079 ナナイさんの興味
泉を拠点に数日の狩りを楽しんだところで、グラナダの町に戻ることになった。
荒れ地をあちこち巡ってみたけど、キメラを倒した後は不審な魔物を見掛けえることも無いからこれで終了となるんだろう。
数日間の狩りも、それを確かめるためのようだ。
途中のセカンド・ペズンで一泊して、グラナダに戻った時には夕暮れが迫っていた。
出掛ける時とは異なり、のんびりとした旅だったからね。
グラナダの広場でバーニイさん達と別れて、ブラス王国に戻ろうとしたらアズナブルさんからの使いの者が現れて、私達はそのまま屋敷へと向かう羽目になってしまった。
堅苦しい晩餐会に出ないといけないのかなぁ……。それが嫌だから早々に帰ろうとしたんだけど。
「よくやってくれましたね。まだ、アズナブル殿は戻らないのですが、モモ様達をそのまま御帰ししたら、私が叱責を受けそうです。略式ですから気にせずにお召し上がりくださいな」
「はあ……」
私達を出迎えてくれたのは、軍装姿の麗人だった。
思わず「ラスカル様」とタマモちゃんが言ってたけど、それって別のアニメだよ。でも、確かにそんな雰囲気なんだよね。
「ナナイ殿はお戻りになられたのですか?」
「南のキメラが討伐されたなら、その者達に感謝は必要でしょう? 本来ならアズナブル殿なのでしょうけど」
ナナイさんって、軍の人なんだよね? お付き合いについて私がとやかく言うことはないけど、美人な人は色々と得するのかもしれないな。
食事をしながらバーニイさんが顛末を報告する。
ナナイさんは、笑みを浮かべながら頷いているだけで問いかけることはない。
最後に纏めて問うのかな? でもバーニイさんの報告は簡潔だけどしっかりしている。問題はないようにおもえるんだけどね。
タマモちゃんは、クリスさんと小さな声で話しながらお食事中だ。
深入りするのは避けてるのかな?
「キメラ討伐後、4日の狩りで何も異常が無ければ南は問題はありませんね。ご苦労様でした」
「東はまだ片付かないのでしょうか?」
「ファルベン王国側に問題があるようですから、ラグランジュ側としては備えたままの状態が続くでしょう。でも、だいぶあちらも落ち着きを取り戻しているようです」
越境してまで侵入者を狩ることは無いということなのだろう。
その辺りは、レムリアの世界観が王国制であることにも関係しているようだ。軍の越境は王国間の紛争に繋がるということなんだろうね。
「でも、私はタマモ様の黒鉄に興味が湧きました。人形と異なって自律思考が可能であるように思えます」
確かに、バーニイさん達の人形はバーニイさん達が動かしているというのが実情だ。おかげでバーニイさん達は自分の身を守ることがかなり難しく思える。いつも後方で障害物を背にしていたんだよね。
でも、タマモちゃんのしもべである黒鉄はタマモちゃんの指示を受けて、その範囲で自律行動をとっている。
タマモちゃんは、『攻撃開始!』と指示してるだけだ。戦闘が終われば、勝手に戦闘開始時の状態に戻っている。
「できれば、そのコードを開示していただけるとありがたいのですが?」
「黒鉄は貰ったものだから、どこで作られたか分からないよ。呼べばやって来るだけだもの」
イザナギさんから貰ったものだものね。たぶん私達にたずねる前に可能な範囲で調査をしてるんじゃないかな?
残っているのは、自衛隊の電脳暗いかもしれない。さすがにイザナギさんであるスパコンには手を出せないだろうし……。
「使えるけど、出何処は不明と……。不満ですけど、仕方がない話ですね。タマモちゃんだけが使えるとなれば、詳しい話をモモ様に聞くこともできません。そうそう、私からタマモちゃんにお土産があります。これをお渡ししましょう」
部屋の隅で控えていた侍女が小さな箱を持ってきた。食事の終わったタマモちゃんの前に置くと、タマモちゃんに小さく頷きかけて下がって行った。
私に顔を向けて開けたタマモちゃんは、開けて良いのかを聞いているみたいだ。ここは確認した方が良さそうだね。タマモちゃんに向かって小さく頷くと、笑みを浮かべて箱の蓋を開けている。
「これって! 人形?」
「先行試作品ですから型番はありませんが、『キュブレム』と命名しました。プレイン姉妹用にと考えていたのですが、試作品ですから1体のみですし、どちらに渡してもケンカしそうですし……」
「よろしいのでしょうか? 人形使いの【スキル】を私達は所持しておりませんが」
「使えばその内に所持できますよ。それほど難しくはありません。腕に魔道砲を仕込んでありますから【火炎弾】を放てますし、片手剣を腕の装甲の中に仕込んであります」
でも、タマモちゃんならそれ以上の戦闘力を持ってるんじゃないかな?
