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061 NPCの安全を守るには


「歓迎の広場が賑わってたようだぞ。また異人さん達がたくさんやってきたようだ」

「一時期のように、仲間を奪い合う様子もなかったが、プラカードを持って仲間を募集していたと弟子が言ってたな」


 職人のお爺さん達が、そんな話を肴にワインのカップを掲げている。

 いつもの職人街の夕暮れ時の様子だ。

 レムリア全体が危機的状況だったということは、この界隈の住人には全く知られていないのだろう。

 でも、新たなレムリア世界の住人がまた増えたということなんだろう。私も早いところ西の端の探索を終えて、本来の仕事をしないといけないんじゃないかな……。


「モモちゃん達も元気でやっとるようじゃな? 弟子が心配しておったぞ。ワハハハ……」

「とりあえず元気ですよ。お爺さん達も体には気を付けてくださいね!」

「気を付けおるぞ! そんなわけでワインをお代わりじゃ」


 まったく、いつも通りの元気な親方達だ。笑みを浮かべてワインのお代わりを運んであげた。

 お客さん達が食堂を出たところで、私達の食事が始まる。

 メリダさんが取り分けておいた夕食だから、お代わりが無いんだよね。

 少し遅めの食事が終わると、ライムちゃんがタマモちゃんを連れて裏庭に向かった。どうやらお風呂を裏庭に作ったらしい。


「3日前から警邏の連中がドタバタしてたようだし、モモ達が帰って来たというのも気になるところだけどねぇ」

「大がかりなPKのようなものです。一応、終息はしてるんですけど、しばらくは町の住人の行動に気を付けた方が良いのかもしれません。警邏さんや捕り手さんがそれなりに目を配ってくれるとは思うんですけど」


「魔族とか言ってたね。呪われたということなのかい?」

「そんな感じです。突然PKを始めるかもしれません」


 大勢が集まる場所は特に気を付けねばなるまい。広場、市場、商店……。色々あるから困ってしまう。少なくとも1か月は状況を見守るべきだろう。


「市場が問題かもしれないね。ライムに食材を頼んでるんだよ」

「異人の冒険者に頼むのも手かもしれませんよ。食事を報酬にすればやってくれると思うんですが」


 NPCにも死に戻りはあるんだけど、前の生活に戻れないのが問題だ。その点、プレイヤーであれば歓迎の広場に死に戻ることができる。

 同じレムリア世界の住人になるから、リアル世界の本体が廃人になる恐れも無い。


「タダというわけにはいかないだろうけど、1人娘だからねぇ。異人さんも増えたらしいからたのんでみようかねぇ……」


 メリダさんの呟くような声に、小さく頷いて賛意を示しておく。

 東に逃走した侵入者は約10体らしいけど、私達が倒したのは2体だけだ。強制的に侵入経路を遮断したとしても、その間の時間が結構長いんだよね。やはりNPCの何人かは洗脳されたと見といた方が無難だと思う。

 問題は、洗脳されたNPCが行動を起こさない限り見極めが出来ないということだ。ダンさん達は、さぞかし頭を抱えこんでいるんだろうな。


 翌日は朝食を済ませたところで、歓迎の広場の片隅にあるベンチに腰を下ろしてプレイヤーの様子を眺める。

 万が一にもPKに会ったプレイヤーが出たら、状況を確認してダンさんに知らせよう。

 とはいえ、私達の心配を他所に、広場には楽しそうなプレイヤーばかり目に付くんだよねぇ。


「退屈になっちゃうよ!」

「今日は我慢かな? 明日には出掛けようね。【転移】で移動できるから、西の王国手前までは直ぐに行けるよ」

「それなら、我慢する……」


 そう言って、広場の屋台で買い込んだポップコーンを1個摘まんで口に放り込んだ。

 あまり食べると喉が渇くんじゃないかな?

 一応、ジュースのカップを目の前に置いているようだけどね。



「ここにいたんだ!」


 ダンさんの声に振り返ると、アンヌさんと一緒に立っていた。

 アンヌさんがテーブル越しの席に着いたところで、ダンさんが屋台に向かって走っていく。何を買い込んでくるのかな?


