064 接触したかも
「侵入系統は遮断したそうだ。その時点を持って、侵入者の活動は強制遮断されたことになる。侵入者の行動をトレースしたところ、やはりNPCと接触が疑われるな。厄介なことに、疑われるだけで確証がない」
タケシさんが困った顔を私に向ける。
別に私が悪いわけじゃないよね?
「他の王国も、監視を強めてるみたいね。監視の度合いはブラス王国が一番だけど、隣のラグランジュもそれに次いでるの。驚いたことに魔国も動いてるみたい」
「魔国の担当は……、ヤンだったか? あいつは、策士だからなぁ。石橋をたたき壊して隣に橋を駆ける男だ」
それって、策士じゃなくて用心深いだけなんじゃないかな?
でも、策士だから用心深いということを言いたいんだろうか?
「全ての王国が動いているとなると、私達がこれで終わりと安心してるのも問題じゃないかしら? ブラス並とはいかないけど、ジュピトル帝国だって警邏の巡回パーティを増員してるのよ。中間的な措置を取って様子を見るべきでしょうね」
「できるのはその辺りだろうな。所長には俺から具申しておくよ。無策の裏をかかれたら責任を取るのは所長になるからな」
自分達の組織の保身のためということなんだろう。でも、それは既得権益というより、自分達の職場がそれだけ楽しく生きがいを感じているということなのかな?
「ノルマと思えば辛くなるが、自分の生きがいを感じれば職場は楽しいところだ……」
お酒を飲んだお父さんが良く言ってたっけ。
私とタマモちゃんもこの世界で生きがいを見つけたいと思うけど、とりあえずはファルベン王国を何とかしないといけないのかなぁ。
「参考に教えて欲しいけど、モモちゃん達ならどうする?」
「私は冒険者ですからお手伝いはしますけど、対策を考えるのは運営側だと思ってますよ。とはいえ、2つ考えないといけないんじゃないかと……」
個人的な意見として聞いてもらおう。
1つはNPCによるPKだ。これは直ぐに分かるはずだからあちこちの王国もそれの起こるのを待って直ぐに対処しようとしているのだろう。
だけど、私はもう1つ他の行動も警戒しないといけないと思っている。
「PKギルドだって!」
「リアル世界でストレスを貯めたら、PKをしたくなるんじゃないでしょうか? 単独であれば、VRMMOの世界では必要悪ともとれるでしょうけど、集団を組むと厄介です。その構築を侵入者がNPCに指示したとしたら……」
タケシさん達だけでなく、周囲にいた警邏さん達も私の説明を聞いて驚いている。
中には頷いている人もいるみたいだから、可能性は高いということなんだろうか?
「秘密結社ということかしら?」
「レムリア世界の内部崩壊を狙うってことか? それが、ファルベン王国から始まったとなれば所長の責任だけでは済まされないぞ!」
「増員申請をすべきじゃないですか! それと、空き家の巡回やフィールドで拠点となりそうな場所も確認すべきでしょう」
私達を囲んだ警邏さん達も、厳しい表情になっている。
でも、これは私の危惧であって、それが実際に進行しているという確証はないんだけどね。
「問題ね」
「問題だ。レムリア世界のゲーム進行が外乱でとんでもなく変わってしまう。それに、表面化することがあれば信用問題になりかねない。俺達の会社だけでなく、日本という国家そのものの信用低下に発展するぞ!」
ゲームだけなら、問題ないということなんだろう。確かにリアル世界には影響はない。
だけど、国家が絡んだゲーム世界で他者の関与が容易に出来るということは、国家経済にも外部から介入ができるということになる。
脆弱なシステムしか構築できないような国家では、国際信用は低下するということなんだろう。
案外、大きな国が相手なのかもしれないね。
「一番考えられそうなのは、多国籍企業によるVRMMO運営ということかしら?」
「その辺りは、上部の仕事じゃないのか? 俺達はレムリア世界の秩序を保つことに努力すればいい」
自分の殻に合わせてということなんだろうな。そうなると、私達はどうすればいいんだろう? とりあえず危機意識は持ってくれたようだから、このまま西を目指しても良さそうなんだけどね。
「私達がお手伝いすることもなさそうですから、このまま西に向かいたいと思うんですが、他の王国の警邏さん達に伝えることはありませんか?」
2人が急に私に顔を向ける。
さっきまでは小声で色々話してたんだけど、私の言葉がちゃんと聞こえてたんだ。
「運営サイドの通信網では頼めない案件ということかな?」
「上部を通さなくとも、横の繋がりはあった方が良いんじゃないかと」