何と言っても、一球入魂の打撃は強力だからね。
「ありがとうございます!」
タマモちゃんが嬉しそうに箱に人形を戻すとバッグに収納した。
たぶん、私達の状況を監視できるような機構が組み込まれてるのかもしれないけどね。
「今夜は泊って行ってくださいね。ブラス王国には明日になったからで良いでしょう? 既に日も暮れてますし」
「戻って宿を探すのも考えてしまいます。申し訳ありませんがお言葉に甘えさせていただきます」
お茶が切れたところで、バーニイさん達は警邏事務所に帰ることになったのだが、私にと銀貨3枚を渡してくれた。
ヒクイドリは良い収入になったんだろうね。
「ラグランジュに来た時には警邏事務所に寄ってくれよ」
「結構遠いですけど、【転移】が使えますから、また狩りに行きましょう!
手を振って別れたけれど、次に会う時も恋人同士のような気がする。クリスさんの頑張りに期待しましょう。
「まだ休むには早いでしょう? 少しお話しできないかしら」
「レムリア世界の詳しいところは私にも分かりませんよ?」
遠回しに、専門的な問いには答えられないと伝えると、ナナイさんが笑みを浮かべる。テーブルにはいつの間にかワイングラスが用意されている。もちろんタマモちゃんにはジュースだけどね。
「私が一番興味を持ったのは、モモ様達がNPC冒険者であることなの。レベルや上位職は何とでもなるけど、モモ様達はまるでプレイヤーのようにこの世界で生きてるのよね」
「NPCはレムリア全体で1千万を超えると思います。どうやってこの世界の住人として暮らしているのかは分かりませんが、私達もその中の1人ですよ。とはいえ、大規模なイベントには参加できないようなので、裏方に徹していますけど」
ナナイさんは片手でワインを飲み、右手をテーブルの少し上で躍らせている。たぶん個人用の情報を確認する仮想スクリーンを展開しているのだろう。
「なるほど……。北の王国では参加してますが、正面での戦闘には参加してなかったということですね。私の方でも色々と調べてみました。ここだけの話しとして質問に答えてほしいのですが? 侍女は部屋を去っていますから、この部屋を中心に10m以上には誰もおりません。 私からの問いは……。モモ様は既に亡くなっているのですか?」
リアル世界にまで調査の手を広げたということなのかな?
何の特技もない、寝たきりの私の存在にまで、よくも辿り着いたものだ。
「答えないといけませんか?」
「今のが答えですね。ありがとう……。少し見えてきました。でも、人形に応用は難しいかもしれませんね? そんなことをしたら非人道的な話になるでしょうし」
この人、かなりのマッドらしい。
まさかとは思うけどね。それに成功するとも限らないことだ。
「だいじょうぶです。私の専門はオートマタですから、人体実験なんてことはしないつもりです。でも、人形の制御についてはヒントを得られた感じですね」
ナナイさんは騎士団の制服姿だから、自衛隊の人の筈だ。
アズナブルさんは民間人の筈なんだけど、どこで接点があるのだろう?
「アズナブル殿の財団からの援助で、私の研究が行われているのですよ。この世界で使える人形があの程度では、後々の戦に支障が出るでしょう。何事もなければラグランジュで警邏を続ける御人ですけど、万が一の時には……」
レムリア世界を背負うつもりなのかもしれない。
だけど物騒な魔道兵器を作ってるんだよねぇ……。何事もなければレムリア世界の覇者を目指しそうでもある。
その時には、私達で止められるんだろうか?
「人形は魔道具ですから、箱に納めておけば少しの傷なら自己再生します。でも、たまに私のところに持ってきていただけると幸いです」
「定期点検ということでしょうか?」
「調整は必要です」
調整だけということは無いのだろうけどね。
とりあえず頷いておこう。ナナイさんも私の危惧は知っているようだ。
話が終わった頃には、タマモちゃんは既に半分目が閉じている。
寝落ちしない内にお風呂に入り、大きなベッドに横になった。
疲れているのか、直ぐに睡魔が襲ってくる。この世界で睡眠が必要なのはNPCだけなんだろうか?
明日は早めにトラペットに帰って、歓迎の広場で一日のんびりしていよう。




