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080 アオダイショウ狩り


 【転移】を使ってラグランジュ王国からブラス王国に戻る。

 朝食を終えてすぐだから、教会に隣接した公園に出たところで、歓迎の広場に向かった。花屋の食堂には昼過ぎに向かおう。できれば午後に狩をして野ウサギをお土産にしたいところだ。

 歓迎の広場に来たところで、朝早くから店を出していた屋台でジュースを買う。

 たまに飲んでいるジュースなんだけど、原料は何なんだろう?

 パインのようなオレンジのような不思議な味なんだよね。

 ジュースを手に、広場を見渡せるベンチに腰を下ろした。良い具合に樹の枝が影を作ってくれる。


「初心者装備の冒険者は余りいないね?」

「そうねぇ……。少し様子を見たら狩りに出掛けましょうか!」


 あまり戸惑いを見せる冒険者もいないようだ。新規にレムリア世界に足を踏み入れるプレイヤーが減ったということなんだろうか?

 そうなると、私達は次の場所へと移動した方が良いのかもしれないね。


「帰って来たんだね!」


 聞きなれた声に後ろを見ると、ダンさん達が立っている。アンヌさんがタマモちゃんの頭を優しくなでているけど、マモちゃんがイヤイヤをしているのは子供扱いされたくないのかな?

 とりあえず私達も立ち上がり、ダンさんの後に付いてテーブルのあるベンチへと移動することにした。


 ダンさんからの話題は、例の侵入者についてだった。やはり完全に根絶やしにしたとは思っていないらしい。


「グリューン王国では、すでにそんなことが起こってたのか。向かった先がラグランジュだったのは気の毒だけど……」

「既にレムリアに根付いてしまったと考えられます。町や村の治安が問題になるんでしょうね」

「一応、捕り手の増員を行ったそうよ。村にも交番を置くことにしたらしいけど、警邏の方は少し動きが鈍いわね」


 確かに警邏さんの仕事ではないと思うけど、捕り手さん達の補完は警邏さん達の筈だから、増員した方が良いんじゃないかな?


「NPCの冒険者にその役をさせようというのが上の考えなんだ。モモちゃん達にもお願いしたいところなんだけど……」

「モモちゃん達をこの世界に送り込んだ電脳が分からないの。モモちゃん達に指示することができないから、お願いということになるんだけどね。今まで通り、一か月銀貨20枚でお願いしたいの」


 思わず、タマモちゃんと顔を見合わせることになった。

 私達をこの世界で暮らせるようにしてくれたイザナギさんの願いでもあるし、それぐらいはタダでやってあげようと思ってたんだけど、専業化するのはどうなんだろう?

 タマモちゃんが私の顔を見つめて小さく頷いた。

 私に任せるということなのかな? それなら……。


「まだこの世界の全てを見たわけではありませんし、プレイヤーのお手伝いもあります。今まで通りの暮らしを続けて、不審な人物に出会った時には警邏さんに連絡するということでは?」

「モモちゃん達は拠点を持たない冒険者だからねぇ。それが妥協点ということになるんでしょうね。トラペットで暮らして欲しいけど、それが叶わないとなれば、それが方法かもしれない。今までもいろいろと協力してくれたんだから、あまり欲を出してもね」


 アンヌさんの言葉にダンさんも頷いているところを見ると、それが落としどころぐらいに思っているのかもしれない。


「そうなると、モモちゃん達の次の行先が気になるんだけど?」

「知り合いがトランバーから北上して帝国に向かってます。西の帝国への玄関口までは【転移】で行けますから、今度は東回りで旅をしてみようと思ってます」


「ベジート王国から帝国を目指すのか……。王都の警邏事務所には、ミライだったかな?」

「マリナも頼りになりそうよ。私から連絡しておくわ。王都に行ったらミライ達を訪ねれば状況を教えて貰えるわ」

「ベジート王国で活躍する冒険者達の平均的なレベルは13前後だから、何かあるなら手伝って貰うのも手かもしれない。その時は警邏に任せてくれればギルドへの正式依頼として対応してくれるはずだ」


「よろしく頼むよ!」と言って、ダンさんは私達を残して広場に向かった。

 私達も出掛けようかと腰を上げようかと思っていたら、数人の冒険者が私達に向かって歩いてくる。

 彼らに手を振っているのがダンさん達だから、何かアドバイスをしたのだろうか?


