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065 グリューンに向かって


 キラキラの正体は、水の反射だった。

 この世界ならそれぐらいしかないだろうから、驚くことにはならないのだが……。

 湖なんだろうか? 水面のすぐ下に水草がずっと奥まで繁茂しているのを見ると、湖にしては浅い感じもする。

 たぶん水底までは数mもないんじゃないかな? 


「赤い街道って、真っ直ぐじゃなかったんだね?」

「これじゃあねぇ。でも街道を石畳で舗装するぐらいの財力があるんだったら、真っ直ぐな道だって作れたんじゃないかな」


 堤防のような道を作らなかった理由は何だったんだろう?

 赤い街道は、湖の岸辺を北に向かって伸びている。この湖を半周するのかな? 


「あれ!」

 タマモちゃんがGTOの足を止めて湖の彼方に腕を伸ばした。

 そこには、首を長く伸ばしたヘビのような姿があった。


「何だろう? ヘビとも違うよね」

「恐竜じゃないかな? 優しそうな目をしてるから危険は無さそう」


 こちらに近付いているような感じだ。草食恐竜の一種かもしれないけど、大きいからねぇ……。全長20mは超えてるんじゃないかな?

 当然、あの恐竜を狙う肉食恐竜もいるに違いない。この湖に街道を通さない訳はその辺りにありそうだ。


 タマモちゃんは、もうしばらく恐竜を見ていたいらしいけど、ここは早めに湖を迂回しよう。

 タマモちゃんの肩をポンポンと叩いて、先を急ぐことにした。


 湖畔に近い場所を赤い街道は北に延びている。

 今まではまっすぐだった街道だけど、湖の湖岸に沿って作られているから微妙に曲がっているんだよね。

 でも、この方が何となく街道のような感じがするな。

 水場に近いから街道の左右の風景も緑が一杯だ。森もあるのだが、林より木々が豊かになったばかりだから、うっそうとした森になるのは遥か先に違いない。


「あそこに、休憩所があるみたい!」

「ちょっと休んでいこうか? 高台だから、湖が良く見えるかもしれないよ」


 GTOで休憩所に入ったら、先客の荷馬車が3台小さな広場に停まっていた。

 小さな焚き火を囲んでいた人達が慌てて立ち上がり武器を構えようとしたので、甲羅から飛び降りてGTOを帰還させる。


「なんだ、使役獣だったのか! 驚いたぞ」

「お嬢ちゃん達2人なの? お茶があるわ。こっちにいらっしゃい」


 冒険者のパーティが護衛に着いているみたいだ。

 ちょっと頭を下げたところで焚き火近くに行くと、冒険者達が私達に席を開けてくれた。

 とりあえず自己紹介を済ませると、お弁当のサンドイッチをここで頂くことにした。


「それにしてもカメとはなぁ……。オオトカゲに乗ってた奴も見たことはあるから、驚くことは無かったんだが」

「あんなに大きくなかったからな。魔獣使いがパーティにいればできるんだろうが、魔獣使いを選ぶプレイヤーは限られてるぞ」

「最初が苦労するみたい。私の友人もオオカミを使役できるようになって初めてパーティに参加できたと言ってたわ」


 適当に頷きながら昼食を頂く。

 プレイヤーの中では獣魔使いは、あまり評判が良くないってことなんだろう。

 タマモちゃんは最初からレベル10の技能を持っていたけど、私達が全くの初心者だったらだいぶ苦労したに違いない。


「レンジャーに獣魔使いではこの先はどうかな? 王都に向かうんだろう?」

「ラグランジュ王国まで足を延ばそうと思ってるんです。その町のギルドに到着を登録すれば【転移】がつかえますから」

「そういうことか! それも手だな。俺達も護衛を終えたら、少しずつ範囲を広げてみるか」


 仲間達が嬉しそうな表情で頷いている。

 街道警備だけではゲームを楽しむことができないということなんだろう。でも、ものは考えようだ。新たなルートの荷馬車の護衛を請け負えば、懐を傷めずに新たな土地への足掛かりを作ることができる。