「そうね。確かに大事なことだわ。レムリア世界を東西に結んでいる馬車に頼むのも方法ではあるけど、モモちゃん達に頼んだ方が早いかな?」
「ちょっと待ってね!」と言いながら、バッグから筆記用具を取り出して何やら書き込み始めた。
あまり長い文面ではないけど、2通をしたためて、封筒を私に渡してくれた。
「これはお駄賃になるかな? ラグランジュのアズナブルさんとブラスのカノンさんに渡してくれない」
銀貨3枚はタマモちゃんが受け取った。
「ありがとう!」とお礼を言ってるけど、西の端に向かった後は、ブラス王国の王都に行かなくちゃならないね。
ルミコさんの計らいで警邏事務所の客室に泊まらせてもらい、翌日はホールで警邏さんと一緒の朝食をご馳走になる。
「本当にすみませんでした」
「良いのよ。浮わついてた私達も気を引き締めることができたしね。それに、モモちゃんの話は上で問題になってるみたい。能力のない上司を持つと苦労が絶えないわね」
食後のコーヒーを頂いていると、お姉さんが私達にサンドイッチを届けてくれた。私達の水筒にもお茶を改めて入れてくれたから、これは弁当ということだろう。
「それじゃあ、良い旅を続けてね」
「ありがとうございます。手紙はちゃんと届けます」
私の言葉に、ルミコさんが笑みを浮かべている。
あまり長居すると、上司の愚痴を聞かされそうだから、早めにブラウ町を後にしよう。
席を立って、警邏さん達に頭を下げると事務所を後にした。
「次はグリューンの町なんでしょう?」
「緑の町ということなんでしょうね。この町はブラウだから青になるのかな?」
英語の発音に似ているね。でも、プルパというのはどんな色なんだろう?
警邏事務所から北に向かって通りを歩き始めた。
冒険者のパーティとすれ違うことが度々だ。彼らは南門から荒れ地に向かうんだろうな。
十字路に出ると今度は左手に曲がり西に向かって歩き出す。既に赤い街道の上なんだけど、町の中の石畳は赤くないんだよね。
西門前の大きな広場は、荷馬車や馬車で賑わっている。
客を呼び込む御者や、荷馬車に荷物を積み込む人達の声が離れていても聞こえてくる。
「嬢ちゃん達はグリューンに向かうのか? だったらこの馬車だ。運賃は1人5デジットでいいぞ!」
「私達は別に足がありますから!」
既に馬車には10人以上乗り込んでいるみたいだ。私達が乗る場所なんてないように思えるんだけど、御者の目にはそう見えないんだろうねぇ。
タマモちゃんと顔を見合わせると、互いに首を振ったところで足早に馬車を後にした。
西の門も立派な作りだ。
単に石を積み上げただけでなく、彫刻まで彫られている。それだけ豊かな町だということになるんだろう。
昨日は気が付かなかったけど、東の門にも装飾が施されていたに違いない。
特産物は何だろう? 農作物だけではないんじゃないかな。
「武器や防具を屋台売りしているよ!」
「使えそう?」
「一球入魂の方が上みたい」
初級装備より2つほど上の品揃えということかな?
冒険者達が足を止めて品定めをしているところを見ると、値段もそれなりということなんだろう。ブラウは鍛冶で名を上げた町ということなのかな。
「西に行くのか? 馬車か、荷馬車の護衛を引き受ければ良いものを……」
「急いでいるんで、もっと早く進めるものを使うんです」
門番さんは私の答えに首を捻ってるけど、馬でも使うのかと思ってるんじゃないかな?
GTOは馬よりも速いし、途中で休むことも無い。
地上走行では、他の追従を許さないんじゃないかな?
「そろそろ、GTOを出すよ!」
「お願いね。できればグリューンを通り越してプルパに向かいたいな」
「野営するんでしょう? 良い場所を探すね」
現れたGTOの甲羅に乗って、私達は西を目指す。
GTOをタマモちゃんに任せて、私は周囲の状況に目を向けるのはいつものことだ。
冒険者が赤い街道の近くで狩りをしてるなら、甲羅の上からでも良く見えるんだけど、今日は全く見掛けない。
冒険者の狩りは町から数km圏内だからかな? 既に10km以上は進んでいるはずだ。もし冒険者を見ることがあったなら、荒野で野営をしたパーティということになるだろう。
「何だろう? 向こうがキラキラしてるよ」
タマモちゃんの声に、彼女の肩越しに顔を出して前方を眺めると、遠くがキラキラと輝いている。
広範囲に輝いているとなれば……。
「湖があるのかも! さすがに川ということは無いだろうけどね」
「道はどうなってるんだろうね?」
「かなり先だから、もう少ししたら様子が見えてくると思う」
湖なら岸辺に沿って赤い街道が延びているはずだ。
さて、この先はどうなるんだろう?




