表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/153

063 ファルベン王国の最初の町


「流れが結構あるんですね?」

「そうだよ。落ちたら流されてしまうし、結構大きな石が沈んでいるんだ。泳げる者でも助かるのは稀だと聞いたことがありますよ」


  良い身なりの年かさの男性が教えてくれた。

 2人程の供を連れている商人のようだ。ブラウ町への買い出しに行くのだろう。


「ついこの間まで、大きな魔物がこの川にいたんだが、異人さん達が力を合わせて退治してくださった。おかげで川下の渡し舟を使わずにブラウに行けるようになりました」

「たいへんだったんですねぇ」


 こちらにも大きなイベントがあったらしい。大きな魔物がどんなものかはわからないけど、どんな戦いをしたんだろう?

 タマモちゃんも気になるようで、いつの間にかおじさんの話を真剣に聞いているんだよね。


「魔物を退治した異人さん達はその足でブラウに向かったから、ブラウのギルドで詳しい話を聞いたらいいよ。お嬢さん達もブラウで働くんだろう?」

「用事を済ませたら、すぐに西に向かいます。赤い街道をどこまでも行ってみるつもりです」

「ほう! ……若いということは羨ましい限りですねぇ」


 大きく目を見開いたから驚いたに違いない。間をおいて言葉を繋いだけれど、頷きながらの言葉は、自分には出来ないことだと理解したのだろう。


 そんな話をしている内に、渡し舟は対岸の桟橋に到着した。

 リバーサイド村の桟橋は岩盤を削ったように作られていたけど、ブラウ側は樽を浮き代わりに使った桟橋だ。ちょっと頼りない気もするけど、こちら側の流れは緩やかだから出来ることなんだろう。

 浮き桟橋からは板で陸地に橋が架かっている。


 木の橋を渡ると直ぐに赤い街道が始まる。

 ひょっとして昔は大きな桟橋が作られていたんじゃないかな?

 大陸の南に作られた3つの王国は、かつては1つだったらしい。その当時の物流の要になる赤い街道の維持は国家事業であったはずだ。

 それが分断されたとすれば、維持もままならないだろうし、防衛の要ともなるか川にあっては大きな桟橋を作るのは問題だったということなんだろう。

 変なところで気を配った世界構成なんだよね。


「大きいね!」


 タマモちゃんが、門の前で立ち止まり石垣を見上げている。

 確かに王都並みの石垣だ。でも、2人で立ち止まって見上げているから、門番さん達が口を押えて俯いている。

 タマモちゃんの手を引いて、門をくぐろうとした。


「冒険者だね。ギルドカードを見せてくれないか?」

「はい。トラペット発行のカードです」

「よし。確認したぞ。まぁ、大きな町だから驚くのは無理はないが、大通りの真ん中で立ち止まって見るようなことはしないでくれよ」


 隣の門番さんと一緒になって笑いあっている。お上りさんに見えたんだろうけど、そんなに笑わないでも良いと思うな。

 でも、真っ直ぐ行けばギルドがあると教えてくれたから、親切な門番さんではあるようだ。


 とりあえず教えられたとおりに大通りを進み、ギルドで到着報告を行う。これでブラウ町への【転移】が可能になるから、行き先々でギルドに顔を出すことになるんだよね。


「すみません。警邏事務所の場所を教えてくれませんか?」

 

 警邏事務所はブラス王国ならギルドの近くにあるんだけど、ファルベン王国は異なるようだ。


「警邏事務所は南門の近くにあるんです。冒険者の多くが南の荒野で狩りをしますからね。場所は……、ここです。この先の十字路を左に曲がって真っ直ぐ行けば、小さな小川の橋を渡った先ですね」

「この橋が目印ですね。ありがとうございます」


 冒険者が集まる場所に近いということで事務所を構えたんだろうけど、それなら冒険者ギルドを広場に近い場所にした方が良かったんじゃないだろうか?

 同じ運営サイドの人達なんだけど、会社の部署が違うのかな? お父さんが「部署が違えば別会社」だと言っていたのはこういうことなんだろうね。


 夕暮れ大通りを西に向かって歩くと、すぐに十字路に達した。左手に歩き始めると、大通りよりは道幅が狭くなったが、十分荷馬車がすれ違える幅はある。

 食堂や宿屋が看板を出し、店員さんが看板近くにランプを掲げ始めた。まだ客足はまばらなんだけど、直ぐに大勢が押し寄せるんだろうな。


「これが橋なのかな?」

 人工の堀に掛かった全長2mほどもない石橋だけど、欄干もある立派な橋だ。

「橋だと思うよ。短いけどね。警邏事務所は……、これだね!」


 確かに橋を渡った先にある。

 3階建ての立派な石造りだから、周囲の風景から浮いているんじゃないかな?