 このパーティは攻略組に加わることは無さそうだけど、ちょっとしたイベントには積極的に参加することになるんじゃないかな。


 昼食が終わったところで、休憩所の奥にあるベンチに腰を下ろしたタマモちゃんは双眼鏡で湖を眺めている。

 さっきの恐竜は消えてしまったけど、また何か見付けたみたいだ。


「嬢ちゃん達は2人で組んでるのかい? 出来れば他のパーティに合流した方が良さそうだが?」

「ずっと2人でやってきましたから……。ところで、グリューンはまだ先なんでしょうか?」

「荷馬車なら、もう半日だな。グリューから北に街道が1つ伸びて王都に向かうんだ。赤い街道を進めばプルパということになる」


 今日はグリューンまでということになりそうだ。冒険者達に礼を言って、タマモちゃんを呼び寄せる。

 

「いろいろいるみたい。この湖はおもしろい場所だよ」

「後で何か起こるのかな? その時にグリューンの町が役立ちそうね」


 イベントの仕込みがあるということなんだろう。これだけ大きな湖なんだから1度ということにはならないだろう。シグ達も移動手段を考えておかないと参加できなくなるんじゃないかな?


 湖から赤い街道が少しづつ離れていく。

 周囲に緑が少なくなったところで小さな小川が見えてきた。

 小川の掛った石橋を渡ると、途端に周囲の景色が荒れ地へと変貌する。こんなに変わるわけがないんだけど、ゲーム世界ということで妥協することになりそうだ。


「あれがそうかな?」

 タマモちゃんの肩越しに前方を見ると、荒れ地の中に緑の林が広がっている。低木の林から石造りの尖塔や、建物が顔を出している。


「まだ日が傾かなないね。着いたら散歩してみようか?」

「冒険者も多いみたい。何を狩ってるんだろうね?」


 赤い街道の南北で何組かのパーティが狩りをしている。街道から離れているけど大型の獣ではなさそうだ。

 ファルベン王国の始まりの町は、グリューンということになるのだろう。近くに湖があるのは少し問題だけど、良い狩場が周囲に広がっているんだろうね。


 林に入る前にGTOから下りて街道を歩く。直ぐに林が切れて、目の前に高い石垣と門が姿を現した。

 林から石垣までは20mほど距離があり、草原になっている。石垣沿いの見通しが良いから、獣や魔物の侵入をいち早く知ることができるだろう。


「止まれ! 冒険者だな?」

「ブラス王国のトラペットから来ました。西に向かって旅をしてます」

「ほう……。先は長いぞ。だが、腕の良い冒険者ならグリューンは歓迎する。入っていいぞ。ギルドはこの通りを進めば右手に見えてくる」


 門番さんに礼を言って、門の内側の広場に足を進めた。

 それほど広くはない広場だけど、荷馬車なら10台は停められるだろう。物流拠点として使われているようで、広場に面して大きな商店が並んでいる。

 広場から真っ直ぐ西に延びる大通りを歩いていくと、途中に南に延びる通りがあった。この先に南門があり、その手前の広場が歓迎に広場ということになるのかな?

 とりあえずは、ギルドに向かい到着の手続きを済ませたところで、警邏事務所の場所を聞いてみる。


「グリューンの歓迎の広場は南門の傍にあるの。歓迎の広場の一番北にある建物で、3階建てだから直ぐに分かるわよ」

「ありがとうございます。ついでに宿を紹介して貰えませんか?」

「それなら、『緑の牧場』がお勧めよ。歓迎の広場の西の通りの突き当り。時計で言えば、9時の位置に通りがあるわ」


 頂いた町の地図を見ると、歓迎の広場には4つの通りがあるのが分かる。大通りに繋がる12時方向と南門に繋がる6時の位置の通りは大きいけど、3時と9時の位置にも通りがある。小さな宿屋やお店が並んでいるに違いない。いわゆる職人街ということなんだろう。


