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059 アラクネ現る


 トラペットの町から北に10km向かった場所で、東西に長く罠を仕掛けたらしい。

 トラペットを囲むのではなく横に長くしたのは、すでにプレイヤー達が荒れ地に出ているからに違いない。

 赤い街道から北側への立ち入りを禁止しているとはいえ、約束を守れない人はどこにでもいるものだ。北に10kmならば歩いて2時間は掛かるから、警邏さん達がそんなプレイヤーに注意を与えるのにも都合が良いのだろう。


「どうにか間に合ったわ。後は掛かるのを待つだけね」


 先行組と簡単な打ち合わせをしていたアンヌさんが、テーブルを囲んでいた私達に笑みを浮かべる。

 でも、どうなんだろう?

 案外見落としがあるんじゃないかな? そもそも侵入者達の目標をトラペットとした上での作戦だから、真っ直ぐに東に向うとなればまったくの無駄足になってしまうんじゃないかな。


 仮想スクリーンに周辺の地図と罠の設置状況を映し出して、警邏さん達がコーヒーを飲みながらにんまりしている。

 ムスッとした表情で仮想スクリーンを眺めている捕り手さん達は、私と同じくこの罠を信用していないのだろう。


「見失った時刻を考えると、そろそろやって来ると思うのですが……」

「侵入経路の遮断は昼過ぎには可能だろう。その間に接触する可能性がある者は?」


 仮想スクリーンに青い輝点が数十個表示された。

 現在屋外で活動しているNPCということになるのかな。


「冒険者として自由に活動しているNPCです。彼等への連絡はトラペットの冒険者ギルドで行えるだけですから、現在もこのような状態になっています」

「NPCとしての行動はいつも通りなのか?」

「個々のデータに変化はありません。とりあえず無事と考えています」


 レムリア世界の人物が、プレイヤーとNPCでどれだけ異なるのだろうか?

 あまり見分けがつかないこともあるんだよね。

 私やタマモちゃんだってNPCなんだけど、シグ達は私達をプレイヤーと同じだと思っているんじゃないかな?

 それを思うと、警邏さんが調べたNPCのデータは表面だけを捕らえているようにも思える。既に何人かが洗脳されているとしても、それを確認する術を持っていないんじゃないだろうか?


 突然大きな音が聞こえてきた。


「掛った!」


 誰が言ったかは分からないけど、その声に私達は一斉にテントの外に飛び出した。

 穴から地表に出て、張りぼての石の上に警邏さんの1人が飛び乗る。

 周囲を素早く眺めて、私達に腕を伸ばして方向を教えてくれた。


 1kmほど東で、真っ赤な土煙の中で蠢くのは、どう見てもメドーサに見えるんだけど……、蠢いてるのはヘビじゃないんだよね。


「なんだ、あれは?」

「メドーサモドキとでも名付けます?」

「言いづらいなぁ。『メドキ』ぐらいにしといたら?」


 名前は、相手を特定できれば十分だ。初めて見た魔物? なら適当に付けても問題は無いだろうし、一応はメドーサモドキを縮めた名前なんだよね。

 

「ちょっと劣勢だな。俺達が出掛ける。ダン達はこの場に残ってくれ」


 戦っている警邏さん達と比べると、直径2mを越える触手の塊のような存在だ。盛んに【火炎弾】を放っているんだけど、あまり効いていないように思える。

 【耐火】のスキルでも持っているのかもしれないな。


「あれだけではないってことか? となると次は西かもしれないな」


 ちょっとおっとりしたダンさんに軽く手を上げて東に走って行ったのは捕り手の人達だ。リアル世界では警察官ということだから、警邏さん達よりは安心できるね。

 捕り手の人達が一斉に長剣を抜いて切りかかっている。魔法でダメならと、長剣で触手を斬り払うつもりなんだろう。


 ドドォォォン!

 突然の轟音に、思わずタマモちゃんを抱きしめて張りぼての石の陰に身を潜める。

 あまり意味がない行為なんだけど、集団から離れるだけでも危険性は低くなるはずだ。

 警邏さん達が大声を上げながら武器を取り、魔法を放っている。

 恐る恐る喧騒が続いている方向に目を向けると……、いた!


「タマモちゃん。GTOであいつの周囲を巡りながら魔法を放って! 私は接近戦を仕掛けるから」

「上位職に変わっても良いの?」

「良いよ。だけど、一球入魂は使わないでね」


 タマモちゃんの枢機卿という職業は、司祭の更に上の職種らしい。L20で成れること自体がおかしいんだけど、この職業でさらにレベルを上げられるのかもしれないな。

 GTOを呼び寄せながら、自らも金色の光の中で枢機卿の装束を身に着けていく。


 さて、私も……。

 私を包む光が納まると黒装束に黒い頭巾、2本の短剣の代りに忍刀を背中に背負ったニンジャの私が現れる。

 ダンさん達が苦戦してるから、早めに助けないとね。

 

 罠に掛かった獲物は、全身に赤い塗料が付いている。

 東はメドキだけど、目指す獲物の姿はそれとは別のものだ。

 大きなクモの頭の部分に上半身だけの女性が乗っている。アラクネということになるんだろうか?

 裸というわけではなくチェインメイルを着込んでいるみたいだ。頭部にもスパルトイが被っていたようなヘルメットを付けて長い髪を背中に流している。

 体長は3m近くありそうだけど赤い塗料塗れだから、ちょっとみっともない。塗料を浴びる前に具現化したなら、案外神々しい姿になるんじゃないかな?