「今晩は……」

 

 警邏事務所の扉を開けて、とりあえずはご挨拶。

 どこの事務所も1階の作りは同じに見える。大きなホールにいくつかのテーブル席。奥にはカウンターを隔てて事務机が並んでいる。


「おや、可愛らしいお客さんだね。PKというわけじゃなさそうだ。意地悪な冒険者に出会ったのかな?」


 奥のテーブルに座っていた男性が席を立って私達のところにやって来た。

 近くのテーブルに案内してくれながら話しかけてくれたんだけど、どうやら苦情を告げに来た来客と勘違いしたらしい。

 とりあえずテーブル席に着くと、お姉さんがお茶を運んできてくれた。男性の隣に腰を下ろしたから、バディを組んでいるのだろう。


「トラペットのモモとタマモです。侵入者の対応を終えたところで、西に向かって進んでいます。このまま西に向かいますが、できればファルベン王国の状況を教えて頂けませんか?」


 私の言葉に2人の笑みが消えた。周囲のテーブルで様子をうかがっていた警邏さん達の表情も一気に真剣な表情に変わっている。


「本部から話を聞いた時にはどんな偉丈夫かと思ってたんだけどなぁ……。こっちも大変だったんだ。もっとも、一番活躍してくれたのは騎士団ということになってるけどね。やってきたのはこいつらだ。ブラス王国と同じかな?」


 大きな仮想スクリーンを開いて映し出してくれたのは、ギリシャ風古代戦士だ。思わず、目の前の警邏さんに視線を移す。


「他は?」

「他だって?」


 疑問に疑問で返されたけど、かなり驚いている。

 ガタガタと椅子が鳴り、他の警邏さんが男性達の後ろに立ち始めた。


「ブラス王国は違ったのか?」

「騎士団が戦ったのは、この種族だと思います。ですが、騎士団のレンジャー部隊と、私達が交戦したのは……。タマモちゃん、画像を出せる?」

「出せる。スパルトイとドリアードのお姉ちゃんの戦い画像」


 交戦時の画像って、撮れるの?

 別の疑問が出てきたけど、それは後でも良い。先ずは、ブラウ王国にやって来た連中を教えないとね。

 お姉さんが席を立って、タマモちゃんの個人データスクリーン操作をアシストしている。面倒なのかな? 私には最初から無理だけど。


「これで良いわ。皆、よく見てね!」


 映像は5分程度の短いものだった。

 その映像を食い入るように警邏さん達が眺めている。

 映像が終わっても、誰も仮想スクリーンから目を離さないんだよね。やはりこの王国にはスパルトイ達は現れなかったということなんだろうか?


「至急、取り逃がした数を洗ってくれ。それとその後の調査をドローンで行ってるはずだ。不審な画像が無かったか再調査を始めるんだ!」


 後ろの方から男性の指示が飛ぶと、テーブルを囲んでいた警邏さん達の姿が消えた。残ったのは、目の前の2人と椅子を自ら運んでテーブルに着いたお父さんよりも年上に見える男性だった。


「話には聞いていたが、これほどとはね。この警邏事務所の所長をしている緑川だ。こっちの警邏はタケシとルミコだから、この件については2人に任せよう」

「ですが、俺達のレベルは15ですよ? この敵と戦うには少し心もとないところがあります」

「私の権限で2つは上げられる。それぐらいあれば足手まといにはならんはずだが?」


 2人が頭を抱えている。

 確かにレベルが2つ上がれば、今までとは段違いの身体能力になる。でも、スパルトイは私達のレベル20でどうにかだったんだよね。

「後は頼んだよ!」と言って、所長さんが席を外した。残ったのは私達4人なんだけど、さてどうするのかな?


「本部は、NPCへの乗り移りを危惧してたのね。こっちは騎士団の報告を鵜呑みにしてたみたいだから、その後の調査はいつも通りなの」

「だが、今のところはPKも発生していないぞ? 単なる可能性だけであって、そこまで心配することは無いんじゃないか?」


 タケシさんの言うことも理解できる。

 だけど、NPCの冒険者だけでも1国で1千人を超えるんだよね。その内の何人が交戦区域に近い場所で活動していたかの調査だけでも時間が掛かりそうだ。

 

「一応、NPCにも交戦区域周辺への立ち入りを禁止していたんでしょう?」

「それが出していないんだ。NPCなら王国の法律には忠実だから、俺達の活動はプレイヤーに限定していたんだよ」


 警邏本部は、各国の警邏事務所に対してどんな指示を出しているんだろう? これって責任問題にも発展しそうにも思えるんだけどなぁ。


「とはいえ同じレムリア世界の住人同士ですから、プレイヤーが廃人化することはありません。PKに出会ったということになるでしょうけど、NPCを襲うようなら問題です」

「NPCの数は、適正配置と聞いた。確かに数が減るのは問題になるし、NPCの死に戻りは別な人生を歩むことになるからなぁ……」


 心配はたくさんあるけど、先ずは現状の調査を待つしかなさそうだ。

 事務の人達が目の前に仮想スクリーンを数枚展開して、忙しそうに状況の確認を行っている。

 とりあえずはお茶を頂いて、タケシさん達からファルベン王国の状況を聞いてみよう。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