、やはり神が介在されて、愛を持って、いざない導かれて、最終的に、名前が付けられるのです。ちなみにルタンさんの場合は、神様に創造された時の名前は、アミタオスです」
ルタンは「アミタオス」と、呼ばれたときに、世界の中心にまで、回転しながらワープしてしまって、そこから、あの逆立ちした泉が、全身全霊をボコボコとほとばしり、潤い、至福のエクスタシーに包まれた。このエクスタシーこそが、原初の神と共に在り、過ごした、黄金時代、浄福の生であろう。この浄福の生の定着こそ、私達の最終地点!以後、ルタンは、一大事な時があれば「アミタオス」と呼びかけ、自分自身を呼び覚ますことに、決めた。
ルタンは、その涙よりも、さらに涙ぐましい微笑みのまま、深々と頭を下げた。その様子を確認した、アミは、同じように、微笑みながら、さらに続けて言った。
「わたしたち人間は、日頃から頻繁に、名前を呼び合います。名前を呼び合うことにより、その存在達の本来の生命体に戻し合っているのです。まことの愛を持って、名前を呼びましょうね…。人は、なにか差し迫ったとき、心配する○○さん、愛する○○さんの名前を呼びます。これによって、その切なる想いは、神に誠意として認められ、呼ばれたその人には、必ず、神の祝福が、注がれます。名前を呼び合うと、生命体同士のエネルギー活動や交流が産まれます。私達は、意識化することが難しいかも知れませんが、遠くに離れていても、エネルギー交流は行われており、このようなテレパシーというものは、私達が思うよりも、ごく当たりまえに、日々行っていることなのです」
カサのしなやかな髪には、宇宙のエネルギーが集約されていた。カサの容姿容貌の美しさは、神の栄光、神の不動なる真実を讃えている。この美しさはなにより、カサの内界の美しさによって、形成されいる。外界は、内界を現している。カサは、このようなポジショニングを大宇宙マンダラのなかで、置かれている。そのカサの口元から、創造の息吹きが、吐露されていく。
「ふと誰かを思い出したりすることも、きっと、テレパシーのひとつなのでしょうね。わたしたちは、誰かを想い出したとき、その人の為に、祈る機会を神様に与えられたと、みなすべきでしょう。このことは人に限らず、ある特定の場所や土地などもそうですし、山々、花、木々、泉、海、動物などもそうです。この世界は、皆、見えない赤い糸で結ばれ合っているのですから」
※続く