「あのう……、モモさんですか?」

「ええ、そうですけど?」


 話しかけてきた男性が笑みを浮かべて、仲間達に振り返る。


「立ち話もなんですから、座ってください。それで、御用は?」

「ああ、済まない。ちょっと待ってくれ。ほら、お前達も座った、座った」


 私よりも少し年上の男女5人組だ。男性2人は革鎧に長剣と大きな両手斧。私と似た革の上下に弓を持った少年に女性2人は丈夫そうな布の上下ということは魔導士もしくは神官というところだろう。


「トラペットにやってきたのは3日前なんだ。町の周りのスライムと野ウサギを狩って、昨日でレベル3になった。そろそろ町から離れて狩をしようと思ったんだけど……」

「『町を離れるなら、あそこの2人に相談したら?』と言われたの」


 前衛2人に後衛が2人、中衛だっているんだからかなり贅沢なパーティ編成だと思う。このまま町から離れても問題なさそうに思えるんだけどなぁ。

 ダンさん達の忠告に素直に従ったということは、無謀ではなく慎重派なんだろうね。きっと上位プレイヤーの中に入っていくんじゃないかな?


「ダンさんは、貴方達を早く上位パーティの中に入れたいんでしょうね。私の助言無しでも貴方達の編成なら問題なく狩りができると思います。でも、その中で比較的高い経験値を持つ獲物を狩るということになりますが?」


「デメリットは?」

 大きな斧を持った男性が問いかけてきた。


「あまりデジットが得られないの。でも、最後にイノシシを狩れば宿代ぐらいにはなるんじゃないかな」


 5人が顔を見合わせる。装備はどうにか初期装備から出たところだから、高額で取引される獣を狩りたかったのかな?

 しばらく顔を見合わせていたけど、やがて同じタイミングで小さく頷いた。同意はどっちに向いたんだろう?


「狩りの指導をしてくれませんか?」

「良いのね」


 5人が同時に小さく頭を下げる。同じ冒険者同士なんだから、上下の関係はない。狩る獲物のレベルが異なるだけだ。

 彼らの礼儀は狩りの先輩への敬意ということになるんだろうな。


「それじゃあ、狩りに出掛けましょう。狙うのはアオダイショウよ!」

 私の言葉に再び彼らが互いの顔を見合わせる。首を捻ってるけど、結構美味しい経験値なんだよね。


 南門を抜けて、真っ直ぐ南へと歩いていく。

 バイトを稼ぐなら東の三本杉の先になるけど、経験値なら南の湿地帯だ。湿地帯へ足を踏み入れると別の獲物がいるんだけど、今回はアオダイショウだから荒れ地と湿地帯の境界付近が狙い目になる。

 途中の灌木を切って3本の杖を作り、お姉さん達と自分で使うことにした。

 お礼を言ってくれたけど、これで狩ることになるとはまだ思っていないんだろうね。


 少し距離があるから、1泊2日の狩りになってしまうけど、沼地近くに小さなセーフティ・ゾーンがあるから安心して野宿ができる。

 1時間ほど歩くたびに休憩を取る。3時間ほど歩くと、やがて荒れ地が草丈のある植物で覆われてきた。

 草原の中に点在する小さな岩山の1つに集まってアオダイショウ狩りの説明をすることにした。


「この草原は奥行きが300mもありません。その先は湿地帯になるんです。アオダイショウは湿地ではなくこの草原にいるんですが、誰か【探索】と【鑑定】をっ持っていますか?」