 とはいっても、現在は大きな鎌を両手で掴んでダンさん達と切り結んでいる。アンヌさん達が接近して【火炎弾】を放とうとしているのだが、8本の槍のような足に阻まれて、中々接近できないみたいだ。


「どいて、どいて!」


 タマモちゃんがGTOで一撃離脱を試みている。

 一度に2発の【火炎弾】を放つのだが、アラクネは軽快なステップを踏んで着弾を阻止しているんだよね。

 となれば、本体よりもクモの足をどうにかすべきだろう……。


 アラクネの上半身に向かって警邏さん達が長剣や槍で向かっていく。案外背中は無防備じゃないのかな?

 足音を立てずに、アラクネのクモ体に迫ると、足元に飛び込みながら忍刀で足を薙ぐ。

 素早く後ろに跳び下がると、さっきまでいた場所に別の足が突き刺さった。 

「後ろにも目があるの?」

 思わず口に出して呟いてしまった。


「お姉ちゃん、前後左右、全ての攻撃にこのお姉ちゃんは反応するよ!」

「死角が無いってことね。そうなると、全体の同時攻撃ということになるのかしら。警邏さん達の攻撃に合わせて、反対側から攻撃できる?」

「やってみる!」


 タマモちゃんは返事をしながら、アンヌさん達の反対側に移動していった。ダンさん達は接近戦のただ中だから、アンヌさん達魔導士の攻撃にタイミングを合わせるのだろう。

 さて、私もクモの足を狙ってみるか!

 最初と同じように気配を断ってアラクネのクモの体に接近する。結構動き回るから攻撃のタイミングを取る見極めが難しいんだけど、タマモちゃん達の同時攻撃に一瞬ステップが止まった。

 飛び込む勢いまでも忍刀の斬撃に加えると、槍のような足を1本切り取ることができた。

 もう1本無くせば少しは動きを制限できるだろう。

 アラクネの動きを見極めながら、少しずつ足へダメージを与え続けると、数回目の攻撃で2本目の足を切り取った。

 さすがに動きが少し不自然になって来た。

 ダンさん達との闘いは相変わらずだけど、タマモちゃんやアンヌさん達魔導士の攻撃がクモの胴体におもしろいように着弾している。

 でも、【魔法防御】のスキルがあるようで、あまり苦にしてはいないようだ。

 これは長く掛かるんじゃないかな?


 突然、クモの胴体に槍が突き立った!

 誰が投げたのかと槍の投てき方向をみると、GTOが全力で離れていく。

 タマモちゃんて、槍も使えたんだ。 上位職業の効果なのかな?

 再びGTOがアラクネ目がけて突っ込んでくる。数mの距離で方向を変えてるけど、その瞬間にタマモちゃんの手を離れた投げ槍がクモの胴体に突き立った。

 あれだけ大きな的だからねぇ……。となると、私もクモの胴体を相手にした方が良いのかな?


「これを使ってくれ!」


 警邏さんが放り投げてくれた槍は,私の身長よりも少し長い。先端はナイフのように横幅がある。

 タマモちゃんの3度目の攻撃に合わせて反対側から狙ってみよう。

 アラクネから10mほどの距離を取り、チャンスを待つ。

 ダンさん達の数が減っているのが気になるところだけど、治療魔法を使える魔導士もいるんじゃないかな? 先ずはアラクネを倒さねば……。

 

「エィ!」

 気迫を込めて、アラクネの胴に槍を突き差す。

タマモちゃんの攻撃よりワンテンポ遅れた攻撃だから、私のことは無警戒だったようだ。その上2本の足を失っているから動きが鈍い。

 50cmほど突き通した槍をねじるようにして引き抜くと再び突き入れる。体の向きが変わろうとしているのを知って急いで後ろに跳び退くと、さっきまで私がいた場所に鎌の刃が突き刺さった。

 まだまだ上半身の動きに変化はなさそうだ。

 

「とんだ怪物だな。仲間2人は始まって5分足らずの内にやられたよ。さっき3人目がやられたが、命はとりとめたようだ。……どうだ? なんとかなるか」

「アラクネだと思ってましたが、少し違いますね。糸を使ってませんし、アラクネは武器を持たないはずです」


「単なる怪物ではないと?」

「怪物に憑依したプレイヤーではないかと。軍人ではなさそうですね。向こうの世界では名の知られたPK犯かもしれませんよ」


 赤い塗料を浴びても、笑みを浮かべて警邏さん達と切り結んでいる。

 あれほどの動きで大きな鎌を振るえるんだろうか? どう考えてもPKを楽しむプレイヤーにしか見えないんだよね。


 そんな中、GTOが先ほどまで私がいた場所に向かって駆けていく。

 また【火炎弾】で一撃離脱を試みるのかな?

 

 どうなるのかな? とダンさんと一緒に眺めていたら、そのままGTOがアラクネに体当たりをした。

 ドン! という鈍い音がここまで聞こえた時には、GTOがアラクネから離れていく。

 だけど、私達はGTOよりもクモの方に目が行ってしまう。

 アアラクネの足は4対。片側に4本だ。私が2本斬り取ったから残りは2本。そのうちの1本がGTOの突撃で折れてしまったのだ。


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