 ギルドのお姉さんに御礼を言って、大通りを引き返す。

 直ぐに南に向かう通りがあったから、先ずは歓迎の広場を見に行こう。


 直径50mほどの広場の中心には噴水が上がっている。

 トラペットの歓迎の広場とそれほど変わることがない。この辺りは運営側も調整したのだろう。ちょっとした違いは、さっきからタマモちゃんがジッと眺めている警邏事務所のテラスに設えたテントだった。


「『熱烈歓迎!』って書いてあるね。賑わってるみたいだから、相談窓口って感じなんだろうね」

「あまりにも相談が多かったとか?」

「スキルや装備で悩んでるプレイヤーも多いのよ。トラペットではそんな相談に乗ってたことがあるもの」


 広場のベンチに腰を下ろしてるより、積極的にお手伝いするということなんだろう。それだけ運営側もプレイヤーに気を配っているみたいだけど、担当する王国ごとに方法が異なるというのもおもしろいね。

 

「お前達は2人なのか? どうだ、俺達のパーティに入らないか」


 後ろからの声に、思わず振り返った。

 私と同じ年頃の男性3人のパーティだ。見るからに戦士という姿の3人ならば、後衛職を探すことになるんだろうけどね。


「申し訳ありませんが、このまま2人で楽しみます。それに戦士3人にレンジャーと魔獣使いが加わっても上は目指せませんよ」

「魔法が使えるかと思ってたんだけどなぁ……。だけど、後衛職には十分だと思うんだ。俺達はL6になってる。2人が加われば他の町に出掛けられそうだ」


 確かに、魔法使いまでは行かずともレンジャーや魔獣使いは魔法も使える。攻略組を目指さないならそれでも行けるだろうし、レイド戦の時には他のパーティと合流する手もあるんだよね。

 ここは正直に話しておいた方が良さそうだ。


「私達はβテスト時代から暮らしてます。現在のレベルは16ですから2人で十分に狩りをすることができるんです」


 3人の口がポカンと開いた。

 かなりの驚きだったんだろう。見た目はL5程度にしか見えないんだからね。

 

「も、申し訳ない。それほどレベルが上だったとは知らなかったんだ」

「気にしてませんから、だいじょうぶですよ。でも、レンジャー職に目を付けたのは正解だと思います。魔獣使いもそうですけど、【探索】のスキルを持っているはずですからね。狩りには役立ちますから、是非探してみてください。その上に、魔法使いか神官を仲間にできれば上位も夢ではないはずですよ」


 私の言葉に3人が頷いている。

 聞く耳を持っているということは、ゲームではかなり役立つことなんだよね。【スキル】ということではないけど、それがあるのとないのではゲーム開始後1カ月もすれば違いが見えてくるはずだ。


 私達に頭を下げて去っていく3人に手を振っていると、ちょっとケバイ感じのお姉さんが近づいてきた。

 何となく、逃げた方が良さそうに思えたので、タマモちゃんの手を握った時だ。


「ひょっとして、モモちゃん達かしら?」


 名前を知っている? 思わずタマモちゃんと顔を見合わせていると、お化粧と香水の匂いが私達を包んできた。


「そうなのね。こっちに向かったと聞いたから待ってたんだけど、まさか警邏事務所を素通りしようなんて考えてはいないでしょうね?」


 ドスの効いた声は、完全に男性の声なんだけど……。見た目はお姉さんなんだよね。

 ひょっとして、シグが言ってた『男の娘』という人なのかな?

 私達をジロリと見てるのは疑ってるということに違いない。

 考えてたけど、ここは首を振ってそんなことはないとアピールしておこう。

 タマモちゃんも泣き出しそうな表情で、懸命に首を振っている。


「そう? なら、案内するわ。コーヒーぐらいはサービスするわよ」


 一体誰なんだろう? こんな人がいるなんて誰も教えてくれなかったんだよね。


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