「【鑑定】なら、レビーとグレスが持っている。【探索】は俺とケニーだ」


 後衛の魔導士と神官が【鑑定】で、リーダーの戦士とレンジャーが【探索】ってことね。1つのパーティでダブルで持っているのも感心だし、前衛と偵察もできるレンジャーが【探索】を持っていることも都合が良い。


「【探索】の使い方は分かるでしょう? 大きさで選択することもできるけど、一度獲物を狩れば次はその得物に近い獣を選択することもできるのよ。ということで、最初は私達がアオダイショウを見付けて狩をするから、それを参考にして狩れば要領よく狩れると思うんだけど?」

「先ずはお手本ということですね。それに【探索】はそんな使い方が出来るんですか……。大きさを特定できることは、野ウサギとスライムで納得してたんです」


 リーダーの戦士がうんうんと頷いたところで、タマモちゃんに目を向ける。

 小さく頷いてくれたから、すでにアオダイショウを見付けてくれたんだろう。


「それじゃあ、始めます。タマモちゃん、どこにいるの?」

「あそこにいるよ。単独で何かを狙ってるから動かないけど」


 【探索】スキルを使うと、視野に獲物の位置が赤い輝点で表示される。遠くは無理だけど200m程度まで使えるから狩りの必需品なんだよね。

 タマモちゃんが教えてくれた場所に輝点があるから、先ずは炙りだしてタマモちゃんに引導を渡して貰おう。

 

 【火炎弾】の届く距離までゆっくりと歩く。

 30mほどの距離に近付いたところで、【火炎弾】を放った。

 草むらの中で【火炎弾】が爆ぜると、ニューとアオダイショウの首が延びて周囲を伺っている。私に頭が向くと同時にアオダイショウが草むらを滑るように移動してくる。

 直ぐに岩山に向かって駆けだした。

 アオダイショウは獲物に向かって真っすぐにやって来るから、性質が分かれば倒すことに苦労はない。


 数秒ほど駆けたところで、後方から鈍い音が聞こえてきた。

 振り返った私に、笑みを浮かべたタマモちゃんが立っているのが見えた。タマモちゃんの一球入魂で瞬殺されたみたいだ。


 2人で岩山で狩りを見ていた冒険者のところへ向かう。

 驚いているお姉さんや腕を組んで頷いている戦士達だけど、要点は分かってくれたんじゃないかな。


「あんな感じで狩るんです。アオダイショウはちょっと攻撃すると向かってきますから、それをカウンターでし止めるんですが、出来そうですか?」

「タマモちゃんの棍棒は野球のバットだね。あれなら納得できるけど、俺達でも一撃で倒せるんでしょうか?」


 レベルの違いによる攻撃力の差を気にしているのだろう。でも隣の戦士が笑みを浮かべているから既に対策は考えているみたい。


「レベル3でしたよね。少なくとも2撃は必要でしょう。私は【火炎弾】を直撃させてませんが、直撃させることができたなら物理攻撃は楽になりますよ」

「確かにそうですね。先ずは全員でやってみます。余裕が出来れば2つに分けても何とかなるかもしれません」


 今度は、5人組の狩りが始まる。タマモちゃんに周辺の監視を頼んで、私は彼らの狩りを見守ることにした。

 最初に魔法攻撃を後衛の2人が放ったところで、教えた通りにカウンターで倒している。両手斧の攻撃はかなりのものだ、2撃で何とか倒しているからこのまま狩りを進めても問題ないんじゃないかな。


 3匹倒したところで、5人パーティが2人と3人のパーティに分かれる。

 長剣に弓と魔導士、両手斧に神官なんだけど、神官は【氷の矢】が使えるみたいだ。

 少し手間取っているし、2撃で倒せないんだけど何とか無難にこなしているように見える。

 互いに2匹を倒したところで岩山に戻ってきた。

 そろそろ昼食時ということなんだろう。


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