「昨日はご苦労様。今のところは異常はないみたいね?」

「気になって、私達もずっとここにいたんです。潜ったと思われます」

「やはり……」


 状況は事態の終息を告げているけど、勘が危機状態の継続を告げている。

 アンヌさんが仮想スクリーンを使って、何やら調べ始めた。

 その隣に、ヨイショ! と言いながらダンさんが座る。テーブルの上に紙袋を置いて、いろんな駄菓子を取り出した。


「モモちゃん達も遠慮しないでほしいな。昨日は色々と手伝ってもらったから、少しはお返しをしないとね」


 さっそく、タマモちゃんが串焼きの串に手を出している。

 ちゃんと「ありがとう!」と言ったからお行儀的には問題ない。私も釣られて手を出した。


「さすがにモモちゃんね。挙動不審のNPCを発見したみたい。捕り手に後を任せたと報告があったわ」

「それなら町に入る前に何とかなりそうだな。何をそんなに悩んでるんだ?」

「モモちゃん達は既に入り込んでいると考えてるの。私も何となくだけど、そんな心持よ」


 ダンさんが吃驚して私とアンヌさんの顔を交互に眺めてる。

 次に、広場にたむろしている人達を眺め始めたけど、直ぐに見つかるとも思えない。


「本当なのか? 前と同じように思えるんだけどねぇ。とはいえ、少しプレイヤーが増えたみたいだな」

「足止めした反動でしょうね。直ぐに分散するとは思うんだけど、さてどうしようかな?」


 アンヌさんもダンさんと一緒に広場を眺め始めた。でも人を見るではなく、その人がどんな人かをどうやって探るかを考えているのだろう。


「いろいろと考えなくちゃなりませんね。単独なのか、それとも徒党を組むのかで対応は変るでしょう。でも、幸いなことにプレイヤーは死に戻りできますから……」

「NPCは別の人生を歩むことになるのよ。作られた人格だけど、この世界ではいきているんだから」


 アンヌさんの言葉に、深く頷いた。

 まさしく、それが一番の問題でもある。町や村のNPCの数は、町の機能を維持する必要数に1割にも満たない裕度を加えたものだ。

 NPC狩りでもされた日には、プレイヤーへのサービスに重大な支障が出てしまいかねない。

 町にたどり着いた冒険者が、食事ができない、宿泊できない等の事態が出たりしたら、プレイヤーの苦情で掲示板が賑わいだすだろうし、運営側の経営問題としてやり玉にあがるのは容易に予想できる。


「運営の方でも考えてくれてるんでしょう?」

「当座は千人単位のNPCを確保すると言ってはいるのよ。でもねぇ……、それは後始末であって、対策ではないよね」


 トラペットだけでも1万人を超えるNPCがいることを考えれば千人ではとても持たない気がするな。大きなテロが発生したら、たちまち底をついてしまいそうだ。


「冒険者にも監視の依頼を出そうと考えてるの。対処までは無理だと思うけど、やらないよりはマシよ」

「警邏の巡回班から5つをフィールドに出すことにしたんだ。捕り手の方でも町の中を巡回してくれるそうだ」


 監視を強化するということなんだろうけど、長期化すると別の問題が出るんじゃないかな?

 警邏さん達の増強だって視野に入れる必要が出てきそうだ。


「だから、モモちゃん達も早めに帰ってきてね。何といっても、モモちゃん達の故郷はこの町トラペットなんだから」


 真面目な表情で私達に話してくれたから、タマモちゃんと一緒に頷いた。

 確かに、私達はトラペットから冒険を始めたのだ。メリダさんの花屋の食堂で暮らしていた設定もできてるし、そういう意味ではこのトラペットが故郷になるのだろう。

 タマモちゃんとの出会いも、この広場だったからね。

 

「あのう……、この町の人ですよね? 冒険者になろうと思ってるんですが、どのように始めたら良いか分からないんです。アドバイスを頂けるとありがたいんですが」


 広場の片隅でプレイヤーを眺めていることに気が付いたのかな。

 見れば、高校生と小学生の男女5人組だ。話掛けてきた男の子は高校生かな? 後ろで小さく頭を下げた女の子と付き合っているのかもしれない。その周りであちこち眺めている子供達は弟や妹なんだろう。


「冒険者と自覚すれば、立派な冒険者よ。え~と、戦士が2人に魔導士も2人。お姉さんは神官だよね。バランス的には問題ないけど、最初から野犬を狩ろうなんて考えないでね。先ずはこの広場から大通りに向かって……」


 冒険者ギルドでの登録と、ギルドでの簡単な依頼を受けることを教えてあげた。

 先ずはスライムと野ウサギ、少しずつレベルを上げて野犬やイノシシを狩る。町の城壁が見える範囲で狩りをするように教えたから、すぐに死に戻りをすることは無いだろう。

 私達に頭を下げてお礼を言いなっがら、大通りに向かって新人の冒険者達が歩いて行った。


「まだまだプレイヤーは増えそうだね」

「顧客数を1千万人と見込んでいるんだから、これからもどんどん増えるわよ。プレイヤーの増加に合わせて町の周辺にいくつもの村を解凍してるんですもの」


 町を取り巻く衛星のような村は、町の人口を優に超える数のプレイヤーを収容できるらしい。

 小さなイベントやクエストを用意しているらしいから、後発組でも十分にレムリア世界を楽しむことができるらしい。

 でも、私達はそんなイベントに出会うことが無いから、プレイヤーだけを選択して用意しているのだろう。

 

 結局、夕暮れ近くまでアンヌさん達と一緒に広場で過ごすことになってしまった。

 明日は、早めに町を発とう。

 GTOで真っ直ぐ西に向かえば、そんなに時間も掛からずに西の端を見ることができるだろうし、帰ってくる頃にはその後の進展を教えてくれるんじゃないかな。


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